2007年1月
つい最近、うちの近くに新しい美容室がオープンした。
その前は麦当労(マクドナルド)だった場所なので、内部はかなりい広い。今度は何のお店が出来るのか、興味深々だったところ、華々しく美容室の開店と相成った。
ところが、この辺りは美容室の花盛り、、あっち向いても、こっち向いても、美容室ばかりという場所である。
新規店は思い切ったサービスをしないと、中々食い込めない激戦区なので、この店はオープン記念として、カット、洗髪、ブローで10元(150円)の出血大サービスと打って出た。
全面ガラス張りの正面には、その宣伝文句が大きく書かれて張り出された。
それを見た女房、ホゥ〜いつも行く店でも、3点セットなら30元はする。
これを見逃す手はないと、後日、揚々と出掛けていったが、このサービスだけが目的だから、店にとっちゃ、決してありがたい客ではない。だが、お生憎さま、そんな店の都合を考える女房ではない筈だったが・・・・・
「もう、あんな店、二度と行かないわ」
美容室で何かあったのか、帰ってくるなり、プンプンのおかんむり。
行きのルンルン気分は、どこへやらである。
「どうした?」と、聞くまもなく、女房は店での一部始終を話し出した。

開店サービスが終わったら、18元になっていた |
「歓迎光臨(いらっしゃいませ)、今日はどうなさいますか?」
「外に書いてあるセットでおねがいします」
にこやかに迎えてくれた小姐は、手馴れた手つきで洗髪を始めた。
この店は蘇州、杭州、上海に100店舗以上も展開している、大手の美髪美容チェーンである。
この支店は大きい方で、洗髪とエステ小姐が20人くらい、男のカット美容師が12〜13人もいる。
一貫した接待教育がマニュアル化されているのか、人当たりはいい。
店の華やかさも演出する小姐は、上半身だけ韓国チマチョゴリ風の服で統一していて、他店との差をつけていた。
「これからはお客さんと友達にならなければ、いけない時代ですから」
さりげない世間話を交わしながらも、言葉通り、洗髪の時間も他店より長く丁寧だし、頭のマッサージも入念だった。
これは案外良い店が近くに出来たと女房は喜んだ。
「もしかしてお疲れですか?顔色がくすんでいますけど、一緒に顔の汚れ落としをしませんか?」
小姐は、まずこう言って切り出した。あくまでお客第一の姿勢を崩さずに・・・・・・
女房は女房で、最近気になりだした部分を、ズバリ言われたものだから、焦ると同時に、やはりプロは見るところが違うと感心した。この店なら技術は確かなようだし、じゃぁ、やってみようかしら。
値段を聞くと、オープンサービス中だから、38元で良いという。おっと、これも格安だ、今は小さい個人美容室でも最低50元はするから、ますますやる気になった。
泡まみれの頭をシャンプー台で流し終えたら、今度は店長格の美容マネージャーが、さっとやって来た。
「おや?目の下に細かい皺がありますね。目の回りのケアもした方が良いですよ」
いよいよ商品売り込みの戦闘開始である。ノコノコと罠に掛かったカモを、鍋に入れてじっくり料理するのだ。
10元の3点セットは撒き餌、38元の汚れ落としは引っ掛け釣り、そして鮪の大物一本釣りに変化を遂げた。
オープンサービスが終わったら198元なんだけど、今なら90元で良いからと盛んに勧める。
「小姐、目は大事ですよ、心の窓口ですからね。じゃ、片方だけサービスでやってみましょう」
「片方だけって?どうするの」
「片方だけケアして、比べてみてください。その違いが分かりますから」
そんな馬鹿な!違いがハッキリ分かっちゃったら、見っとも無くて外も歩けないじゃないか!
言ってる本人も、その辺はちゃんと計算済みのようで、片方だけサービスしても、それで収まる筈がないと踏んでいる。客が仕方なく「もう片方もお願い」とくれば、料金はしっかり90元取るつもりなのだ。
そんな姑息なやり方には騙される私ではない!女房は気を引き締め、毅然として「不要!」と撥ね付けた。
だが、そのくらいで引っ込んでいては、マネージャーも小姐も商売にはならない。
次から次と速射砲のように繰り出してくるセールスに、終いには何かオーダーしないと、客の方が悪者にされてしまいそうな雰囲気になってきた。これにはさすがの女房もたじろいだ。
「じゃ、いま美顔コースのキャンペーン中だから、1000元のカードを買えば、12回使えて得だけど、ど〜お?」
「い、いらない、今日は汚れ落としだけでいい」
そう言うのが精一杯、しかし肝心の髪カットも済んでいないのに、この売り込み攻勢は少し異常だ。
間もなく、イケメンタイプの金髪美容師が、風を切るようにしてやって来た。
「どういう風にしますか?」
「かなり長くなったから、裾を少し短めにカットしてください」
「そうかな〜、僕はロングの方が好きですけどねぇ」
女房は唖然として鏡に映る金髪兄ちゃんを見た。
アンタの好みなんかどうだっていいんだ!私は彼女じゃないぞ〜!
兄ちゃんは髪を撫で付けながら、次の攻撃を思案している。
「それじゃ、パーマ掛けません?その方がきっと似合いますよ」
「今日はいいです!今度にします」
大きなお世話だ、いいから早く客の言った通りにしてよ!
女房も段々イライラしてきた。
この店の方針は、何が何でも値段を釣り上げて、客からお金を巻き上げることにあるようだ。
日本でも路上で客を釣り、もっとお買い得品があると、うまく会場に連れ込んだ途端、高額の羽毛布団や鍋を持ち出し、買うまで帰さない悪徳セールスとこれは同じ手口である。
そんなあくどい商法を単純に真似したのか、それとも日本から経験者を招いて指南でも仰いだのだろうか?
そう勘繰ってしまいたくなるように、今や上海中心部の美容室は、みんなこのやり方といっても過言ではない。
ウカウカしていると、ほんとに身包みを剥がされてしまいそうな勢いなのである。
お客の事なんか二の次三の次、とにかくお金を集めるのが先決で、善悪、形振りなど構っていられない。
そうして店側とお客の熱い戦いは、連日どこの店でも繰り広げられている。
確かに美容室側にも同情すべき事情はある、それは家賃の凄まじい高騰だ。
その高い家賃を払って、尚、利益を上げるには、少々阿漕(あこぎ)なやり方など、経営者は毛ほどの呵責もない。今時、1時間や2時間のサービスで200元、300元を稼げる商売など、そうザラにないからだ。
いや、場合によっては、500元以上も毟り取れるこの美容商売は、おいしいの一言に尽きるのである。
だから、雨後の竹の子のように、美容室ばかりがオープンする。みんな一攫千金を狙っての山師同然なのだ。
そんな悪質店が仮に1店、2店なら、自然に潰れて消えていくだろうが、これが殆んど全部となると、お客の方はどうしていいか途方に暮れてしまう。ここに美容戦争の端緒がある。
私はいつも思うのだが、上海庶民が1ヶ月汗水流して、やっとこさこ2000元稼ぐのが大半である。
この2000元は日本の一般家庭に当て嵌めると、感覚的には15万円くらいじゃないだろうか。これ以下だと、日本で暮らして行くのは相当困難だと思われるからだ。
それからすると、1000元のカードを買ってくれとか、300元のパーマ液がいいだとか、そう気安くいってもらいたくないものである。
日本だって同じだろう、15万円の収入に対して、75000円のカードを買ったり、2万円でパーマを掛けたりはしないし、出来ないのが普通だ。
上海では金持ちが増えてきたといっても、全体から見ればまだ一部である。その辺が分かっていないから、店をオープンさせても端から潰れていく。商売なんて人の尻馬に乗っても、うまくは行かないものなのだ。
そんなこんなで、日増しに高まる、お客の怨嗟の声は深刻だ!
しつこい売り込みは止めて欲しい、その都度、美容室を替えてる、もう行きたくない、などお客の悩みは止まるところを知らない。
つい先日も女房の高校時代の友達から、こんな怒りの声を聞いた。
髪が少し長くなったからカットに行こうかと思い、鏡を見たらまだパーマのウェーブが掛かっている。
勿体無いから今回は裾だけ少し切って、もう少しパーマを持たせようと考えた。一般主婦なら当然だ。
そこで美容院に行き、裾だけのカットを頼んだ。
カットが終わり、手鏡で後ろの仕上がりを見せられて、(あれっ!)と思った。
ご丁寧にも残っているウェーブの境目から、バッサリやられていたのだ。
その美容師は悪びれずもせず、追い討ちをかけるように、こうのたまった。
「今日はパーマはいいんですか?」
友人はワナワナと憤りがこみ上げてくるのを感じた。裾だけといったのに、こんなに切っちゃって!
文句を言えば、そんな姑息な考えでパーマを残そうとしていたのか、なんて思われてしまっては、そっちの方が反って恥ずかしいし怖い。結局、面子に拘る客の心理を巧みに突いて、無理やりでもパーマを掛けさせようとする、これが店側の常套手段であった。
おのれっ!誰がパーマなんか掛けてやるもんか!平静を装う顔とは裏腹に、心は怒りで滾(たぎ)った。
カットだけなら大体10元(150円)、パーマを掛けると一気に200元(3000円)〜500元(7500円)に金額は跳ね上がる。何でこんなに幅があるのかというと、これ偏に美容院側はパーマ液の違いだという。
大体どこの店でも、一番安いものを頼むと、
「私はあまり勧められない。これを使うと髪が枯れてしまう」
おい、おい、枯れてしまうなんて穏やかじゃないぞ!
これは中国特有の言い回しらしくて、水分が抜けるとか、潤いがなくなるということらしい。
それにしても、何でそんな髪に悪い商品を置いているのか?客としては突っ込みたくなるが、まともに取り合ってもしょうがない。店側の高い商品を売りつけたいという気持ちが見え見えだからだ。
「じゃ、お勧めは?」とでも聞こうものなら、待ってましたとばかりに、さっと300元クラスを出してくる。
運よくOKが出れば、恭(うやうや)しく客の目の前で箱を開け、中のパーマ液を取出して見せる。
スナックで、うちは開いているボトルなんか出しませんよと、ボトルの封を客の目の前で切るのと同じだ。
だが、この300元、500元のパーマ液が、そもそも怪しい。
本当にそんな価値あるものなのか、どうか?が甚だ疑わしいのである。
単に店側がこれは高いから良いものといっているだけで、まったく根拠がない。
まぁ、説明があったとしても、口から出任せ、思い付きで物を言うから、聞くだけ野暮かもしれませんがね。
言い換えれば中身は同じで、瓶とラベルだけ変えたものを出しても、客には分からないのだ。
中国はこんな詐欺みたいなことも、平気でやっちゃうところがあるから、一概にも二概にも信用できない。
美容室はサービス業、お客あっての商売ということが、まったく分かっていないのである。
もし日本でやってバレたら、パッと噂が広がり客は誰も行かなくなるだろう。そのくらいで済めばめっけものだが、下手すりゃ、マスコミが騒ぎ立て、司直の手だって伸びてくるかも知れない。
中国はそんな阿漕(あこぎ)な商売をしても、残すもの残せば、人は商売がうまいと褒めてくれこそすれ、悪くいう奴はいない。
結局は、儲けた奴が勝ちという風潮が、庶民の間に根強くあるからだろう。
それは貧乏人の僻(ひが)みから派生しているものなのかも知れないが、上海ドリームを体現した人間を喝采で迎えることは、いつか自分も!という夢を繋いでいるかのようでもある。
まぁ、そんな部分を割り引いたとしても現在の中国は、消費期限がたった1日過ぎた牛乳を使ったお陰で、世間から袋叩きに遭い、一夜にして上場会社が傾いてしまうような日本の感覚とは、天と地ほどの開きがあるのだ。
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