2008年8月
夏休みもいよいよ8月に入った。
お舅さんたちも再来日して10日あまり経ったので、すっかり東京の暮らしをエンジョイしている。
先日、地震に託けて腹立ち紛れに旅行をキャンセル以来、どうも私の胸には後ろめたさが残っていた。
やはり1回くらい旅行に連れて行かねば、女房の面子もないし、私の株も下がる。
かといってこれから探して、果たして予約が取れるかどうか?この時期になって、そんな虫のいい話が転がっているとも思えなかった。
それが、あった!新聞を見ていたら1泊2日の蔵王温泉旅行、新幹線にも乗れて、福島牛の牛しゃぶ食べ放題ときた。前回は2泊3日、今回は1泊2日、これなら私の無言の抗議も半分は通したことになる。
女房は一も二もなく賛成、そんな選り好みをしている時間的な余裕はない。
その日の朝刊を見てすぐに電話したので、予約はツアー催行開始日の8月20日〜21日で取れた。
これなら旅行から帰ってきても、帰国までに1週間はあるからバタバタしないで済むだろう。よし、完璧だ!
この朗報を、女房はまたしても早々と御注進に階下へ馳せ参じに行ったようだ。
新幹線に乗れることや、牛しゃぶがいかに美味しいかを、得々と話している筈である。
牛しゃぶなんて、確か自分でも食べたことがないのに、ハッタリ咬ませていい加減な奴だ。
この前、実弟が差し入れを持ってきてくれた時、ちょっとした話の中でお姑さんが温泉好きであることを言ったら、それなら東京にも温泉スパが沢山あるから、案内してくれるとも言ってくれた。
それに個人タクシーをやっている友人が、上海からお父さんお母さんが来たのなら、一肌脱ごうということで、東京の夜景見物に回ってくれる話も出来ている。
まだある、東京でもちょっとは有名になった阿波踊り行進が、今年もまた盛大に最寄の駅前で行われる。
そんな訳で、お舅さんたちにとって8月は楽しみが目白押しで、忙しくなりそうだ。

メーン会場の国家体育場、愛称・鳥の巣・・・・静かに開幕を待つ |

中国人好みの派手な開会式・・・・CGを使ったという噂も |
お舅さんとお姑さんはいいコンビで、仲良く連れ立っては大体一日おきに自転車で出掛けた。
近所に有名なお寺があって、境内を歩くくらいならお金は取られないと教えたら、早速、観に行った。中国はどこの寺でも境内に入るだけでも拝観料を取るから、不思議だったんじゃないかな。
なんせ暑いから、翌日はデレ〜と休息。相変わらずエアコンも照明も点けず、階下の薄暗い部屋でテレビを見たりしていた。あまり暇そうなので、家の脇の雑草取りを頼んだら、仕事が出来たとばかりにすぐやってくれた。
こういう時は、まことに重宝でありがたい。
薮蚊に刺されながらの奮闘で、雑草の根まで綺麗に抜いてくれたから、当分はペンペン草も生えないだろう。
雑草取りも終わってしまうと、また家にいる時は無気力状態になるが、食事時になるとそれまでトロンとしていた目をパチッと開き、俄然張り切り出す。
お姑さんは我関せずとばかり、部屋の隅に寄り、日本にまで持ってきた英語の教材を広げて勉強を続けている。
孫が小学一年生になると同時に、英語係として教えるために始めたから、もう5年もやっているのだが、覚える傍から忘れて行くので、殆ど進歩していない。
それでも諦めずに続けるところは、さすがは親子、執念深さは娘の女房とよく似ている。
お姑さんのレベルでは、もうとっくに孫の授業進行に付いていかれなくなっているのだが、足手まといだろうが何だろうが、教えるという姿勢は崩していない。孫の甥っ子も、無碍に突き放すことも出来ず困っていた。
そんな変哲もない毎日が過ぎて行き、いよいよ北京オリンピックの開催が近くなってきた。
8月8日、中国は国家の威信を賭け、世界の目は中国に注がれる。
私くらいの歳になると、あと何回オリンピックが見られるだろうかに懸かってくるから、1回でもあだやおろそかには出来ない。私としてはこれを見るために東京へ戻ってきたといっても過言ではないのだ。
お舅さんたちの再来日は、寧ろそのついでということになるが、それは内緒の話である。
人々をあっ!といわせる、ど派手な開会式が始まった。
楽しみにはしていたものの、延々とマスゲームが続く単調な展開に、1時間もすると眠くなってきた。
ボクシングの世界タイトルマッチなんかでもそうだが、狭いリングで打ち合う姿は、ファンなら誰しも興奮した声援を送るところだが、私には寧ろ変化が乏しいモノにしか見えてこない。
それでいて勝負は目にも留まらぬ一撃で決まってしまうのだから、居眠りしていてハッとしたら試合が終わっていたなんてことはしょっちゅうなのだ。
始まって2時間も経ってから、ようやく各国選手団の入場行進。目はトロンとして、開けているのがやっとだ。
いつの頃だろうか?入場する選手団の列がぐちゃぐちゃになってきたのは。
デジカメでスタンドを逆撮りする者、隣同士話しながら歩いてくる者、誰もリラックスし過ぎて、これから世界の競合相手に戦うぞ!の意気込みすら感じられなくなってしまった。
閉会式は「お疲れさん!」の意味もあるから、まぁ良しとしても、開会式ぐらいキチンとした行進を見せてもらいたいものだった。
日本時間の午後8時から始まった開会式は、11時を過ぎてもまだ選手団の入場が終わっていない。
私は睡魔との戦いに敗れ、残りはビデオ録画にセットすると、早々に寝てしまった。
女房はオリンピックにはまるで関心がないという顔で、ひたすら為替のグラフと睨めっこをしていた。

女子の力持ちを競う・・・・うちの女房だったらと思うと背筋が寒くなる |

女子砲丸投げで優勝したニュージーランドの選手 |
翌日お舅さんに、昨日開会式を見たか聞いたところ、やはり全部は見ずに寝てしまったとのこと。
熱狂的な応援をすることで、すでに世界中に知られている中国国民だが、割と覚めた人もいるんだなと思った。
開会式翌日から競技は始まった。まずは日本人選手も出場する女子重量挙げだ。
始まったその日に金メダルの第1号が出る。選手にとっては成績の如何を問わず、あとはリラックスできるのだから、考えようでは後より先の方がいい。
競技が始まったのはいいが、お舅さんたちにとって中国人選手が出てこないから面白くない。
そりゃそうだ、私だって上海にいたんじゃ、日本人選手の活躍なんて見られないから、わざわざ日本へ帰ってきたのだ。自国の選手をメインに放送するのは、どこの国も同じってことである。
「この人は本当に女かい?」
重量挙げは金メダル候補の中国選手が出ていたので、テレビを見ていたお舅さんが不思議そうにそう言った。
筋肉隆々で、当たり前だが化粧っ気なし。噴き出る汗を拭おうともせず、一心に神経を集中させている。
そして女にあるまじき形相で、気合一発!一気に差し上げるべく青筋立てて息張る選手は、私でも一見男と見間違えそうであった。
「いいや、俺は信用しないね。脱いで見せてくれなきゃ、絶対に信用できないぞ」
珍しくお舅さんがジョークを飛ばした。いや、普段も相当言っているかも知れないが、女房が通訳してくれない限り、そこで止まってしまう。中国人は案外きつい冗談を言うから、その辺は女房の判断によるところが大きい。
お舅さんは重量挙げの放送が終わったら、また一人で自転車に跨り出掛けて行った。
お姑さんは具合が悪いと横になっていた。いつもならお舅さんと一緒に行く筈なのに・・・・・・・
心配になって声を掛けると、「大丈夫、大丈夫」という返事が返ってきたが、言葉に張りがなく弱々しい。
夕食になってもお姑さんの席は空いたまま。人一倍食べるのが好きなのに、可哀想としか言いようがない。
「お姑さんの具合はど〜お、まだ治らないの?」
「お母さんは部屋でお粥食べてるよ、大丈夫、2、3日すれば治るから」
女房がそう言うので、私も暑さと疲れから調子を崩したのかも知れないと、その時は考えた。
ところが2、3日しても症状は変らず治らない。むしろ苦しい度合いが強くなってきたようだと本人が言う。
お舅さんはいつもの腸炎だと言い張り、中国から持ってきた正露丸をせっせと飲ませている。
素人の思い込みや療法は、一歩間違うと却って大変なことになるのが分かっているのだろうか?
「これは病院に連れて行った方がいいぞ」
「お母さんの保険はどうするの?」
「保険なんかないよ、自費診療でやってもらうのさ」
「高いんでしょ」
「緊急だから、高いの安いの言ってられないよ」
自費診療となると病院によって金額はまちまちらしい。いわば値段があってないようなもので、病院から言われた金額をそのまま払うしかない。
昨今日本人だって、リストラに遭った中年が次の仕事が見つからず、止むを得ず健康保険料を滞納したら失効してしまい、具合が悪くても自費診療がネックになって病院にも行けず、そのまま手遅れで死んでしまうケースが増えてきていると、テレビのドキュメンタリーで放送していた。
「お母さん、病院へ行くぞ。さっ、支度して!」
「大丈夫だよ〜〜、日本の病院は高いんだろ〜」
「だってお母さんは保険がないから、全部自費で払うんだよ」
「それならいいよ〜〜、わたしゃ行かない、絶対行かないよ〜」
なにやら母娘で揉めているので、何と言ったんだと女房に聞いた。
「保険がないから、2〜3000元は払うかも知れないって、言っといたよ」
「ばかだなぁ、そんなこと言ったら、お姑さん行かないっていうに決まってんだろ」
私は今日の医者代云々を言ったんじゃない。
予想外の重症で、即日入院なんてことになったら困るなと言っただけなのだ。
もっとも、そんなことになれば動けない病人じゃないから、振り切っても戻ってきて、即、上海へ帰ると言っていた。
沈黙を守っていたお舅さんが、突然、「病院代は私が出すよ」と口を挟んだ。
いやいや、成り行きによっちゃ、いくら掛かるか分からない医者代を、お舅さんに払わす訳には行かない。
「そんなことは心配しないで、とにかく病院に行きましょう」
行かないとゴネるお姑さんを無理やりタクシーに乗せ、私の掛かり付けの病院へ急いだ。
| 2008年9月29日更新 次回まで中国ランキングのクリックよろしく。 |
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