涙のマンション内装記

5章 堂々完成、感涙入居の巻

 2000年の正月が明けた。
帰国後もお舅さんから頻繁にFAXが届く。
壁と天井のペンキ色が分からなくなった・・・・・・・そら!始まった
照明器具が1個足らない・・・・・・1個々箱に取付け場所まで書いたのに、そんな訳ないだろ〜
家具の組み立てが出来な〜い・・・・・・・知るか!クィーンベッドなんか先に入れるからだ!
照明器具の部品が足らない、何処で買ったんだ〜・・・・・・一緒に買いに行ったじゃないかョ〜
その返事が届いた。

「何とか取り付けた、ちょっとグラグラするから接着剤で付けといたから大丈夫安心しなさい」
「馬鹿言うんじゃない!糊で付けて何処が安心出来るんだァ!頭の上に落ちてくるぞ!」
こんな具合である。

12月中完了の予定が翌年1月にズレ込み月末に、完成間近の写真を送ってきた。
恐る恐る覗き見た。一応クロスも部屋別・天井・壁、間違いなく貼られているし、照明器具も所定の位置に付いているので、まずはホッと胸を撫で下ろす。
写真では細かい所まで分からないから、安心は出来ないが一応当初の目的は達成したようだ。

すぐにでも上海に飛びたかったが中々そうも行かず、4月に入って漸く都合がついた。
格安チケットなので文句も言えないが、夜8時に浦東空港に降り立った。
出迎えのお舅姑さんと挨拶もそこそこに、心配で高鳴る気持ちを抑えつつマンションに直行。
とうとう、血と涙と汗の結晶の扉を開く瞬間がやって来た・・・・・・・・クフゥ〜(涙)

          掃除を終えたリビング

       ヌードのエッチングわかりますか?

ウン??なんだコリャ・・・・・・・視界に飛び込んできた散乱したダンボール、窓ガラスは外が見えないほど埃まみれ、まるで昨日工事が終わったばかりのような惨状である。
今日は此処に泊まれるのかしらんと、首を傾げたくなる様相でありました。
日本では普通、引渡しともなれば塵一つないよう掃除と気配りをして臨むものだが、ヤッパリこの辺の感覚が日本と中国では大分違ってくるなぁ〜。
私も随分と鍛えられたから前ほどムッとは来なかったが、もそっと何とかならないかと溜息。
引き攣った笑いに醒めた目で暫し談笑、社交辞令的にお舅さんの労に御礼申し上げた。
「疲れたろうから、今日はゆっくり休みなさい」・・・・・・・・・・何処で???
お舅さんは、決して悪気ではない言葉を残して帰っていった。

女房が「私疲れたから、先にシャワー入るョ、い〜い」 「待て!待て!チョット待たんかい!」
亭主の威厳と最大功労者の特権を持って、最初の風呂はまず俺から先が順当だろう!断固拒否する。
4月とはいえ、夜はまだ冷える。
ウッシッシ〜こんな事も有ろうかと浴室にも暖房設備を入れておいたのだ。
ブォ〜ン・・・・・心地よく響く音と共に暖風が吹き出てきた。
頃合を見計らってスッポンポンに成り、シャワー栓を捻ると心配した湯量も申し分なく噴き出てきた。
ウン、これぞ文化的生活だ、チョロチョロではいけません。

「ア〜ァ やはりガス給湯器はドイツ製にしておいて正解だった」

苦労の末の達成感に包まれ、自然にご機嫌な鼻歌も出てくる。

パ〜〜ン・・・・・・・・突如!真っ暗???ナナンダ、どしたんだ!

一瞬何が起こったのか訳が分からない。
もう鼻を摘ままれても分からないほど目の前は漆黒の闇。
時を経ずして、シャワーの湯もお酒は緩めの燗がいい状態になり、一気に地獄に突き落とされた。
慌てた女房が、すぐさま備え付けのTV電話で1Fの管理室に抗議に及ぶが、何処で油を売っているのかアホ宿直警備員の奴が中々出ない。
可笑しさで吹き出すのを堪える妻が「もうチョット待ってネ〜」と浴室で水滴を滴らせ、濡れ鼠のように震え上がっている私を励ますが、・・・・・・・・・・・・待てるものか!
何が24時間管理体制だ、嘘をつくのも大概にしろ!その待つ間の長かった事、グヤジィ〜。
やっと捕まえた警備員がすっ飛んで来て曰く、

「駄目だよ〜そんなに使っちゃぁ、ここは元々1戸20Aしか入って無いんだから」

アホ抜かせ!そんなんで足りる筈が無かろうが!日本じゃワンルームマンションだってもっと大きいぞ!

「申請し直せば40Aになるけどネ、他の部屋は替えたみたいだョ」

お舅さん、頼むよ〜〜 そんなの先にやっといてョ〜(泣)
上海はガスストーブの類は許可されていない、全部電気である。それに各室全部エアコン付けたのに、40Aに直しても注意せずば又酷い目に合いそうで現在もコワイ。

       憎き!風呂と便座

           厨房

         麻雀室?

清々しい朝とは言い難い朝を迎えた。幾分風邪気味である・・・・・・・・何て事だ!
朝日の光を半分ぐらいしか通さない、汚れた窓ガラスが一段と気を重くさせる。
40Aに直すまではエアコンは1台しか使えない。
朝一番でお舅さんに言わねばなどと考えながら浴室トイレに向かう。
昨日の忌まわしい惨劇が甦りそうである。用心深く注意して便座に腰を下ろし用を足した。
ムムッ!無情にも紙巻器に紙がナイ。昨日着いたばかりで、其処まで気が廻らなかった。
幸か不幸か、ウォッシュレットはセットされていた・・・・・・・やるか?
使用試験なしでは不安も残るが、この際致し方ないだろう・・・・・・・・・

今までの経緯からして、名うての中国製品だからと厳重に疑って掛かった。
お湯の出る構造自体がまったくTOTOとは違っているが、普通、便座から尻を上げれば適温湯は止まるものと認識はしている・・・・・・・・・・・が
私だって馬鹿じゃない。用心の上に用心を重ねたい。
水量、湯温とも小に合わせ、何度も声に出して指差し確認した・・・・・・・エエ〜イ俺も男だ!
恐る恐る震える手で洗浄スイッチを押す〜プチッ・・・・・・・・・・ギギヤャー轟く悲鳴が木霊する。
勢いよく発射された熱湯、しかも飛び退くように持ち上げた尻目掛け熱湯が追いかけてくる。
時ならぬ耳を劈くような絶叫に、何事が起きたのかと慌てて飛び込んできた女房もビックリ。
無様に尻を丸出して喚く私の姿に大爆笑。

以来暫く、水戸様に火傷を負った私は女房殿に頭が上がりませんでした。
言っておきますが、ここは中国、アメリカや日本とは違うのです。当然何の保証もないのは先刻ご承知なのではあるが・・・・・・・・・・・この恨みなんで晴らで置くべきかの心境。
せめて取り換えるなり修理して貰おうとお舅さんにお願いするも、電話した販売店はとうに店じまいで連絡叶わず、正に踏んだり蹴ったりでありました。・・・・・・・本当の話ですョ〜〜
後日、ようやく製造元を探し出し、取り換えてからはマァマァ使えていますが、いつ又機嫌を損ねるか戦々恐々とした使い心地なのであります。

その日1日痛む尻を押さえつつ、15階の窓から身を乗りだしサーカスまがいにセッセと窓拭きをする私は一体何なんでしょう?
果たしてこの先、中国でうまく生活出来るのか、暗澹たる思いに自問自答する私でありました。

6章 騙されない家具の買い方篇へつづく・・・・・・・

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