儲かりまっか?上海

9.激戦区を制す!

                                                        2005年12月
 このビヤ樽ビル地下1階には、パン屋の並びにズラッと餐庁が犇(ひしめ)いている。
台湾小吃、日式餐庁、喜〇方ラーメン、韓国ビビンバ、ベトナム料理、意太利スパゲティ、それと一番奥に1杯25元(350円)〜60元(840円)の高いコーヒーを飲ませる喫茶店がある。
ここもコーヒーだけでは厳しいらしく、中式の食事も出しているから、計7軒の国際色豊かな外食激戦区となる。
おっと、忘れちゃいけない麦当労(マクドナルド)も、エスカレーター近くの好位置に今内装工事中だ。
なんたって集客率はケンタッキーと並んでNO1!オープンした暁にはエスカレーターで降りてきた客が、そのまま麦当労に吸い込まれていくのが見えるようだ。
だから外食激戦区といっても、麦当労だけは別格扱い、喧嘩したって端から勝ち目がないのは分かっている。
それなら寧ろ、麦当労目当てに集まってくる客のお零れを、少しでも自分の店に引っ張ってこられるよう努力した方が得策というものだろう。
そこで認知度を早く得るには先手必勝とばかりに、まず台湾小吃がバタバタとオープン。日を置かずして、同じく勝ちを急ぐ日式餐庁が、負けじと大慌てで営業を開始した。
その他は内装工事が終わっているものの、12月2日現在まだ準備中である。
私は日式パン屋であんぱんを買ったついでに、いつもここをそぞろ歩き、いつ開店するのかを楽しみに見て周る。

トップで開店!台湾小吃・・・・値段が安いので、客の入りは上々

電飾メニュー・・・・タンタン麺9元、茶碗蒸し3元がお薦めか?

 台湾小吃は麺類が中心で、比較的安く値段設定したのが功を奏して、最初からそこそこ客が入った。
この店の一押しはタンタン麺。入口脇の照明看板に表示されたメニュー写真が、とても美味そうだったので、私らもオープンを楽しみにしていた。
店内は開店早々ということもあって、確かにまだ内装は綺麗なのだが、雰囲気は庶民屋台そのもの。
忙しく動き回る配膳小姐(ウェートレス)もぶっきらぼうで、着ている服も垢抜けない私服である。
レジで泰然と構えている海坊主のような大男が店主らしく、時々思い出したように店先へ看板を立てたりして雑用もこなしている。
注文方法が変わっていて、各テーブルにはメニュー用紙が置いてあり、各々自分の食べたいものに丸をつけるシステムになっている。口頭では言わないから、なんとなく料理とは別な味気なさを感じる。
まぁ、食べ物屋は味が命!料理さえ美味ければ、そんな素っ気無いマイナス点など吹っ飛んでしまう。
おっと!そこでタイミングよく運ばれてきたタンタン麺・・・・・・まず一目見て食欲を見事そがれた。
麺あくまで白く、夏場に食べる素麺(そうめん)に極似していて、スープは澄み切って殆ど色がない。
辛うじてタンタン麺だと思わせるのは、炒めた挽肉の具と青梗菜(ちんげんさい)が載っている事か。
これが正統派タンタン麺なのか?私が何度か食べている、見るからに辛さが伝わってくるような赤黒いスープとは、遠く懸け離れている。それとも、これが台湾のタンタン麺というものか?
まだ心のどこか期待を残しつつ、まずはスープを啜ってみた。
ズズズゥ〜・・・・・・うん?味がない、するのは私の嫌いな香菜のきつい味だけで、スープそのものには味がない。
日本の塩ラーメンのようにスープは澄んでいても、しっかり丹念に出汁を取ったものとは、比べようがないほどまったく違う。もう、これが台湾のタンタン麺なんて言わせない!不味いものは誰が食べたって不味いんだ!

「これ味がないねぇ、タンタン麺ってもっと辛くなかったっけ?」
「ワタシはこういう味好きだよ、まぁ、まぁ、美味しいんじゃないの」

女房の奴、なんて味覚してるんだ!これが美味しいなんて、どこからそういうことが言えるかねぇ。
やはり店が素っ気無いと、出てくる料理も味がないようだ。それじゃ、せめて辛さだけでも何とかしたいと思っていたら、その気持ちが伝わったのか小姐がテーブルに載っている油辣子を好みで入れるのだと教えてくれた。
ところがコイツが酷い辛さだった。こっちも用心して大して入れなかったのだが、丼一面に細かい唐辛子の赤い葉が、まるで花が咲いたように浮き上がった。こうなると、もうただの辛いお湯を飲んでるのと同じだ。
さすがの私も、勿体無いという事よりも先に、それ以上箸が延びずギブアップした。

「もう俺はこの店来ないからね、全然!うまくないよ」
「あっそ〜ぉ、わたしはまた来てもいいけどね。そうだ、今度お母さんを連れてこよう」

なんだか珍しく今日は気が合わないね。それにしても、こんな低価格の庶民食堂スタイルで、高い家賃を払ってやっていけるのだろうか、人事ながら気になってしまった。

焼肉屋のような店名だが、日式餐庁・・・・・値段はリーズナブル

満開の桜を演出・・・・簡単に散らないで、頑張ってよ!

 数日して、隣りの日式餐庁へ出向いた。もう二度とここで食べることはないだろう、台湾小吃の照明看板を苦々しく見詰めながら、隣のオープン間もない店の前に立った。
2つある入口には、それぞれ両サイドに華やかな生花が置かれ、新規開店気分を盛り上げている。
この店にも照明看板が設置されていて、カツ丼、天丼、鰻丼、などのメニューがカラー写真で紹介されていた。
それに移動用ショーケースもあって、実物と見間違うほど良く出来たサンプルが並べられている。
値段は日本料理店としては良心的に設定されていて、これなら懐を考えず気軽く入りやすい。
メニューも豊富で数十種類はありそうだ。前述した品ののほかにオムライス、カレーライスは言うに及ばず、焼き魚に煮魚、うどんに焼き鳥、果てはクリームパフェやコーヒーまで網羅している。
これでは昔のデパート食堂と同じで、無いのはお子様ランチくらいである。ちょっと欲張りすぎじゃないかぁ〜
因みに代表的なカツ丼が22元(300円)、天丼が32元(450円)、鰻丼が23元(320円)と、お手頃な値段なのが更に気に入った。この値段では、そう期待するのは無理かもしれないが、元々食に拘らない私など、ちょっと日本の味が楽しめればいいのだから、リーズナブルな値段に越したことはない。

 昼時は込み合うと思って、1時間ほど時間をずらしてきたが、まだ6〜7組、15人ほどの客がいた。
客席スペースは隣りの台湾小吃より3倍くらい広く、内装もそこかしこに日本情緒の演出がなされていて、特に壁面一杯に舞う桜吹雪の写真なんか泣けてきそうだ。
若い小姐ウェートレスが、真新しいお揃いの制服姿も初々しく、忙しそうに店内を動き回っている。
一見、順風満帆な滑り出しを思わせて、結構、繁盛しているかのように見えたが、それとは違う嫌〜な雰囲気が何となく漂っている。店内を包む空気が妙にピリピリと殺気立っているのだ。
どの客も憮然とした顔をしているし、第一、餐庁なのに食事をしている人が少ない。
ハッハ〜ン、私は直感的にピン!ときた。
調理が遅くて、注文の品が中々出てこないらしい。そういえば待ち草臥れたのか居眠りしている人さえいる。
奥からは時折、声を殺した叱声も聞こえてきて、開店早々の厨房での混乱振りが窺えた。

「どうする?こりゃ、止めた方がいいかもよ」

私は女房に耳打ちした。まだテーブルにも座っていないから、そのままUターンして店を出ればいいだけだ。
ちょっと躊躇していたら、突然、客席の奥から女性の甲高い声が響いてきた。

「なによ、これ!頼んだものと違うじゃない!なに聞いてんのよ!」
「そうよ!30分も待たせといて、いい加減にしなさいよ」

まだ十代の若い配膳小姐は泣きそうな顔で謝っている。
そう、そう、客商売はその謙虚さが大事なんだ。これが二十歳を過ぎて、多少世の中が分かってくると、決まってスレてくる。遅いのは私のせいじゃない!って顔で、堂々と胸を張っちゃうのだから恐れ入ってしまう。
服務のお姐ちゃん、忘れちゃ駄目だよ、その気持ち。男はそういうのに弱いんだからね。
 
 これは面白そうだ!私の野次馬精神にまた火が点いた!この際、料理はどうでも、しばらくこの様子を見て行こう。私は素早く席を探し、通路側にあるガラス寄りの席に陣取った。よし、よし、ここなら店全体が見渡せる。
私の顔なんか、もう嬉々としちゃって、これから起こるバトルを、目の当たりに観戦できる幸運に胸が高鳴った。

「もうイイ!キャンセルしてよ!お昼時間とっくに終わっちゃったよ!」
「あ〜ぁ、今日はお昼抜きになっちゃった〜、どうしてくれるのよ〜」

もう一人の小姐は空腹で腹に力が入らないのか、そういうと弱々しく溜息をついた。
スーツにネクタイきちっとを締めた大堂経理(フロアマネージャー)も飛んで行き、服務小姐と一緒に謝っている。
ちょっと昔だったら、この程度の餐庁じゃ、こんな光景は見られなかった。たとえ店側に非があってもメンツがあるから、こんなにペコペコは謝らなかったような気がする。
中国も資本主義的サービスが浸透してきている。時代をいち早く受け入れて消化してしまう中国の人は凄い。
結局、それでも堪忍袋の緒が切れてしまった二人の小姐は、勘弁ならん!と席を蹴り、上着を引っ掴むとカンカンになって店外に出て行ってしまった。
なんだ、もう終わりか、期待した割りに呆気なかったな・・・・・人の揉め事を喜んで見ていてはいけないと思いつつも、火事と喧嘩は江戸の華!私は三代続いた江戸っ子の端くれとして、中々この癖は直りそうもない。

待ち草臥れて居眠りしてる人・・・・文句を言わないだけ、ありがたい

昼が終わり、いきなり閑散とした店内・・・・スタッフ全員放心状態

 私らの注文を聞きに服務小姐がやって来た。

「大分揉めているようだね。辛いだろうけど頑張ってね」

私は中国だと、どうしてこう口が軽いんだろう。日本だと厭らしい中年親父とか、助平たらしいとか言われるのが関の山だけど、こちらだとまず日本語が分からないだろうと思うから、きっと軽く言えるんだろうね。
案の定、いきなり日本語で話し掛けられた小姐は、また文句かと一瞬たじろいだが、女房が通訳したらニコッと笑った。女房が野菜炒め定食20元(280円)と手羽先焼き鳥7元(100円)、私がカツ丼22元(300円)と肉豆腐17元(240円)を注文した。
今日は出来上がりが遅いのを相当覚悟しなきゃならない雰囲気だが、これから滅多に遭遇できない騒動の二幕目が見られるなら、待つこともまた楽しである。

 私らのテーブル近くに、2組4人づつの客がいた。1組は中国人、1組は日本人のグループである。
双方1人ずつ、残りの3人が見守る中、気まずそうに食べている。どちらが先客なのか知らないが、厨房はどのテーブルがどの注文なのか、もう分からなくなっているのだろう。
そうポツリポツリと時間差攻撃で運んで来られては、グループで来ているテーブルは全員が食べ終わるまで、かなり時間を食ってしまう。
日本人組は3人が食べ終わったのに、最後の4人目のがまだ来ない。何度か催促したらしいが、依然として梨の礫(つぶて)のように持ってくる気配がない。
日本人はこんな時でも怒りをストレートに出さない人が多い。この男性もあくまで冷静さを装って皆と雑談していたが、とうとう我慢できず、通りかかった配膳小姐を呼び止めてキャンセルを伝えた。
表情は穏やかだが、もう二度と来ない!という決意が漲っている。大堂経理もやって来て、もうすぐ出来るからと宥めたが、もう意固地になってカタコトの「不要」を繰り返した。

 片方の中国人組はそんな大人しくない。
男女とも2人づつのグループは、男の方が先に食べ終わっている。男は何となく後ろめたを感じているから、会話も上の空で弾まない。
また間の悪いことに飛んで火にいる夏の虫、そんなところへ配膳小姐が器を下げにきた。

「一体いつまで待たせるんだよ、こっちの2人はまだ食べてないんだぞ!」

店内の隅々まで聞こえるような大声で文句が始まった。器を載せたトレイを持ったまま、若い小姐は身を固くしている。すでに苦情処理係と化した大堂経理も、向こうの方からテーブルの間を泳ぐようにしてやってくる。

「こんなに待たされる店、はじめてだよ!あんたの店、やる気あるのかい!」

よし、よし、ますます予想通りの展開になってきたぞ。今日は大ラッキーだ!こんなチャンスは滅多にない。
私はこのチャンスを何とかカメラに収めたかったが、さすがにそこまでは気が咎めるし、その勇気もない。
女房にどんな文句をいっているのか通訳を頼んだが、当たり前のように拒否された。

「あんたねぇ、人が揉めてる傍で、通訳なんかできる訳ないでしょ!考えてもみなさいョ」



 日本だって中国だって、自分よりあとから来た奴が先に食べてると、いい気持ちはしないものだ。
しかも食べ終わって、そいつが店を出て行っちゃったりすると、忍耐にも限界がくる。
どうも厨房の方は、早く出さねばという気ばかり焦って、面倒な注文は後回しにしているようにも見受けられる。
日本の場合なら、普通、客がいちゃもん付けて怒鳴ったりすると、周囲はその勢いに気圧されて大人しく見ているものだが、中国人はここが違う。
誰かが口火を切ったら、自分も言わなきゃ損だと思うのか、あちこちから一斉に不満の声が上がった。
私が見ていた印象では、店側の非は非として、相手の辛い立場を慮(おもんばか)るような気持ちは微塵もなく、手負いの獲物を更に追い詰めるような厳しさが感じられた。中国は・・・・・・・怖いとこだ!

「こっちは、1時間よ、1時間!もう要らないから帰るわ!」、

中国人は話を大きくしたがる癖があるから、これはちょっとオーバーだろう。
隅のテーブルにいた母娘カップルは、娘の方がまだ済んでいないらしい。背の低い母親は、手前にある衝立から顔だけ突ん出して怒りをぶちまけた。

「なによ!これ!」
「一人分のお代だけお願い・・・・・します」
「あんたねぇ、注文したのは中々来ないのに、そういうところだけはシッカリしてるね!」

配膳小姐もこれが仕事だ、言い難くても言わねばならない。最後の言葉が消え入りそうに、おずおずと言った。

「いいわよ!払うわよ!だけどもう二度と来ないからね!」
「いえ、今日は店の不手際ですから、お金は結構です」

大堂経理が口を挟んだ。母親はさもそれが当然という表情を見せ、「さぁ、行きましょ!」と空きっ腹で不満顔の娘を急き立てるように促すと、足早に出て行った。
やれやれ、とホッとする間もなく、お次から声が掛かった。
一人で来て、悠然と38元もする豪華幕の内弁当を食べていた恰幅のいい金持ちそうな中国人おじさんだ。
セットになっているコーヒーまで啜り終えたが、一緒に頼んだ単品のエビの香草焼きがまだ来ていない。
やはり、“金持ち喧嘩せず”は中国でも活きているのか、微かな微笑さえ浮かべて待っていたが、どうやら待っていても時間の無駄と悟ったようで、おもむろに財布を取り出した。

「小姐、買単(勘定)!まだ来てない単品はキャンセルするよ」

それを聞いた配膳小姐は、謝って伝票と一緒に開店記念サービス券を持ってきた。この券は初回の食事金額の半額を、次回に割り引く券で、たとえば100元の支払いだったら50元のサービス券をくれる。
貧乏人根性丸出しの私たちも、いつもは約(つま)しいランチなのに、今日は思い切って4品も注文したのは半額と聞いたからだ。ここまで極端だと、ちょっとさもしい気もしますがね。大丈夫!女房は意に介していませんよ。
私らにとっては現金に等しいサービス券だったが、やはり金持ちは羨ましい、がっついたところがない。

「あっ、それ要らないよ、もう来ないからね」

そう言うと、あくまで笑みを絶やさず紳士的に帰っていった。店は上得意になるかも知れなかった客を失った。



 日本人の4人グループも一人だけキャンセルしたが、こっちも食べた人数分だけは、きちんと支払った。
日本人の金払いの良さは世界でも有名だから、よもや支払いで揉めるような事はないだろうが、やはり金持ちおじさんと同じように、この先リピートは利かないだろう。
店内に高まる不穏な空気を察してか、巻き込まれるのは御免とばかりに、そそくさと退散していった。

 中国人グループの残った2人に、ようやく料理が運ばれてきた。1人はチャーシュー麺18元(250円)、1人はカレーライス25元(350円)、いずれも中国人OLの昼食にしては破格の値段だ。
まさか、昼飯まで会社経費で落とす気か?いや、4人とも若いからそれほどの権限はないだろう。
時々餐庁で、気前よくどんどん注文をだし、大声上げて楽しそうに食事をしている光景を目にするが、女房曰く、そんなのは殆ど会社経費だそうで、それでちょっと勘繰ってしまった。
カレーライスを注文した内気そうな小姐が、一口食べてスプーンが止まり、何か戸惑っている。
こっそり女房に聞いたら、出来てからしばらく時間が経ったように冷めていて、これが本場日本のカレーライスなのか仲間に聞いている様子らしかった。一つの不信が次から次と不安を呼び起こすものである。

「小姐!このカレーライス、何でこんなに冷めてんだ!こんなの見たことないぞ!」

内気な小姐に代わって、同僚の男が文句をつけた。何で!と言われても、配膳お姐ちゃんだって困る。
昨日、今日、地方から出てきたような純情娘だから、恐らくカレーライスなんか食べたことないんじゃないかな?
今日は八面六臂で大忙しの大堂経理が言葉を繋いだ。

「日本では熱い物が好まれないので、日式料理の当店はそれに合わせているんですが・・・・・・」

ムムッ!聞き捨てならんぞ!誰がそんな事決めたんだ!
上海人は初めて食べるものでも、こんなもん、しょっちゅう食べてる!なんて平気で見栄張りますからね。
日式餐庁がまだ珍しかった昔なら、店からそう言われれば、大法螺(おおぼら)吹いちゃった手前、知ったか振りして矛先を引っ込めたかも知れないが、今はもうその手は通用しない。
日本人だってそんな冷たいカレーライスなんか食べないぜ。天ぷらだってトンカツだって、揚げ立てのアツアツだから美味いんだ。第一、ぬるいスープのラーメンなんて不味くて食えたもんじゃない。

「それじゃ、作り直します」と言って、一旦器を下げていった。
いよいよ最後の砦となってしまったOL小姐は、いま一掬い食べたスプーンを持ったまま固まっている。
当事者には申し訳ないが、プッと笑いが吹き出そうであった。
4人でヒソヒソ談合が始まった。どうやら昼休みは時間切れで、キャンセルする事に一決したようだ。

「小姐!そのカレーライスは不要!もう会社に戻らないと首になっちゃうよ」

清算伝票を見ながら、「今日はえらい目に遭った」とか「こんなに時間が掛かる店、初めてだわ」とかブツブツ、ワイワイ言いながら、それぞれが財布を取り出そうとしていたら大堂経理がやって来た。

「大変ご迷惑をかけました。次回はちゃんとしますから、今日の料金は結構です」

 この若いサラリーマンやOL達が、次回も喜んで来てくれるとは何とも言い難いが、無料にしてくれると聞いて一同思わず頬が緩んだ。
相手がそう出てくれば、人間とは現金なもので、さっきのブツブツ、ワイワイは何処へやら、「うまかった」だの「ここは綺麗な店だ」などと、中国人の変わり身の速さは天下一品!歯の浮くようなお世辞を連発して帰っていった。

 料理がまだ来ないので、文句の言いようがない私たちは、すっかり蚊帳の外。注文忘れちゃったんじゃないの?
バトル騒動も一段落したようだし、そろそろ持ってきてよ〜

10章へつづく


後記
昨年12月の半ば以来、倹約旅行記の方を優先させてしまったので、すっかり忘れられてしまったのではないでしょうか?このシリーズも現在進行中の話で、目まぐるしく展開が変わって中々面白いんです。
一気に書きたいのは山々なんですが、相変わらず気が乗らないと書けない性分に困っています。
好評ならば、なんとか春節の1月29日までには、次回 10.福建人の底力!を更新したいと思っていますので、どうぞ、皆さんも尻を叩いて応援してください。
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