国際結婚奮闘記

9.私のジャンヌダルク

  最近肥った、女房ではなく私だ。
私にとっては本当に深刻な問題で、胸からせり出した腹はもうジッとしていても苦しい。
酒が飲めない分、コーラ、アイスコーヒー類をガブ飲みするから、痩せる筈などナイ。
食事中、刺身など口に入れる前にワサビ醤油を、うっかり垂らす場面を想像していただきたい。無情にも床まで落ちずに全部腹で止まる。女房はこれを良く笑う。
笑われた方は其れなりにショックを隠せないが、かと言って腹が急に凹む訳も無く、口惜しい思いも一度や二度ではナイ!
際限なくウェストの広いパンツを買い続けていくのもキリがなく、 段々と醜態を晒してまで出掛ける気にもならず、益々出不精になってしまった。
人間ドックの先生にも「肥満!肥り過ぎ!最低5kg減らしなさい」普段から一番気にしている事を、面と向かってこれだけハッキリ云われると却ってサバサバ開き直ってしまう。
儚い抵抗と知りつつ、自己流のダイエットを性懲りもなく続けて来たが、事ここに至ってはいよいよ性根を据えてヤルしかない・・・・・・・と一念発起する。

毎度の事ながら、空しさ響く声高らかのダイエット宣言!
「又始まった・・・・」女房の冷ややかな眼差しが私を射るように刺す。

「アラッ!最近肥ったわネェ、幸せ肥りなんじゃないの?」

近所の奥さんから今日も言われた。(若い娘と再婚なんかして・・・・・・絶対許せない!)皮肉タップリの言い回しである。
幸せ肥り・・・・いやいや、そんな事は無い、これで結構苦労している。
待てよ?ひょっとして、そうかも知れないと云う気も頭をもたげる。
思い返す事6年前、前妻との離婚ショックからまだ立ち直れずにいた頃、老母を抱えた先行きを考えると只々空しさを噛み締める鬱々とした毎日。 酒浸りで食欲ゼロ、一気に体重も7〜8kg減ってしまった。
其の侭で居りゃ、今肥満で悩む事も無かったが、それでは悲嘆の余り鬱病になっていただろう。やっぱり今の方が幸せに決まっている。

或る時フト、形成美容の広告を見た。いわゆる最近流行りの美容整形であった。
脂肪吸引!ウンこの手があったわい。 人に負けない意思の弱さが災いして、このまま無益なダイエットを繰り返しているよりも、スパッとケリをつけたい衝動に駆られた。
インターネットで病院探し、どこもウチこそ最高技術で最高設備、失敗など有り得ないと美辞麗句が並ぶ。術後のケアも万全で、痛みだってそれ程でもないらしい。
段々その気になってくるも、費用を見て目を丸くした。
上腹と下腹それぞれ個別で、大体どのクリニックもこれだけで60万円。
しかも、〜より、とあるからこれが最低ラインなのだろう。
私などこれに加えて背中まで贅肉が廻っているから、一体幾ら掛かるか見当もつかない。
女房に打ち明けて相談した。賛成してくれるなど元より思っていない。

「勿体無い!痩せるのに何でそんなお金かけるのヨ」即座に予期した返事が返ってきた。
「医者さんの話、そのまま信じたら駄目ヨ!広告なんだから。そんな事も分からないの!」

どっちが年上か?いよいよ怪しくなって来るほどの剣幕で捲くし立てられた。
「コレを見なさい」女房がインターネットで患者側から見た美容整形を検索してくれた。
比較的若い女性の投稿が多かったせいか、脂肪吸引に関してもさすがに腹部は少なかったが、二の腕や太腿の術例は結構あった。一言もうコレはかなり痛そうである。
術後、吸引部の赤タン青タンが暫く取れず、只でさえ痛い所をマッサージしなければ凸凹になってしまうらしい。これはきっと七転八倒、マゾヒズムの極致に違いない!
又々愛妻のお陰で、みすみす窮地に追い込まれる瀬戸際で助けられた。

「大丈夫、ワタシが絶対痩せさせてあげる!」

いやに自信満々に言い放った。 こうなりゃ神様、仏様、女房殿である。

「ワタシを見てみなさい!ワタシにも経験があるんだから、黙って従いなさい」

そう言われればカミさんは結婚以来、体型も体重も殆ど変わらないから悔しい。
だからと言って、そう節制した生活をしているとも思えず一概に鵜呑みは出来ない。
そこそこの警戒心を努々怠らないよう注意しなければ、又どんな酷い目に合うか分かったモンじゃない。

今度は女房を旗手にしての一大ダイエット作戦の開始である。
果たして私にとってのジャンヌダルクに成れるのか、お手並み拝見と云うところか。
まず手始めに大好きなジュース類禁止令、アイスコーヒーは無糖のみ許可。返す刀で間食等一切認めず、ケーキ・アンパンなど、まさに論外中の論外。
まともな食事は晩餐のみ、それもベジタブル中心で、段々と当初の決意も揺らぎ始める。
だが今度は違う。ダイエット参謀が絶えず目を光らせているからだ。
今まで「これが私のやり方だ!」と一歩も譲る気など無かった勘のみに頼る調理方法も、傍らにノートパソコンを置いて料理ガイドに沿って作るようになった。
アレレッ!なに、どうしたの!こっちの方が面食らい戸惑いを隠せないくらいの、大した変わり様が実に泣かせる・・・・・・夢か現か幻か、掛け値なしで大事にされている実感。
持つべきは女房、これでこそ夫婦になった甲斐があると云うものだ。
人はこの程度なら当たりきしゃりき車引き、別に珍しくもナイと仰るかも知れないが、我が家にとっては記念すべき大いなる躍進なのであります。
愛妻の期待に応えるべく、私も自発的に足りない運動量を補う為、朝の散歩とついでのラジオ体操を励行するようにした。
ひたむきな努力とはいつか報われるもので、徐々に成果が上がり始め、開始1ヶ月後には限りなく80kgに近かった体重が見事4kg減の76kg、2ヶ月後には74kgまでに落ちた。
この分なら、いよいよ10kg減量も夢ではなくなったぞ!
そうなればやっと結婚当初に戻れる訳だから、この際心機一転初心に戻って、より深い夫婦の絆を築いて行こうと思う今日この頃なのであります。

10.第一部 逝く年くる年へ続く・・・・

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