2008年8月
昼食を終え、さてこれから過密スケジュールの京都見物に、いざ出陣と思っていた矢先、
「なんだって!お腹が痛いって」
お舅さんたちが切羽詰った異常を訴えていると女房が報告してきた。
そういえば蘇州号を下船する折りにも、二人して入れ替り立ち替りトイレに駆け込んでいたのを思い出した。
とにかくトイレを探すのが先決、京都駅の中央口をくまなく見渡すと、隅の方にトイレマークを発見。
私が荷物番を引き受けて、女房が急ぎ二人を連れて行った。
女房の後を追い掛ける様は、恥も外聞もなくいかにも緊急を要している様子。本人たちには大変申し訳ないが、それがちょっと滑稽に見えて思わず苦笑してしまった。
それにしてもさっきは刺身定食が出来ないことに憤慨したが、怪我の功名とも言うべきか、こういうことになるのなら却って生物など食べなくてよかったと胸を撫で下ろした。まったく何が幸いするか分からない。
それよりも何よりも腹具合が悪かったら、本人たちが食事を辞退すれば一番よかったのだ。
こっちは朝昼晩と決まった時間に食事をしないとお舅さんは機嫌が悪いから、そっちの方ばかり気になって、つい食事を優先させてしまったのが悔やまれた。
これからいくらだって日本食が食べられるのに、自制が利かないというか、ただの物なら食べなきゃ損だという考えは、日本滞在中だけでも捨ててもらいたいものである。

京都の路線バス一日乗り放題500円・・・・外人観光客も多い |

金閣寺参道を行く上海一族・・・・日本に来ても倹約旅行か? |
バスターミナルに近接するチケットセンターで、路線バスの一日乗り放題券を1人500円で買う。
女房の目論見では、時間の関係でどうせ観るところは金閣寺と清水寺2ヵ所のみ。それなら観光バスに乗るよりこっちの方が断然安いとのこと、倹約精神に富む女房らしい発想だ。
「荷物をロッカーに入れないのか?」
「大丈夫よ、このくらい。ケースも軽いし、どうってことないよ」
僅か4〜500円のロッカー代を節約するに至っては、もう何をか言わんやである。
だが、私の鶴の一声でロッカーに入れさせることも出来たのだが、今回、私の体調不良にも耳を貸さず、強引に顎足付きの来日を敢行したお舅さんには快く思っていない部分もあり、その敵討ちとまでは行かないまでも、敢えて言うことはせず女房に従った。
路線バスの案内パンフレットを見ると、京都駅から一番遠いところに金閣寺が左、右に銀閣寺がある。
中国人のゴールド好きは有名なので、迷わず金閣寺観光を決めたが、時間の制約がある大変だ。
路線バスには金髪の観光客も結構乗っていた。外人は計算高いから、個人旅行の人は路線バスを利用してあちこち観光するのだろう。バスは短い区間の停車を繰り返し、30分ほどで金閣寺入り口に着いた。
ここからが大変、観光バスなら近いところに専用駐車場があるが、路線バスはそうは行かない。
目眩がしそうな暑さの中、延々と歩く羽目になった。
女房は倹約の段取りはするものの、自分ではその分の苦労を買って出ないのが身上である。
赤いキャリーケースはお舅さんが引っ張り、ノートパソコンが入った袋はお姑さんに持たせた。
こんもりと草木が茂った金閣寺の参道に入ると幾らか涼しかったが、今度は砂利道に変わった。
お舅さんはキャリーケースを引くのも侭ならず手に持ち替えたが、中国の倹約旅行に慣れているせいかグチは出ない。
簡単な休憩所があったので一休み。いの一番にどっかと腰を下ろした女房、持った荷物は自分のショルダーバッグだけなのにだらしない奴だ。
女房は以前に金閣寺観光をしたことがあるので、ここで荷物番をしていると言う。それなら私だって日陰で休んでいた方がいいので、お舅さんたちだけで観てきてもらうことにした。
総門を潜り、受付でチケットを買って渡し、30分後にさっきの休憩所に戻ってくるよう、身振り手振りで説明した。
例によってお舅さんは分かった、分かったと了解したが、果たしてどこまで分かっているのかは疑問だった。
入り口でチケットを検められると、お札をくれた。
最初はお金を取られるのかと思って「要らない」と押し返したが、どうもタダのようなのでもらっておいた。
他の観光客の後ろについて、右手にある参拝門をくぐると、いきなり金色に輝くお堂が目に飛び込んできた。
鏡湖池の辺に建つ金閣寺は、この世のものとは思えない美しさを放っていたが、悲しいかな、お舅さんたちにはその美しさに見蕩れている余裕はない、さっきからまた催してきたのだ!
まずトイレだ!言葉が喋れないから人に聞く訳にも行かない。見慣れたトイレの絵文字マークを探した。
もう金閣寺なんてそっちのけである。ウロウロバタバタ右往左往、どこだ、どこだ、どこにある〜
やっと見つけた絵文字のマーク、夫婦そろって粗相は出来ぬと、一目散に飛び込んだ。
やっと窮地を脱しはしたが、15分の時間を消費してしまった。
動作がワンテンポ遅いお姑さんはまだ出てこない。お舅さんは心が急くものの、一人見学コースに戻る訳にも行かず、トイレ近くの木陰から世界遺産の金閣寺を眺めた。
随分臭い因縁になってしまった日本観光の初日である。これから始まる長い日本滞在に、不吉な暗雲が垂れ込めているような予感が、お舅さんの胸を走り抜けた。

金閣寺参道に立つ案内板・・・・割と広くて見所も沢山あったが |

金閣寺チケット売り場・・・・私らは荷物番で、義父母のみ見学 |
一方休憩所で待つ私ら、ジッとしていても汗が吹き出してくる。
苛立つ暑さの中、私は忙しく扇子で扇ぐが、却って生暖かい風を掻き回しているようで気持ちはよくない。
この休憩所、正面の壁面に禁煙と書かれた大きな紙が張ってあるが、何故かBOX型の灰皿が置いてある。
一休みに訪れる人は皆一応迷ってはみるが、誘惑に負けて一服の火を点けていた。
私は空ろな目を参道に向け、見るとはなしに金閣寺に向かう人たちを眺めていた。
若い女性の外人観光客もいるが、みんなTシャツにGパンのバックパッカー族的風体である。
中には登山用と見間違うほど、大きなリュックを背負ったまま観光している猛者もいたりする。
私らと同じ倹約旅行中ゆえ、凸凹がはっきりしていて、大きなお尻を揺すって歩いてはいるが色気はなし。
そこへ行くと日本の娘は、暑さにもめげず清潔で上品でお洒落である。ヒールの高い靴で砂利道を歩いて来るのは、さぞ難儀だったとは思うが、それをおくびにも出さない心意気を買いたい。
素材はというと、これは上海小姐の方に軍配が上がりそうである。何といってもスタイルでは敵わない。
そのうち上海娘も化粧をするようになれば、東洋の神秘とか真珠とかいった形容は中国に移るかも知れない。
お舅さんたちはトイレを済ませた残りの10分少々では、見学コースにある金閣寺の裏手を登った小高い場所からの金閣寺の眺めや、龍門の滝までは観られなかった。
見学料を払ったところは、隅から隅まで観なければ損だとする中国人としては、断腸の思いだったろう。
金閣寺の周りをただグルッと回って、別の出口から無念さを悟られないよう意気揚々と戻ってきた。
口々にとても素晴らしかったと称える言葉が出たが、トイレで半分時間を使ってしまった話は出なかった。
アスファルトの照り返しで焼けるように暑い中を、バス停まで戻ってくる。
私は絶え間なく流れ落ちる汗に、いちいちバッグからタオルを取り出していては間に合わず、とうとう首にタオルを掛けてしまった。
このスタイルは、中国じゃ農民か労働者しかやらないので、お舅さんお姑さんには受けが悪いが、そんなことは言っていられない。汗が目に入ってイライラするよりは余程マシだ。
目指すは清水寺!時間が予定より大分オーバーしているので、気が急くもののバスは渋滞に巻き込まれたらしく、断続的な停車を繰り返す。来る時の道路は割と空いていたのに、これは何かあるなと直感した。
気を付けて窓外を見ていると、思った通り、あちこちに車両規制の看板が立っている。
街はお祭気分の提灯などで飾り立てられ、道行く人もチラホラ涼しげな柄の浴衣を着ている。
まさか、まさかと思ったが、そのまさかは当たっていた。7月17日は京都祇園祭の山鉾巡行初日だったのだ。
なんとまぁ、ツイていないこと。普通ならラッキーと歓声を上げるところだが、カッチリ予定が決まっている私らにとって途中下車は許されない。
たとえ許されたとしても、祇園祭は日本三大祭の一つである、今頃ノコノコ行って見物出来るような場所があるとも思えなかった。
ええ〜い!どうせ見られないのなら私らは時間との戦い、清水寺に一刻も早く着いて欲しいのだ。

祇園祭りが終わり、裸にされた山鉾をバスの窓から撮った |

友人が送ってくれた山鉾巡行の本番写真・・・・観たかったなぁ〜 |
たまたまこの日、大阪の友人が祇園祭の写真を撮りに来ていたことがあとで分かった。
やはり朝7時から席取りをして、9時45分の開始に備えたそうで、約2時間に渡って練り歩いた32基の山鉾巡行は、圧巻の一言だったと申しておりました、ハイ。
滅多に観られない祇園祭、その日その場にいたのに残念としか言いようがないが、いずれにしても私らがバスに乗っていた時間はとっくに終わっていたということになるが、どうやら祭りの余韻を残した渋滞のようだった。
道理でバスの窓から写した山鉾が、なぜか化粧を取り払われ、裸同然だったのかが分かった。
裸の山鉾だけでは寂しいので、友人が送ってくれた山鉾巡行本番の写真を隣に添付したが、私らは時間差攻撃で確かにその日京都にはいたが、祇園祭は観てはいないのでお間違えのないように。
刻々と過ぎていく時間は気になったが、歩いた方が早いような走りっぷりのバスも、考えようでは車上観光には持って来いである。お舅さんたちも古都京都を、エアコンの効いたバスから一心不乱に眺めていた。
私は疲れから、いつしか居眠りを始めていたが、バスの乗り換えが近づき女房に起こされた。
八坂神社前というところで一旦降りる。目の前に鮮やかな朱色の神社が見えた。
地図を見たり人に聞くまでもなく、これが有名な八坂神社だということはすぐに分かった。
私も初めて観るので、少々興奮気味に車道まで出て写真を取り捲る。

朱色が目に鮮やかな八坂神社・・・・周辺はお祭ムード一色 |

バスの窓から撮った鴨川のせせらぎ・・・・殆ど車上観光とはいと悲し |
ここまで来たんだから、時間があればお舅さんの姑さんにも八坂神社を参詣させてやりたかったが、それも叶わぬハードなスケジュールなのがちょっと悲しくもある。
さて、目的の清水寺まであと一息だ。焦る気持ちとは裏腹に、京都を流れる鴨川のせせらぎは穏やかだった。
| 2008年8月18日更新 次回まで中国ランキングのクリックよろしく。 |
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