各駅停車で松島の旅
| 2002年8月 「今晩ナニ食べた〜い」 梅雨明け以来、連日30℃を越す暑さが続くなか、食欲なんてある訳がナイ! タダでさえ我が家の献立1週間、ワンパターン繰り返しが続く貧しい食事内容では、もう逆立ちに振っても食欲の弾むメニューなど出て来ようがない。 「美味しいモンでも食べに行くか?」 たまたまインターネットで旅行情報を見ていた私が、ポツリと呟いた。 予期せぬ朗報に、家事不得意妻の目がキラリと輝く。 夏休みも佳境に入った今、急に思い立っても海外旅行は難しい。 第一何処の国に行くにも、女房のビザ取得の難題が常に立ちはだかっている。 「電車に乗って民宿でも泊まりに行こうか?」 新鮮な海の幸が所狭しと並ぶ豪華料理が、パソコンモニターに映し出されている。しかも1泊朝晩2回の食事付きで、6500円〜7000円と格安。 たかが夕飯で思い悩むくらいなら、気乗りのしない国内旅行だって厭いはせぬと、女房の気迫も一気に漲る。行くなら、お盆休みの大混雑帰省が始まる前の今しかナイ! 思い立ったが吉日、早速最寄の駅まで〈青春18切符〉を買いに行く。 この切符は前々から知人の勧めもあって、夏休み限定、JR普通列車乗り放題という嘘のような話を体験してみたかった理由もあった。 青春と銘打ってあるから、学生中心と勘違いする向きもあるが、実際は老若男女に関係なく誰でも利用できる。1枚で5回分使用出来て11500円、割れば1回分2300円の目玉商品。 しかも1日の間なら、何処の駅でも乗り降り自由だ。 ここで第1のミスを犯すことになる。 悲しいかな貧乏人根性が、こんな所にも頭をもたげ、何処まで行っても料金が同じなら、なるべく遠くに行かなきゃ損だと考えてしまうのが浅ましい。 欲望は際限なく広がる・・・・・・・・ どうせなら海水浴も出来る場所。それも願わくば、人が余り居なくて水の綺麗なところが望ましい。 毎年1回、女房にせがまれて江ノ島へ海水浴に出向くが、あそこはいけません。 芋を洗うような混雑と海の汚さ、それでも海水浴とは縁のない上海人女房は嬉々としてはしゃいでいる。 以前行った沖縄は別格として、本土にも綺麗な海はあるんだ!という所を見せてあげたい気持ちは前からあった。 かくて、帯に短し襷に長しの選定結果、東北の気仙沼辺りに決定。 時間の掛かる普通在来線を考慮して、上野始発5:10に是が非でも乗ろうと固い決意をお互い確認して、早めに就寝した・・・・・勿論、目覚ましを2つもセットして。
無情にも目覚まし時計の針は5:00を指している・・・・ア〜なんてこったい。 4:00に起きなきゃ間に合わないのに、5:00に起きてどうする! 始め良ければ終り良し、最初からこれでは先が思いやられそうだ。 「起きろ!起きろ!ちゃんと目覚まし掛けたのかョ〜」 「あれ?なんで鳴らなかったんだろ〜、オカシイョ」 おかしいのはアンタの頭じゃネェのか・・・・・・・・頼みっ放しで寝てしまった私にも落ち度があるゆえ、グッと堪える。 急遽次の6:34発列車に予定変更。時間に余裕が出来た所為か、又寝ようとする女房を叩き起こす。 どうにか上野駅にはギリギリ滑り込み6:20に着いた。 さぁ、ここからが分からない。何番ホームなのか、誰に聞いたらイイのか? 思い余って、中央口の彼方に見える改札口まで駆けて行き、息を弾ませ駅員に尋ねた。 「仙台行きは何処から乗るんですかぁ〜」 「その切符じゃ乗れませんョ」 「ウン???」 後ろを振り返ると、女房が青春切符をヒラヒラさせている。 頭上を見上げると新幹線乗降口と大書した看板が見えた。 そりゃぁ、そうだろう。これで新幹線に乗ろうなんて私も思っていない。 「いえ、普通電車、在来線です」 最近、電車・列車の類は滅多に乗った事がナイ。JRになって以来、駅員は随分親切になったようだ。 すぐさまファイルされた時刻表を取り出し教えてくれた。 「早く!早く!駆けて!駆けて!」 無理言うなョ、肺と心臓に欠陥があるのは知っているだろ〜・・・・ この期に及んで、自分が化粧なんかに時間を掛けるから遅れたんじゃないか! 息せき切って、兎にも角にも列車には乗れた。まずは第一関門突破成功。 それにしても、さっき駅員が妙な事を言っていたのが気になる。 「在来線?仙台行きはナイですョ、宇都宮で乗り換えて下さい」 今まで国内も団体ツアーのバスか飛行機での旅行が殆どで、列車旅など皆無に等しい。 当然、時刻表の見方なんぞ分る筈もナイ。 それに外国旅行に行く訳じゃない。唯一私だって話せば通じるここは祖国日本。 駅員に聞けばナントカなるだろうと、なんとも無責任な旅の始まり。 まさに行き当たりバッタリのツケは、すぐに現れて難儀するのでありました。 まず最大の勘違いは、上野から仙台まで時間は掛かれど直通一本で行くと、勝手に思い込んでいた事であります。 ナント、宇都宮〜黒磯〜郡山〜福島〜仙台と乗り継ぎ乗り換え4回。 朝6時半の電車に乗って、仙台着は午後2時過ぎ。 延々今時8時間も掛かるなんて予想外の外。 インターネットで調べたお目当ての気仙沼民宿まで、更に延々と支線に乗らなきゃならナイ。 そんなぁ・・・・・・・・こりゃ時間切れは目に見えてる。 という訳で、又々急遽予定変更、断腸の思いで松島にて途中下車。 カミさんの言う事を聞いて、気仙沼の民宿に予約など入れてなくて良かったと安堵の溜息。 さて、松島も風光明媚な有名観光地。当然降り立った駅には、案内所なり旅館のパンフレットがありそうと探すが、無情にもナイナイ尽くし。 心なしか有名観光地の割りに、駅前も閑散としている雰囲気に???。 振り返って駅名をしかと見ても「松島」に間違いナイ。それにしては海も見えないし、同名の似ても似つかない駅に降りてしまったのか不安がよぎる。 思い余って駅前タクシーの運ちゃんに・・・・・・・・・ 「この辺で美味しい料理を食べさせてくれる民宿ナ〜イ?」 「賑やかなのは、この一つ先の〈松島海岸〉だけんど、ホテルと旅館ばかりだョ!15分も行けばイイ民宿が沢山あるけんどョ〜」 「美味しいモン食べるなら、やっぱり民宿が一番でねぇかぁ〜」 田舎の道は信号も車も少ない。日本の果てしない道路整備のお陰で、有料道路と見間違うくらいの海岸線道路をズンズン行く。 それにしても何でエアコン入れてくれないんだ!暑くて堪らんのに・・・・・・ 額に玉の汗の仇か、メーター料金が2千円を超えた辺りで、女房怒りの抗議。 「あと時間どのくらい掛かかの!?」 「安い民宿に泊まろうと思っているのに、こんなに遠くてお金が掛かるなら最初から言ってくれればいいでしょう!」 「冗談じゃナイョ!これじゃ騙されたのと同じだョ!・・・・ブツブツ」 歯に衣着せぬ、中国人の物言いここにあり。 抗議のそばから、無情にもカッチャンとメーター料金3千円が点灯。 「イイョ、イイョ、しょうがないョ」・・・・・・・・私の制止も効果なし もう、とどまる事を知らず罵声の嵐。 温厚な田舎の運転手さん、その剣幕に圧倒されて、どもるように口ごもる。 何とか「もう少し・・・・・だョ」蚊の鳴くような呟きを漏らして、ようやく到着。 ・・・・・・・・〆て4230円也。 「4千円でイイです・・・・・・」 さも当然だと言わん顔で憮然とするカミさん。 宿の女将と思しき初老の婦人、野良着同然でお出迎え。 照りつける真夏の太陽が一層苛立たせる。 急な坂をコケそうになりながら下って、連れて行かれた今日の宿。 これ又古びて朽ち掛けた民家。民宿だから民家は当たり前だが、マァ程度問題って事もある。 泊り客は私達を除いてもう一家族らしい。玄関先に脱ぎ散らかした履物で察しが付く。 しかも腕白そうな3人の子連れらしい。 お茶も持ってきた朴訥で素朴な宿のおばさん。 「遠いところからご苦労様です。ゆっくりしてって下さい。」 いきなり真上の部屋でドッスンバッタン・・・・・これじゃぁ、ゆっくりなど出来るモンか! 「帰りは駅までバスがあるんですか?」 「バスは乗る人がいないモンで、最近廃止になったデスョ〜」 ありゃりゃぁ〜・・・・・帰りも4千円かぁ!
観光地とは随分と離れた奥松島の民宿、えらいトコに来てしまった。 通された部屋は10帖ほどで、床の間付きの純和室。 田舎の家らしく柱も太く、天井も高い。すべてにゴツい造りが、却って落ち着かない雰囲気を醸し出す。 部屋を仕切るのは建て付けの悪い襖と障子で、夫婦者のプライバシーなど守られる心遣いは毛ほどもナイ。 ギシギシ鳴る廊下を先着の子供が、今度は勢いよく走り抜ける。 最近は親の躾が甘いのか、ベビーギャングを思わせる傍若無人振りに溜息。 きっと親である若夫婦も甘やかされて育ったのだろう。かって私の世代は礼儀だとか人様に迷惑を掛ない事を、叩かれながら泣き泣き躾けられたものだ。 込み上げる憤りに忸怩たる思いで居るところを、更に逆撫でするかの如く、突然その問題の可愛くない子供連が、バタバタと私達の部屋を駆け抜けていった。 ・・・・・・・ムムゥ、いい度胸だ!やるかぁ〜 この暴れん坊を窘めもしない若い親は、一体どんな躾を受けたのか、「まったく爺さん婆さんの顔が見てみたいもんだ!」・・・・・・天井に向かって聞こえるように言ってやった。 ギッギッと不気味に鳴り響き、泥棒除けには最適な階段を大人が下りてくる気配。 文句の一つも言ってやろうか!と思いつつ、開け放しの障子越しに目が合う。 ウン?台風子供の親にしては随分萎びている?こりゃぁヒョッとして・・・・・ ナンとした事か、噂の張本人、爺婆(ジジババ)連れで来てたのか! (さっきは聞こえましたぁ〜?あれはウソ、嘘!冗談だって・・・・・・・今更、皺々ジジババの顔なんぞ見たかナイョ) 顔に刻まれた深い皺が人生の苦労を忍ばせる。二カッと笑った善人そうな風体に、思わずこちらも意気地のない微笑返し・・・・・・・・・よくよく俺も善人に出来ている! カミさんは暫時待機の応接間と勘違いしているらしく、盛んに「ワタシ達の部屋はどこ?」と聞くが、「ここがそうだ」とは如何にも返答しずらい。 こうなれば今回旅行の最大の目的でもある、美味しい料理に期待を繋げるしかない。 6時に支度が出来るというので、それまで浜辺など散策することにして外に出た。 民宿の私有地から、小山をくり貫いた様な洞穴を抜けると、すぐに浜辺が広がっていて海水浴場にもなっていた。 さすが人里離れた過疎地、泳ぐ人も少ない。波打ち際まで行って見ると、思いの外水の透明度も高い。 これでこそ半分騙されて連れては来られたが、その甲斐があったと言うものだ。 筵と簾で日除けを作った囲いも料金を取られる為、人っ子ひとり居ない開店休業。 空しく休憩所の旗がはためいて、観光地から離れた漁村の寂しさが、そこはかとなく漂う。 浜辺沿いには4〜5軒の鄙びた店しかなく、何処も民宿を兼ねていた。 さっき宿を出る時出会った宿の主人が、昔は浜も人でごった返し、満足に歩けないほどだったと言う面影など今はナイ。
ひと回りして宿に戻り、ひとっ風呂浴びて食事を待つ事とする。 ゆったりした湯船に浸かる旅の楽しみなど、ここでは期待するだけ落胆するは必定。 まさか宿はボロでも風呂だけは立派、なんて事は今までだってお目に掛かった試しがない。 とっくに諦めているから、カミさんから先に入るよう促した。 姑息な手段ではあるが、そのあとで現況の様子を聞き、心構えの度合いを決めてから私は入ろうと思った。 そんな事も露知らず、鼻唄を歌いながらルンルンで腰を上げたカミさん。 間もなく戻ってきて、「お風呂がひとつしかナイョ?」 そりゃぁそうだろう、そんな事ぐらいでは驚くに当たらない。 民宿は始めてのカミさん、疑問は幾らでも湧いてくるのだろう。 確かに旅行に来ているが、ホテルや旅館に泊まっている感覚は捨てなさい。 普通の家に泊めて貰っている考えで丁度いい。 「ひとつだけだったら、男の人が入って来たらどうする!そんなのヤダョ〜」 「分かった分かった、大丈夫!俺が外で見張っててやるから・・・・・」 ナントカ事なきを得て、風呂場から出てきた女房。 湯上りの洗い髪が、ベッタリ額に張り付き一層暑苦しい。 「どうだったぁ〜・・・・・・」 「ウン、普通のお風呂だったョ」 どうやらアッと息を呑むアクシデントは無さそうである。ならば我もいざ出陣。 ホントに至極普通の風呂で、そう汚くも無く2人で入っても十分のスペース。 兎に角、汗を流せてサッパリ出来れば有難いと思わねば・・・・・ 風呂は小さい癖に、臆面も無く出入り口に掛かる大きく〈ゆ〉と染め抜いた暖簾。 それをくぐって出てくると、畳敷きの食堂がある。 膳は設えてあるが、料理はまだ全部じゃないようだ。 「何だ!ナンだ!閉め切って暑いじゃないか〜・・・」 「やっと個室らしくなったョ、そんなに暑くナイョ」 方々開け放しはやっぱり落ち着かないと見えて、独断先行の個室作りに得意満面。 夕方とは言え昼間の暑さが籠もった部屋は、扇風機が掻き回す生暖かい風の循環で気持ち悪くなりそ〜・・・・・・・・・とても居られたモンじゃない! 思い切り良くパッパッと、襖と障子を開け放ったところへ 「お食事の用意が出来ました。どうぞ・・・・・」 さて、待ちに待ったお食事タイム。 遥々この一瞬の為に、こんな辺鄙な場所まで来たと言っても過言ではナイ。 食膳が横一線ズラッと並んでいる様は、犬神家の一族的雰囲気だ。 膳に並ぶ様々な料理は、盛り付けなど素人っぽいが、それが却って素朴さ溢れる感触で好感が持てる。 取れ立ての生ウニ、ほたてのあぶり焼き、コリコリ鮑の刺身、メバルの煮付け、毛蟹、舌平目のフライ、甘みタップリのイカ刺や生海老、卵持ちのシャコ海老などなど・・・・・ ウマカッタァ〜、正直ほんとに美味かった。これが正真正銘の至福の時だろう。 ここに至るまでのアクシデントが、一切帳消しになるくらいの美味しさに拍手喝采。 三世代旅行の隣組も、女将さんを大変な持ち上げ方でベタ誉め。 飯より遊びの悪ガキは、隣室にて相変わらずのドッスン・バッタンだが、こうなれば気にならない。女房も満面笑みの舌鼓、相当量の料理を二人とも綺麗に片付けてしまった。 2.もう騙されてなるものか!の巻へ続く・・・・ |