| 2002年10月 2000年4月の入居当時、生活に必要な家具、電化製品及び鍋釜の類を含めて、およそ30万円くらいですべて揃った。新所帯がこの値段でスタートが切れるのだから、中国は住み易いと言わざるを得ない。 1元=12円、円高の恩恵は勿論あったものの、それにしたって日本での30万円ではとても望むべくもない。 電化製品はエアコン3台、洗濯機、冷蔵庫、掃除機、炊飯器、テレビ・・・・・・こんなもんかな? どういう訳か電子レンジはナイ。東京でも無用の長物と化しているから、上海でも必要なかろうと外した。 この内エアコンはまだ寒い時期でもあり、お舅さんに一任して先に取り付けておいて貰う事にした。ここに至るまでの経緯を考えても、お舅さんに任せるのは大いに不安ではあったが、背に腹は変えられない。 この安易な決断が、アトで又一騒動巻き起こすのだが、まぁ順を追ってお話したい。 お馴染みの上海一族と少々年季の入った婿が連れ立ってデパート巡り。今日は姑も同道している。 私の住む徐家匯、今では7軒のデパートを構える一大商業地区、2000年当時でも5軒のデパートがあった。 上海のモノの値段は日本のように価格が一定していない。 それはおろか人を見て値段を決める風潮さえある。 同じ物でもお店によって値段はマチマチなので、損をせず安い買物をしようと思ったら一通り歩いて下調べをしなければならない。これが大変なのだ。 これがどうにも煩わしく嫌で、日本人と結婚して東京の生活をエンジョイしている上海小姐を知っている。 これなど特異なケースかも知れないが、そのくらい日本の生活に慣れた者にとっては苦痛なのだ。
こんな調子だから、東京でのカミさんの買物も尋常ではナイ。なんたって衝動買いなど有り得ないから、熟慮に熟慮を重ねて一つのものを買うのに下手をすると何日も掛かる。 確かに買ってから失敗した!と悔やむ事は少ないが、それだって程度問題だろう。何でも過ぎたるは猶及ばざる如しという事か・・・・・・・ ご多分に漏れず5軒のデパートを隈なく回った。普段運動量の足らない私にとっては良い試練だろう。 私にすれば大した違いがないのなら、どこのデパートでもトットと買物を済ませて、早く帰りたい衝動が徐々に突き上げてくる。 しかし義父母に傲慢な金持ち日本人と思われたくなかったし、娘夫婦の為に東奔西走、優しい親心の好意を無には出来なかった。 結局、比較的庶民に人気のある元国営デパートが一番安いとの結論に達したらしい。 ここまで来たら、もう時間の問題と考えるのは素人の浅はかさ、大間違いなのである。 言ってみれば、指名業者の選定が済んだだけで肝心の入札はこれからなのだ。 1階入り口から所狭しと並ぶ洗濯機と冷蔵庫、一番の売れ筋なのだろう。 かって日本も、やっと戦後から抜け出た頃、家庭の主婦がまず飛びついたのが洗濯機と冷蔵庫だった。 歴史は繰り返される、国が違っても主婦の心理は同じかも知れない。 イヤイヤそうとも言えないかも?唯一日本と違うのは上海男性が家事を厭わない点だから、ひょっとして男が求めているとしたらあまりゾッとしない話だ。 上海の男に生まれなくて良かったとも思うが、上海小姐と結婚すれば同じ事か・・・・・・・嗚呼 矯めつ眇めつジックリ腰を据えた一族の品定め。 忙中閑あり、ひとり手持ち無沙汰に入り口付近でタバコをふかす私。 日本は洗濯機も、試行錯誤と長い時間を経て改良を加え、現在の全自動洗濯機に進化したが、中国は一気に全自動が主流になった。 その中国製全自動洗濯機、可愛い娘がニッコリ微笑み、水流渦巻く好性能を盛んにデモンストレーション。 見た目何ら日本メーカーの洗濯機と変わらない。それなら中国製でもいいかも・・・・・・ 輸入品コーナーもあったが、一考の余地がない程、価格の差は歴然としていた。 冷蔵庫も様々な大きさを取り揃え、色もカラフルで購買欲をそそる中国製品が圧倒的に多かった。 喧々諤々、一大激論の末ようやく上海一族合意の内定。 事後承諾とも思える最終決断を私に求めてきた。一応形だけでも財務方の顔を立てたつもりなのだろう。 私だってお金を出すだけの存在じゃぁヘソ曲げちゃうョ〜 マァ、もとより私は何でもいいのだから、OK、OKだけどサァ〜。 2階に上がり今度はテレビの手配。これは私の唯一の娯楽だから人任せには出来ない。 攻守一転、私が先頭になって画面の映り具合をつぶさに観察する。 やはり日本製の方がハッキリクッキリ見易いのは、それほど凝視しなくても明白な事実だった。 ウ〜ン、迷うところだが、ここは思い切って日本人の意地を見せるか!と思い改めて値札を見た。 ・・・・・・・・・急に気が変わった。この際、映り具合など映ればいいと思ったくらいだ。 せめて気は心、それほど中国製品と値段の違わない、日本メーカーとの合弁製に決めた。 それからが大変だった。鬼よりコワイ父娘の厳しい検査が待ち受けていた。 ダンボールに梱包された指定のテレビを思い切り良く全部出させて、付属品など漏れなく揃っているか、ビニールまで破っての念入りな検査。何もそこまでしなくても・・・・・・・ それが終わると実際にアンテナ線を接続して映りを確かめる。最後にお舅さんが散々触って、指紋手油の付いたブラウン管を綺麗に拭いてくれと指示した。まったくイイ度胸をしている! この横柄な態度はお舅さん独特のパフォーマンスで、相手の機先を制して自分のペースに持ち込む、言わば値切りの極意とも言うべき策略なのだ。 元来こういう交渉事が苦手なお姑さんと私はハラハラドキドキ、いつ一波乱起きるかヒヤヒヤもので遠くから見詰めていた。いくら人手が余っているからとは言え、ひとり黙々と梱包し直す店員が印象的だった。 自分の事とは言え、朝から歩き詰めでクタクタ。偏平足のハンデが重く圧し掛かる。 上海は商売都市、街中も屋内も休憩するベンチなど殆ど無い。そんなスペースでもあれば、すぐに商いを始めてしまう意気込みだ。 混雑したデパート内では平気で人を押し退けて行く輩も多々いる。 運悪くそんなのに出会ったら、それこそ戦場で銃弾を受けた兵士のようにバッタリ倒れかねない。 さぁ、もうひと踏ん張り。あとは掃除機と炊飯器、そうそうFAX付き電話もあったっけ・・・・・・ FAX付き電話だけは高額だったが日本製にして、あとのは勿論中国製。デザインよりも実用重視と値段で選んだ。・・・・・・・ようやく一通り買物が終わったのは、とっくに夜も更けたPM8:00だった。
中国はヤル事が早い。翌日にはほとんど届いた。真新しい家具と電化製品に包まれた部屋は、これから始まる明るい異国生活を予感させる。 男っぽい女房もさすがに心が弾むのか、早速洗濯機の試運転に挑戦した。 ある程度量が必要だと、無理やり着ている物を着替えさせられ、鼻歌まじりにステンレス槽に放り込む。 うちのカミさんは滅法機械モノに強い。パソコンだって電話のセッティングだって見事にこなす。 洗濯機の操作など赤子の手を捻るも同然、チャッチャッと説明書を流し見して始動させた。 デパートのデモンストレーションで見た通り、上部から水が注ぎ込まれ、おもむろに水流回転が始まった。 夫婦してジッと覗き込む姿は、これ以上の円満はないくらいで、実に仄々とした平和を感じる。 しばらく見ていたが、上っ面がグルグル回るだけで、一向に下のものが上に引っくり返されて来ない。 「洗濯物の量が多いんじゃないの?」 「そんなことナイョ、説明書見たから。東京のはもっと入れるョ」 中国ではこれが正統なのか?それにしてもオカシイ?? その内、洗濯機本体が小刻みに震えだし、グゥグゥと息も絶え絶えな様相に変わった。 その音はまるで洗濯機がイヤダイヤダと言ってるようにも聞こえて来る。 玩具じゃあるまいし、この程度でお手上げじゃぁ洗濯機とは言えんだろ〜・・・・・ 東京の洗濯機は、目一杯入れても黒澤明の映画のように力強くグイグイと万遍なく攪拌している。・・・・・・・・・随分の違いだネェ〜、女房と思わず目と目を合わせてしまった。 結局、見掛け倒しもいいトコで、カタログに偽り有り。肝心の馬力がない事実を否応なく認識させられた。 ウゥ、思わず蹴飛ばしたくなる衝動・・・・・・新品とは言え、もう返せないだろうなぁ〜 冷蔵庫も2年くらいは普通の使い心地だった。1年の内せいぜい半年しか居ないから実質1年の使用だ。 夫婦2人の生活だからそんなに手荒に使った記憶もない。あまつさえ家事不得意妻とすれば、上海滞在中は私が心尽くしの日本料理を作るか、ほとんど外食。滅多に冷蔵庫の扉など開けた事もナイのだ。 それが突然壊れたガマ口のように、だらしなく閉まらなくなった。密着度がまるで無いのだ。 何かおかしいなと思っているうちに、ポルターガイスト現象の如く、ギギギィ〜と出戻って来るようになった。 ここまで来れば、もうオカシイでは済まされない。 私も順応性が高いから、しばらくは冷蔵庫、冷凍庫とも扉にガムテープを張って、開ける都度それを引っ剥がすことを繰り返していたが、そのうちアホらしくなった。 「こんなのブン投げて、新しいの買え!」 とうとう堪忍袋の緒が切れて、怒り爆発! ヤカンに湯も沸かした事もないアンタにゃ分からんだろう!厨房は俺の城だぁ! 剣幕にちょとビビッたカミさん、早速日曜なのに強引にもクレーム電話。 明日修理に来るという。確かに対応は早いのだが、ロクな修理はしないだろうなぁ〜。 ピンポ〜ン、翌日10時に約束を違えず修理人がやって来た。小さな修理鞄ひとつを抱えて。 まだ10時だというのに今日はこれで3軒目だと自慢気に話す。 (ホラなぁ、見てろよロクな修理しないから・・・・・・) 楽しそうに女房と雑談を交わしながら、上下とも手早く扉を外した こうなると冷蔵庫も哀れなモンで、無防備な羞態を晒し、手足をもがれたよう。 さてどんな修理をするのか興味津々注目していると、内側を取り巻くゴムパッキンを一旦外し、ご丁寧にも又それを嵌め直しただけ。 子供の使いじゃあるまいし、原因があるだろ原因が!そのくらいなら俺でも出来るぞ! 何の事はナイ、又同じようにガムテープを扉に貼り付けて修理人曰く 「2〜3日こうして使ってくれ、それで直ると思う」 何ぃ〜それで直ると思うゥゥ・・・・・・・直る訳ないだろ! 上海は10月に入っても尚暑い、まだ冷房をつけたい時もあるくらいだ。 朝起き抜けに大好きなアイスコーヒーの氷を取り出そうと冷凍庫の扉を開けると、霜とも雪ともつかない細かい氷の結晶が内部を覆っている。 例の密着度が足らない隙間から外気が入り込んだ所為だろう。 ・・・・・・・間違いなく直ってなどイナイ! 上海の人は、こんな時も大して騒がず「マァ、こんなもんだ」と適当に自分で直したりしてる。 でも私は日本人、電化製品がそんなに早く壊れるなんて信じられナイ。俺をナメてるなぁ〜と逆上の勘違い。 再び女房に修理屋の要請を頼んだ。ついでに「今度は腕のいい人をよこせ!」ぐらい言っとけと指示したが、私が言うまでもなく電話口で怒鳴り捲くっていた。 それで又すぐ来た。・・・・・・・ヨカッタ、この前来た人と違う人だ。 こちらとしては今度こそ完全修理復活の思いが強い。 まず内側を取り巻くゴムパッキンを外すのは前回と同じ、問題はそれからだ。 自信タップリ、おもむろに口を開いた。・・・・・・スパナはないか? その次はカッターナイフを貸せ、挙句にドライヤーはナイかときた。 (アンタ何しに来たんだ!修理道具ぐらい持って来いよなぁ〜) 第一冷蔵庫の修理に何でドライヤーが必要なのか、こっちは見当も付かない。 「そんなもんナイ!」と答えると 「残念だなぁ〜、アレがあれば完璧なんだが・・・・・」 女房に冷蔵庫の修理とドライヤーの因果関係を聞いてみろと催促。 嗚呼・・・・冷蔵庫の周りのゴムパッキンをドライヤーで暖めて引き伸ばすんだと! ア〜〜恐れ入谷の鬼子母神とはこの事だ!思わず怒りより笑ってしまった。 炊飯器・・・・・・・これはデザインや使いもしない機能付きよりも、ご飯さえ炊ければ良しとするシンプル製品を選択した。勿論、価格もグッと下がった。その所為でもないだろうが炊け具合があまりよろしくない。 米を研ぎ、内側の炊飯釜の目盛りまで水を張る。蓋をして炊飯ボタンを押す。普通これで美味しいご飯が炊ける筈。ところがこの通りやってうまく炊けたためしがない。 柔らか過ぎるか、ポロポロの強飯になってしまう。厨房を預かる私としては大いに不満だ。 原因は頼みの目盛りにあった。 これは私の持ち場だから、試行錯誤の末、微妙な水加減をようやく会得した。 2カップではかなり水が大目、3カップでは丁度目盛り通り、4カップでは少し水を少な目、まぁこんな具合だ。 何事も大雑把な中国の体質が見え隠れしている見本だ。怒ってはいけない!旧軍隊のように靴に足を合わせる、服に体を合わせるという気持ちが中国で暮らすには必要かも知れない。 掃除機・・・・・・・見掛けは日本のものとまったく変わらないが、いざ使用してみるとその差は歴然としてくる。 まず音が異常に高くウルサイ。しかも音の割りに吸引力は大した事ない。 歩くだけで髪の毛をパラパラ落として気が付かないカミさん。もとより掃除などヤロウなんて殊勝な気持ちは、皆目持ち合わせてはイナイ。 必然的に私が掃除機を掛けるのだが、ある時気が付いた。目を凝らして見てみると、万遍なく掃除した筈のフローリングにそこかしこ髪の毛が点在している。一所懸命やったのに、これには悲しくなってくる。 以来、楽をして長いノズルで掛けるのを止め、掃除機直結の蛇腹ホース口を直に吸い込むようにした。 とても文化的な掃除方法とは言い難い。第一屈んで作業するから腰が痛くなるのだ。 時々泊まりに来たついでに掃除をしてくれるお姑さん。もっぱら使い慣れた手動式箒専門で、その方が断然効率的な事を良く分かっていらっしゃる。 まだある!掃除機内部の集塵袋、しばらく取り替えてないから買ってくるよう女房に頼んだ。 デパートを何軒も回ったが、どこにも売っていないと言う。 そんな馬鹿な話があるか!それじゃ掃除機ごと使い捨てかぁ! 説明書を探し出し、よくよくカミさんに読んで貰った。ゴミを捨て、定期的に水洗い必要とあった。 今時、イチイチ洗うのかぁ〜・・・・・・・・ これで終わりか?・・・・・・いやいや冒頭のエアコンが残っていた。 私の子供の頃は、エアコンなど夢のような物が将来出現するとは想像も出来なかった。夏は暑いのが当たり前、団扇で多少凌ぐだけで、デパートだって所々気休めに氷柱が立っていたくらいだった。 しばらくして親父が扇風機を買ってくれた。これは便利なもので、自分で扇がないだけでも楽だと子供心に思ったものだ。 その次は図体ばかり大きい置き型の冷風扇。打ち水の原理を利用したモノで、所詮間に合わせの感は否めない代物。とても真夏の茹だる暑さには対抗出来なかった。40年近く前の話だ。 そのうち一般家庭でも金持ちはクーラーを取り付け出した。今のエアコンでは無い、クーラーだ。 初めて出会った時、ナゼこんなに冷たい風が引っ切り無しに出て来るのか不思議でならなかった。 今のマンションに付いているのが、そのクーラーだ。読んで字の如しの冷却装置で、エアコンの空気調節装置ではナイ。正面から風に当たると冷た過ぎて凍えそうなのだ。 おまけに時折冷たい飛沫まで撒き散らすので、真夏で暑くて敵わないのに、全員なるべくクーラーから遠ざかる珍現象が生じる事になる。 “安物買いの銭失い”とまでは言い過ぎか?とにかく先進的な文化生活とは言い難い。 事ほど左様に中国での生活は中々手強い。これから中国で新生活を始めようと思っている皆さん、又始めたばかりの方々、努々(ゆめゆめ)ご油断召さらぬよう、とくとご用心頂きたいのであります。 8章 哀れ・・・入魂の内装篇に続く・・・・・・・ |