涙のマンション内装記
| その後、数日経っても進展なし。 私達は膨らむ夢を胸に建築材料専門街で、使用したい大理石、タイル、システムキッチン、浴槽等を見て歩く毎日だった。 お舅さんの話ではすぐにでも設計士を連れてくるような口振りだったが気配も無い。
日本では普通、内装のレイアウトやデザイン、材料の仕様など決まってから全体の予算が ハッキリするものだが、どうもそうではナイらしい。 お舅さんの頭の中では、すっかり完成予想図が描かれている風情。、肝心の私らの希望も聞かず、概算集計に余念がない。 それで出てきた金額が15万元・・・・・・アララ〜〜又値上げされちゃったィ。 当初、内装費は10万元あれば楽勝と言っていた筈なのにナァ〜・・・・・・・・・ 段々不信感が募ってきて険悪な空気が漂う。こんな時同居は始末が悪い。 いや!ただの居候ではナイ、私にはちゃんと払うものは払っているとの気負いもある。 いくら日本語が分からないとは言え、「いい加減にせいョ!一体どうなってんだァ!」と女房 とヤリ合っていれば雰囲気で察しがつく。 中間に立っている女房殿が気の毒なのは百も承知であったが、甘く見られるのはイヤだし、最初が肝心だから言いたい事は言わせて貰うと、私も強硬姿勢。 ウロウロと双方の仲を行き来して取り持つのであるが、一旦不信感を伴った溝が出来た以上、 そう簡単には埋まりそうもなかった。 デザインでも衝突した・・・・・・・・・ 私達夫婦は都会的で洗練されたイメージを持っていたし、派手目な色彩を好むが、お舅さんは竣工の暁には親類縁者に自慢したいのか、中国然として紅木の家具が似合いそうな オーソドックスな造りを描いていた。 女房を介しての悠長な説明にイライラしてきた私は図面を書く事にした。 どうせ書くなら、あとで来るであろう設計士にも容易に説明出来るモノにしようと思った。 こんな事になると思っていないから、何も持って来ていない。せめて三角定規とコンパスと 出来れば製図板くらいは欲しい。 それで女房と早速近くのデパートに買いに行った。 有ったのは子供用の三角定規と消しゴムだけだった。 もっと専門店を探せばあるのだろうが、兎に角、周辺のデパートには其れしか無かった。 製図用紙など望むべくも無く、コピー紙も値段が高くバラ売りは無かったので、仕方なく包装紙 のような大きな白いだけの紙を買って来て、四つ割りに切り分けた。 製図台はお姑さんの古いミシン台を引っ張り出し、それを代用する涙ぐましき努力。 コンパスが無いのにも困った。しょうがないから台所に忍び込んで大中小の茶碗を代用した。 恐ろしく原始的な条件の中、何とか用意は出来た。いざ書こうと思ったら、今度は照明が暗い事に気が付いた。 お舅姑さんが自分達の8畳程の寝室を明渡してくれて、そこを仮の宿としていたが天井にポツン と60W程度の電球1個だけ・・・・・・・・・・結局、スタンドまで揃える羽目になった。
悪条件の中、現場の実寸法を元にかなり正確な平面図を2日で描きあげた。 お舅さんも漸く私達の意図を飲み込めたらしく、渋々ではあるが一応了承してくれた。 「図面があるから設計士も呼ぶ必要ナイ、これで出来る!」 「そりゃないだろ〜、平面図1枚だけで工事出来る訳ないョ」 と言いつつ、私も燃えてきた。この先設計士と仮に打ち合わせても、私の意図する所を分かって貰えるまで又繰り返し同じ労力や時間を費やさなければならない。・・・・・・・・考えただけでもゾッとする。 それなら自分が描いたほうが100%思い通りになるし、納得も出来る。 こうなりゃ旅行も中止ダ。 成り行きながら、お任せのつもりだった内装工事は思いがけず日中合同協力となり、私も積極果敢に参画する流れになった。 1週間後には大工さんが乗り込んでくると言う、さあ忙しくなったゾ〜。 それまでに各室の平面詳細図、展開図など描いて置かなければならないのダ!。 この時は「これで良かった」と思った。 私も今までの流れから、中国での〔おまかせ〕は大きなリスクや誤解を孕んでいると薄々感じてはいた。要は自分が直接タッチしていかなければ、後で文句を言っても、もう遅いのである。 日本のように「信頼して任せて貰った以上、必ず期待に応えよう」との意識は全部とは言わないが中国にはナイ。少なくとも私は常に〔信頼は裏切らない〕という気持ちで、長い事日本で建築の商売をしてきた。 国が違うと、どうもこの辺が違うようである。 オーナーから任されたら〔自分勝手にして良い〕と勘違いしているようで、当然あとで怒鳴り合いのトラブルが待ち受けている事になる。 だからキット長い間、請負方式の内装が受け入れられなかったのではないかと感じた次第。 悲しいかな、私の見る限り上海人同士でも中々信用しない場面に多々遭遇する。 生き馬の目を抜くの通り、信用して騙されたら騙された方が負けという不文律のせいかも知れない。ここで説明し出すと長くなるので、別項の[上海よいとこ一度はおいで]を是非読んで戴きたい。 私も此処は日本ではなく、よその国である事を否応無く改めて認識させられた。 トラブっていた概算の内装予算も黙って飲む事にした。 女房のメンツもある、お舅さんの顔もある。よその国へ来て、私の仕切れる事は殆どないと観念して従った方が無難な気がした。 譲歩する所はするが、私も日本建設業者として恥ずかしくない技術やプロのメンツに賭けて、いい加減なものは作らない!作らせない!の意気に燃えてしまった。 イカン、イカンすでに肩に力が入っていた事を、この時は気が付かなかったのでア〜ル。 3章 いよいよ日中協力突入の巻に続く・・・・ |