儲かりまっか?上海

12.商売敵が続々オープン!

                                                        2006年1月
 2006年の新年が静かに明けた。
中国は日本と違い、新年を祝う特別なムードはなく、やはり1月末から始まる春節じゃないと、正月気分にはなれないようだ。
だが、私は日本人だから長年の習慣で1月1日の元旦は、やはりお正月には違いない。
周囲とのギャップに中途半端な気持ちになりつつも、せめて雑煮くらい食べたいものと、日本食材店まで餅を買いに行った。
中国にも餅はいくらでも売っているが、これがまったく似て非なるもので、うどん粉を捏ねて固めたような食感は、雑煮に合う筈もなく、昔の貧乏時代にお袋がよく作ってくれた、水団(すいとん)に化けてしまうのだ。

 ビヤ樽ビル地下食堂街も、2005年の年末には残りの店も揃ってオープンしていた。
レストラン激戦区も一層賑やかになったものと、新年早々出掛けてみたが、期待とは裏腹に人通りの少なさは大して変わっていなかった。
毎度、毎度、日式餐庁通いでは、女房もそろそろ堪忍袋の緒が切れる頃。
それで今日は別の物を食べると約束してきた。しかし、日式餐庁とは成り行きで懇意になってしまったから、素通りするのは何となく気が引けて、反対側の通路から大回りして各店を覗き見て歩いた。

 ベトナム料理店前には民族衣装のアオザイを着た小姐が立っていて、店の雰囲気を盛り上げていた。
アオザイは元々かなり体にフィットする衣装で、体型が諸に出てしまう欠点がある。ベトナムの若い娘は、このアオザイを美しく着こなすために、常にダイエットに心掛けているとも聞いている。
それをいくらベトナム料理店だからといって、いきなりぽっと出の田舎小姐に着せても無理があるだろう。
無残にもウエスト辺りのお肉が余って、ボンレスハム状態。きっとこの小姐も仕事とはいえ、嫌がっているんだろうな〜と察せられた。
店の前に掲げられたメニューの値段は、まぁ、周囲の店とも足並みを合わせたのか、お手頃価格。
店内は割りと広く、開店早々も手伝って約4分の入り。
後日、女房が友人2人とここでと食事をしたらしいが、味は可もなく不可もなくってところだったらしい。

そのお隣りは韓国ビビンバ専門店、本格的な石焼ビビンバである。
店内はそれほど広くないのに、配置よくテーブルが並べられていて、客椅子は50脚あった。
中国も韓国ブームなのか、韓国丼物が抵抗なく受け入れられて、こちらは5分の入り。
値段もナムルの標準ビビンバが18元(270円)と安く、他は載せる具によってそれぞれ違ってくる。焼肉ビビンバや海鮮ビビンバ、それにカレービビンバなんてのもあった。
味は正直いって旨い。熱せられた石焼の丼から、芳ばしい適度なおこげもあるし、甘味噌も本場と変わらない。
日本の焼肉店のビビンバと比べても遜色ない!というよりも寧ろこちらの方に軍配を上げたいくらい。
ただ、続けて通うと飽きそうな感じで、私らも10日ほどの間に2回食べたら、しばらくはもう食べたくないという、女房と一致した意見だった。

 ビビンバ店の真向かいにスパゲティ屋がある。
開店前、店のガラス面に貼り出されたビラでは、スパゲティ一本で行こうとする経営戦略が見られたが、やはりそれでは弱いと思ったか、生花が所狭しと並んだ華々しいオープン時には、何故か中華麺が加わっていた。
スパゲティと中華麺、同じ麺とはいえ、何ともチグハグな取り合わせになった。
ここは経営者の迷いが客にも反映して、40席余りのスペースに、たまたまなのか客はいなかった。

華々しい開店風景・・・スパゲティと中華麺の融合が受けるか?

韓国ビビンバ専門店・・・韓流ブームは中国でも通じるか?

 スパゲティ店の隣りは、同じ食べ物を扱う店でも餐庁ではなく、中国菓子を売っている。
中国も今やケーキなどの洋菓子に押され気味で、どこへ行ってもパン屋とケーキ屋は目にするが、中国菓子を専門で売る店はほとんど見掛けなくなった。
そんな時代に逆らうかのように、敢然と立ち上がった反骨の店ができた!
その意気や大いによろし!賞賛に値するほどである。時代に諂(へつら)う人間が多い中、よくぞ思い切った!
・・・・・・・と言いたいところだが、店構えが小さくてよかった。開店から現在で2ヶ月、やはり客が買い物をしている姿は極端に少ない。
店番をしている小姐も暇を持て余し気味で、たまに客がショーケースを覗いていたりすると、努めて明るく「歓迎光臨!」と声を掛けるが、そのまま素通りして行く客が多い。

 ちょうど食堂街の中間に位置しているのが、喜〇方ラーメン。
日本ではつとに有名なご当地ラーメンだが、ほんとに福島県から進出してきたのかというと、それはどうも怪しい。
この店のオーナーは台湾人だという話も聞いているし、中国ではよくあるパターンのブランド無断借用の線が濃いのではないだろうか?
そう考えると、味の方も到底期待など出来そうもないが、私も野次馬精神が旺盛だから、怖いもの見たさで今日の食事はここにしようという事になった。

 店内はビビンバ店と同じくらいの広さで、客席数は約50といったところだろう。
客の入りは5〜6人と少な目だった。やはり中国人には1杯の麺が20元(300円)前後もしては、どうも敷居が高いようだ。一歩外に出て裏通りに入れば、中国麺なら1杯5元(75円)で食べられるのだから無理もない。

 ラーメンの味を確かめるには、余計な具が入っていないシンプルな方がいいので、一番安い18元の喜多方ラーメンを二つ頼んだ。
といえば聞こえはいいが、私も女房も上海拉麺の安いのを知っているから、それ以上高いラーメンなんて食べたくないというのが本音なのだ。
喜〇方ラーメンは、女房と福島へ温泉旅行をした際、本場ものを賞味している。
独特のちぢれた太く平たい麺が特徴で、醤油味が基本なのだが、私はどちらかというと細麺の方が好みだったので、その印象はよく覚えていた。

 待ち時間は早くもなく遅くもなくで、湯気の立つラーメンがテーブルに置かれた。
割と大きくて深い丼の中身は、思わず覗き込むほどに量が少なく、ほとんど半分くらいしか満たされていない。
これでは益々中国人は食べに来ない。万事控え目を好む日本人だって、何か一言いいたくなってくる。
スープは醤油味とは似ても似つかない、一見してすぐ分かるとんこつ風だった。
とんこつスープは激戦の日本ラーメン界にあっても特に難しく、手順を誤ると、とんこつの苦味臭みが出てしまい、売り物にならなくなってしまうのが通り相場だ。
名店といわれる店や、人気ラーメン店のとんこつスープは澄んだ白濁色で、見た目は脂ぎっていても、味は驚くほどしつこくなくサッパリしている。
 
 果たしてこの店のはどうか?・・・・・・・丼の中に箸をいれ、スープを軽く掻き回してみる。
なんだか何回掻き回しても白濁色にはならないねぇ、黄色く濁ったまんまだよ。
今度は麺を掬ってみた。おやっ、細麺だね、まぁ細麺なら細麺で、私は好きだから構わないが、色が白っぽいってのが気に入らないねぇ。これじゃ、色だけ見たってスープと麺が丸っきり逆じゃないの!

 これでは食べてみるまでもなく、味は確定した。だが一応18元も出したんだから、ここで放棄しては丸損と思い直し、無理しても食ってやる!との意気に燃える。
麺を一口啜ってみると、夏場に食べる冷麦のような感触が口一杯に広がった。実に噛み応えがない。
おまけに失敗したのか、元々作れないのか、とんこつスープ特有の苦味と臭みも追いかけてくる。
これは明かに日本ラーメンを見た目だけ真似したもので、ついでに語呂のいい喜〇方ラーメンのブランド名を、ちょいと拝借した、中国人お得意のパクリラーメンであると確信した。
一昔の上海ならいざ知らず、今や日本の味だってこれだけ店が増えて、上海人も口が肥えてきた。
もう、いい加減な味で騙せる時代ではない。不味いものは誰が食べたって不味いのだ。
私はこの食堂街で、もし撤退する店が出るとすれば、まずこの店が最初だろうと予測した。

九州とんこつラーメン焦がしニンニク入り・・・35元は高くないか?

鴨1羽丸ごと入りの鴨鍋・・・3人前で65元とは、ちと安くないか?

 上海は旨いラーメン屋が少ない。広告紙には、「本場九州ラーメンいよいよ上陸」とか「東京ラーメン本格始動」とか仰々しい謳い文句で煽り立てているが、実際に食べに行って「これは旨い!」と納得したことはない。
腕に自信のある方は、案外、上海でラーメン店を開いたら当たるかも知れませんよ。

 左上の写真は、その宣伝文句に釣られて食べに行った黒子麺。
九州熊本のラーメンでとんこつスープがベースだが、焦がしニンニクが入っていて真っ黒なのが売り。
味は可もなく不可もなくで、正直、35元(525円)では高いと思った。
昼時なのに客は私らしかいなかったし、店には活気がなく、上海で一旗上げようとする覇気が見られない。
バス停の真ん前に店があるにも拘らず、中国人は見向きもしない。まるで近くの賓館に泊まる日本人だけを相手に商売しているようで、上海に根付いて、中国人も取り込んだ商売をする考えはないようだ。

 右上の写真は、上海でも結構有名な餐庁で人気の鴨鍋だ。私らも上海滞在中は2、3回行く。
大振りの土鍋に鴨が1羽丸ごと入っていて、なんたってスープの旨さが効いている。一緒に煮込んである竹の子も美味で、3人くらいで食べてちょうどいい。
これが65元(975円)で食べられる。もうこれは言わずもがな、まったく勝負にならない。
発展著しい上海でも、金持ちはごく一部。大多数が月収2000元(30000円)〜3000元(45000円)である事を考えれば、もう少し値段設定に熟慮した方がいいのではないかと、私は常々思っているのだ。

 他に中国火鍋屋があるが、ここは仕切りもなく通路の延長みたいな場所で営業していて、客椅子も10余り。
ライバル視するには相手不足と、問題外にしたいところだが、いやいや、中々どうして侮れない。
中国人向きの値段設定だから、いつ見ても客が入っていて結構繁盛している。オープン間もない客の入り前哨戦としては、ここと9章で紹介した台湾小吃に一歩先んじられた感じの食堂街であった。



 さて最後に残った、気になる肝心の日式餐庁の動向は・・・・・・
不味いラーメンを食べた帰り、チラッとガラス越しに横目で見た限り、心配したとおり客の姿は疎ら。
中国菓子店やスパゲティ屋よりはマシとしても、店舗の規模が違う。こちらは広さが5倍くらいある172u、家賃がなんたって7万元近くも掛かる店なのだ。
あ〜、なんだかオーナーの嘆きが聞こえてきそうである。
おっと!大堂経理の兄ちゃんがいた。やだね〜バッタリ目が合っちゃったよ。
客の入りが悪くてカリカリしているオーナーに、何か小言でも言われたのか?入口で客を呼び込むでもなく、看板の陰にそっと隠れるように立っているもんだから気が付かなかった。
こっちは別に悪い事をした訳でもないから、堂々としてればいいものを、他店で食事を済ませた帰りなので、若干の後ろめたい思いがする。日式餐庁の店内は閑古鳥が鳴いているから尚更だ。
ちょっと顔見知りになってしまうと、何となく気まずいもので、言葉は掛けず、照れ笑いと軽い会釈をして、真っ直ぐ通り抜けてしまった。
大堂経理の兄ちゃんも無言で笑顔を返してくれたが、その笑いは幾分引き攣っていて、乾いた笑いだった。

13章へつづく


後記
日式餐庁オープン騒動記シリーズは、次章で完結になりそうです。
この話が、全5話の長丁場になるなんて思っても見ませんでしたが、あと一踏ん張りです。
それでは次回、13.明日よくなれ、日式餐庁!で、またお会いしたいと思います。

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