16. ストップ・ザ・越南の旅

9章 桂林名物、璃江の川下り
璃江下り写真集
                                                     2006年11月の旅
 翌日の朝8時45分に南寧を立ち、桂林へと向かう。女房とも、もし越南行きが駄目だったら桂林を周るという話は出来ていたので、その点、次の行動は早かった。
桂林まで硬座席で65元(975円)、5時間15分の道行である。
いつも賓館代を浮かすために、移動は硬臥(夜行寝台)が多いのだが、今回旅行は二転三転と目まぐるしく予定が変更になったため、やむなく昼間の移動となった。
中国にいて5時間15分の距離は、さして遠いとは思わない。いや、むしろ近いという感じさえする。
忙しない日本でなら、列車に5時間も乗ったら、いい加減飽き飽きするのに、その違いはどこから来るのか?
それは多分、中国の列車旅は20時間、30時間は当たり前、それからすれば5時間なんて近いと感じてしまう、そんな時間に対する感覚のズレがあるせいじゃないだろうか。
日本であくせく分刻みで働いてきた人間にとって、この中国ののんびりムードは堪らなく心地よい。

 このところ鳴りを潜めていた車内音楽放送が復活した。突然、テナーサックスの低い響きが流れ出す。
私もよく知っているエーデルワイズの曲である。中国列車もかなりサービスが行き届いてきた。
難をいえば、音響機械の接触が悪いのか、曲の途中で何回となくちょっと途切れる。聞きようでは、演奏者が未熟で肝心なところで息継ぎをしたようにも聞こえる。
吹いた本人がこの場にいたら、さぞかし怒るだろう、などと詰まらないことを考えつつ、その下を弁当ワゴンを押す売り子が、黄色い声を張り上げて通って行く。まったく長閑である。

途中停車駅での弁当合戦時間が短いから小姐も必死だ!

生まれ変わった桂林駅田舎駅の風情がなくなって寂しい気も

 桂林に午後1時着、5時間北上しただけなのに、気温の方は涼しいのを通り越して少し肌寒くなった。
桂林は8年前に女房と来たことがあるが、その時とはまるで様相が一変していた。
あの当時は、まだごみごみとした田舎都市という印象だったが、駅も新しくなり、駅前も各段に整備されて、見違えるような都会に生まれ変わっていた。

 まずは賓館を決めて、荷物を置いてからでないと次の行動には移れない。
中国でも名立たる観光地の桂林らしく、ほかの観光地と違って群がる客引きはいなかった。
いなきゃいないで、ちょっと物足りなさも感じるし、賓館を決めるにも目安となる金額が分からなくて困る。
ウロウロしていると、ようやく一人の小姐が声を掛けてきた。

「賓館ですか?駅から近くて安いところありますよ」

女房は警戒心を強めた。桂林観光の目玉である璃江下りは、ツアーではなく自分で行こうと思っている。
それならば船代だけで余分な費用は掛からなくて済む。なんせ4人分だから、少しでも経費節減をしたい。
今までもこういう客引きに掴まると、賓館だけの斡旋といっていても、あとで必ず観光を持ち出してくるのが常なので、それを断るのにまた一苦労するのが嫌なのだ。

「私ら、観光は自分たちで行くから、ツアーには行かないよ」
「え〜えぇ、分かっていますとも、私は賓館の紹介だけでいいんです」

どうも個人で来た観光客は誰でもそういうらしい。あっさりと引っ込めるところが信用できないが、一応釘は刺しておいたから、そう煩いことも言うまいと思い、客引き小姐お勧めの賓館について行った。
少姐のいった通り、その賓館は駅から3、4分のところにあった。構えは小さいが立地的には文句なし。
1泊ツインで64元(960円)と、田舎町南寧よりも安かったので、一発で決定した。
手狭なロビーには、大きなリュックを背負った、白人バックパッカー風の男女もチェックインしていた。
中国はバックパッカー旅行は馴染まないと思っていたが、最近、こうした白人の学生っぽい人たちの姿をよく見かける。中国では外国人料金が撤廃され、賓館の2星でも3星でも安く泊まれるようになったからだろう。

バックパッカー族も慣れたもの最近、若い白人学生風が多い

64元では文句なし!桂林2泊の賓館確保に、まずは一安心

 部屋は64元としては申し分なく、トイレも勿論洋式便器であった。
荷物を置き、ほっと一息つく間もなく、ピンポ〜ンとチャイムが鳴り、客引き小姐がやって来た。
こっちは恐らくこのまま引き下がることはないと計算済みだから、別に驚きはしなかったが、あれだけ念を押したのに、よく臆面もなくニコニコとやって来られるものだと感心した。

「部屋は気に入ってもらえましたか?」・・・・・・・あんたの持ち物じゃないだろ〜
「小姐、相談なんだけど、もし璃江観光行くなら、私からチケット買ってもらえないかな?」

そらきた!そう来るだろうと思っていた。
女房はこれから璃江行きの段取りをする予備知識として好都合なので、小姐の話を黙って聞いた。
話では桂林観光のメインである璃江下りは、協定価格で統一されていて、どこで買っても値段は同じだという。
嘘だと思うなら、これから街に出て何軒かに聞いてみて欲しい、私の言うことが本当だと分かったら、是非、私に電話してくれといいながら名刺を置いて、案外、簡単に引き上げて行った。
よほど自信があるみたいだから、これは本当かも知れない。
そうなると自前で遊覧船には乗れないということか?まっ、とにかく街に出て確かめることにした。

 外は小振りだった雨が、本格的な雨に変わっていた。
賓館前の歩道はびっしょりと濡れていて、傍らには大きなパラソルを差した饅頭屋が、大きな湯気を立てながら売っていた。その脇で物乞いの老人が紙コップ片手に、道行く人に小銭をせびっている。
そのヨタヨタした老人を威嚇するように、大きな警笛を二、三度鳴らして、歩道なのにバイクが通り抜けて行く。
いやはや、桂林の街はごちゃごちゃの印象である。

 時計は午後2時を指していたから、腹を空かせたお舅さんとお姑さんが、飢えた狼のように目を血走らせて餐庁探すが、大きな街の割りに意外と食べる店が少ない。
しばらく歩いて、お舅さんが「ここにしよう」と入って行った店は、いかにも大衆餐庁然とした煩雑な店。

「また今年も旅行に連れて来てくれたお礼に、今日は私が奢るから遠慮しないで注文して!」

毎回、旅行中1回はお舅さんが食事代を出してくれる。それは気持ちとして有難いのだが、決まってあまり衛生的でない大衆餐庁なのが気に掛かる。
まぁ、在り来たりの家常菜(家庭料理)だったが、結構旨かった。料理5品とご飯で65元(975円)也。
いやいや、それはいいんだ、お舅さんから豪華な餐庁での食事を奢ってもらおうとなんて思っていない。
1人頭16元(240円)で、美味しく食べて腹一杯になれば、無駄にお金を使う必要はない。むしろ、中国庶民旅行の真髄に触れられたようで、私としては満足である。

チケットはどこで買っても同じだよ客引き小姐との攻防戦!

街の旅行社の看板を見る父娘ホントだ、値段は変わらないね

 腹がくちくなったところで散策をかねて街をぶらつき、璃江観光の看板目当てに旅行社を何軒か当たったが、大体220元〜240元(3600円)が相場のようで、極端なダンピングをする店はなかった。
「地球の歩き方」を見ても、日本人の観光ツアーなら400元から600元すると書いてある。
日本語のガイドがないだけで内容は変わらないのだから、それだけでも私は随分とお得といえる。
昔は中国人専用船というのがあって、90元くらいで璃江下りができたらしいが、今はなくなったようだ。
女房はさっきの客引き小姐の言ったことが、実際、正しかったことにある意味信頼感を持ち、どうせなら彼女から買ってやろうと早速電話した。

「220元にしてくれるなら、あなたから買うわ」
「分かったわ、その代わり4人お願いね」

これで明日の璃江下りの手配も済んだ。お舅さんたちはそのまま街の散策へ、私らは按摩へ行って、少しでも疲れを取る算段をした。何だか反対のような気がしないでもないが、まぁ細かいことはいいでしょう。

人、人、人でごった返すお土産館迷子になったらアウトだ!

璃江下りの船着場どの船も満員御礼の盛況だった

 翌日も小雨模様、賓館の狭いロビーは璃江観光に行く人たちでごった返していた。
賓館前には入れ替わり立ち替わり、小型バスがやってきて、観光客数人を乗せては出て行く。
一度に全部乗せていかないのは、それぞれチケットを買ったルートが違うからだろう。私らも乗り間違えないよう、昨日の客引き小姐が見送りにきていた。

「今日は絶好の璃江観光が出来ますよ、あなたたちついていましたね」

璃江特有の墨を流したような景色は、こういう小雨交じりの日が最適で、ピーカンの日に当たった観光客は運が悪いということであった。

 桂林からバスで1時間ほど走り、璃江上流の船着場に連れて行かれる。
ここのお土産館で、自分たちが乗る船の準備が整うまで暫時待機。
桂林観光といえば、この璃江下りがメインだから、乗船を待つ人、人、人で身動きが出来ないくらいの大混雑。
人波を掻い潜り、一応内部を一回りしてみたが、翡翠の装飾品や天然石の置物が多く、私にはトンと興味なし。
ムンムンとした人いきれに耐えかねた私は外へ出ようとした。

「勝手に動くな〜!こんなに人がいるんだから迷子になっちゃうぞ!」

間髪を容れず、女房の叱声が飛んできた。どうも旅行となると、姉さん女房的になるから不思議だ。

意外と広くて明るい遊覧船早く窓際席を確保しなきゃ!

景色を眺める人、料理を作る人雨が降る中、ご苦労さん

遊覧船内は思ったより広く、大きくとったガラス窓から入る光で、外の小雨模様にも拘らず明るかった。
真ん中の通路を挟んで、3人掛けのいすがズラッと並び、差し向かい6人で一席となっている。
まず景色のよく見える窓側の席の取り合いとなったが、どうせ船が出れば、みんな上のデッキに移動するに決まっているのに、相変わらず中国人のイス取りゲームは健在だ。

 それにしても南国ベトナムに行かれなかった私は往生している。なんせ長袖シャツ1枚で、後はTシャツばかりの私は寒くてしょうがない。この調子で外のデッキに出たら、風邪でも引きかねない。
出発時、冬装備を怠らなかったお姑さんに、今回は先見の明があったということだろうか?

遊覧船は数珠繋ぎになって出発し始めると、案の定、三々五々乗客は上のデッキに移動していった。
写真班としては、この際、寒いのへちまなどと言ってはいられない。すぐさまカメラ片手に便乗移動。
360度の大パノラマが開けるオープンデッキは、やはり景色を眺めるには最高だが、なんたって寒い!吐く息が白いのである。長袖シャツ1枚なんていう人間は私1人しかいなかった。
前を行く船も、乗客は同じようにデッキに出ている。その下ではコックが調理に忙しく立ち働いている。
刻々と景色は様々な顔を見せてくれて、客引き小姐の言ったとおり、霞掛かった山々が一枚の墨絵のように動いて行く。この辺りの情景は「璃江下り写真集」を特とご覧いただきたい。

 船内放送からもデッキのスピーカーからも、見所の景色や山々の説明があるが、勿論、中国語であるから私には分からない。この辺は私も承知で安く乗ったのだから仕方ない。
女房の話では、中国お得意のこじ付け名称の羅列だったようだ。
この岩肌が蝙蝠に見えるとか、あの岩が龍の頭に見えるとかで、どう見たらそう見えるのか?しつこく聞いてみたくなる程度のものである。

 スピーカーからお昼の用意が出来たとアナウンスがあった。
ちょうど体も冷え切ってきたところなので、写真撮影は取り合えず中止して階下に下りた。

盛りっきりの豪華昼食期待したこちらが悪いのか?

璃江名物、沢蟹のから揚げ一皿20元とは、ちと高い

 なんだ、なんだ!船内での豪華昼食付きがこれかぁ。
ドンドンと無造作にテーブルへ置かれた、これっきり盛りっきりの定食。見るからに不味そうである。
中国ツアーでも、今までは昼食付きとあれば、最低5品くらいの料理は出てきたのに、遊覧船という特殊な場所だからなのか?それにしても220元も取っているんだから、もう少し何とかして欲しかったな〜。
お舅さんが気を利かせて、一皿20元也の沢蟹のから揚げを買ってきてくれた。ツアー代込みの定食がお気に召さなければ別料理も注文出来るが、ことほど左様に値段が高いから殆ど頼む人はいなかった。

[10章 ギター抱えた流しの小姐]へつづく

2007年2月18日分、次回更新まで中国ランキングのクリックをよろしく。

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