上海の生活事情篇

2.値切りの達人

 日本はデフレの嵐が吹き荒れて物価が下がり、上海は好景気に乗じて物価は来る度に上がっている感じがする。
私達の居る徐家匯には、7店の大型デパートがあるが、その内5店が高級品をメインに置き商売している。
上海庶民大半の所得層が1枚200元(3千円)のTシャツを買える訳がナイ。

服しかり、化粧品しかり、靴など中国広州製にも拘らず1000元もするのがある。
しかし、片方では客の足型を取って製作する純正注文品を、100元で請け負う店も有る。
義弟と一緒に私も作ったが、さすが注文品、履き心地はすこぶる良い。
ここが上海の摩訶不思議なところでもあるのだが、法外に高い高級品は一体誰が買うのだろうと人事ながら心配してしまうほどだ。
東京と値段が殆ど変わらないのなら、やはり東京で買った方が安心出来るので、私は買う気も起こらないが
・・・・・・(見栄っ張り妻は違うのが悲しい・・・)

勿論、残り2店のデパートでは、確かに比べてしまえば見映えも縫製も品質も、断然劣りそうな【これが中国だ!】と云う従来品も売っているが、オシャレな人や他と差を付けて優越感に浸りたい人は、自然、高級品に目が向かう。
上海はこの手の人が多いから、それが上海の好況を支え、爆発するエネルギーの源になっているような気がするのであります。
昨今良い給料を取る人が増えたとは言え、それでも2000元〜3000元の話である。
ウチのお舅姑さんなど、1ヶ月双方合わせても1200元の年金に甘んじている。
生活が苦しいから値切るのか?国民性なのか?
上海の人は兎に角モノを買う前には必ず値切る。(良く言えば交渉)。
自由市場に行けば其れこそ目の色を変えて、日用品や日々の食材が、壮絶極まる値切り合戦で攻守展開されている。
出来る事なら纏めて買うのがよろしい、更に値切り易くなる要素が重なる。
チョット値の張るモノなら尚更で、口角沫を飛ばしながら値切りの嵐が吹き荒れるが、可笑しな事に見栄の為の高級品を値切る姿は見た事がナイ。
上海人気質様々で、高級デパートは笑いが止まらないだろう・・・・・・きっと。

昨日、女房の夏靴の買い物に付き合わされました。
「デザインが良いのはヤッパリ淮海中路に行かなくちゃァ」とか何とか一人納得顔で、雨が降りそうなのを押して強引に連れていかれました。
淮海中路とは、東京で言えば差詰め渋谷当たりか?道行く女性もセンスが良く、ハッと目を見張る美人もたまには見掛ける。
当節こちらの流行なのか、歩くのに窮屈なほどピチピチのパンツを着用、お尻のショーツの線が実に艶かしく、自然に獲物を追うような己の目に気が付く。 ・・・・・・アァ中年のいやらしさ。
私達の地元では、ついぞ見掛けナイ高級そうな専門靴店を5〜6軒ハシゴ。
私だって、ただ付いて行けばイイって訳じゃありません。

私:「これなんかど〜お、似合いそうだけど」・・・・・・(お世辞タラタラ雨あられ)
妻:「嫌よ!そんなオバさんっぽいの」・・・・・・・・・・・(もう十分おばさんだと思うけどナァ)
妻:「これど〜お、可笑しくない?」・・・・・・・・・・・・・(チョット派手じゃないかェ)
私:「うん、とってもよく似合うヨ」・・・・・・・・・・・・・・・(似合うわきゃねぇだろう)
妻:「これもいいわネ〜、これど〜お?」・・・・・・・・・(水商売っぽくて品がナイ)
私:「うん、イイネェ〜よく似合うと思うヨ」・・・・・・・・・不満顔の女房殿キレる。
妻:「あなたはネェ!よく考えて云ってるの!面倒くさがっているみたいヨ!」

その通りと言いたかったが、それを云っちゃァ、ここまで来て元も子もない。
結局、十代の娘が履くようなサンダルに落ち着いた。
躊躇することなく、大枚200元を惜し気もなくスパッと払い面目躍如。
買ったばかりのサンダルを履いて意気揚揚と、召使(私)を従えての散策。
私は間断なく、「いいネェ、凄くいい。センス抜群!」と大賛辞の速射砲。
まもなく「チョット痛い」と足を引き摺り出した。
変わったデザインの為、縒った皮が足の甲に擦れるらしい。
私:「おしゃれするのって、案外痛いもんだネェ」・・・・・・ザマ〜ミロ、ミロ。

ここからが冒頭の値切りの話・・・・・・・(前置きが長くて平にご容赦!)
淮海中路に最近出来たパチもの市場(安物・駄物・紛い物)発見。
間口1.8M×奥行2Mほどの小店が100軒以上?軒を連ねる。(あくまで印象)
私の大好きなゾーンだけに覗いて帰らない手はない。
ある!ある!ニューモデルの面白いライターが10元からザックザックだ。
気に入ったのが、ビール瓶・消火器・スケーター・紙幣を模した数々等々。
これらは一見何処から火を付けるのか、チョット考えてしまうのが楽しいのだ。
何軒か冷やかして歩いていると、はてさて屋根付きの小店からも弾かれた、とある露店に目が止まる。
何処かいじけた風体にて、手持ち無沙汰の孤独な親父が煙草をくゆらす。

埃を被ったまま、みすぼらしく飾ってあるライターに目が釘付けとなった。
ジェラシックパークを彷彿とさせる超合金製?の鈍く光る恐竜白骨ライター。
荒野の咆哮を思わせるその威容、恐竜独特の短い腕がスイッチになっていて、 コキッと折ると、 げに恐ろしい叫び声が3度。 口からはガスバーナーのように火を吹くスグレ物。・・・・(そう思っているのは私だけか?)
女房の肘を小突く・・・・・買ってくれの合図だ。
ジェラシックパークだ!
超合金製?恐竜白骨ライター 
これも買った!燃えよドラゴン兄弟

そうなると私は余計な事は喋らない。日本人とバレれば吹っ掛けられる。
言葉にならない万国共通の笑い声か、意味不明に「ウンウン」と唸るだけである。
でもオールバックの髪じゃバレバレか?・・・・・・・(上海庶民は滅多に居ナイ)    

長いな〜、ここからが値切り倒しの極意。
いきなり目当ての恐竜の横にある、同じく火を吹く馬ライターを取り上げる。
おもむろに、試す眺めつフェイント
の品定め。
如何にも気に入ったとの素振りにて、嬉しそうに「幾ら?」と尋ねる。

しめしめと思ったか露店の親父・・・・・・・・私達を値踏みするように一瞬の空白。
「90元」・・・・・・・・お〜っと大きく出たな!せいぜい半値がイイとこの品物だ。
明らかにこの親父、私達がこの馬ライターを所望していると踏んでいるから、強気の姿勢を崩さない。
・・・・・・・・双方火花を散らす腹の探り合い。

「じゃァ、これは?」おもむろに、そして然りげ無く、恐竜白骨ライターの値段を聞く。
どう見ても恐竜の方が見映えも良いし出来も良い。値段が張るのは間違いなさそうである。
・・・・・・・・露店の親父、又一瞬の思案。
ここで又高く言ったら、お客を逃してしまうと計算したのだろう、おそらく。
「78元」・・・・・・不承不承、吹っ掛けない前の希望価格を言ってくれた。
「太貴!太貴!(高い)」途端に女房は、大仰なゼスチャーを交えて捲くし立てた。

「そっちの馬ライターから比べたら、出来も形も悪い?こっち(恐竜)が何でそんなにする訳ョ!話にならない!」と親父に考える隙を与えず怒りのポーズ。

呆気に取られた件の親父、一瞬、反撃の言葉も見つからない。
私の腕を取りサッサとその場を 離れかけると、追いすがる親父の悲痛な声。
「分かった、分かった。50元にしておくヨ」と、もうヤケのやんぱちだ。
ふと足を止め、イヤイヤ振り返る素振りは父親譲りと言うべきか、絶妙な間の取り方が実に憎い。
・・・・・・で再度交渉の場へ
「これに50元も払う人なんていないわヨ!30元でも高いくらいヨ!」
・・・・・・焦る親父、もう最初の馬ライターの話など何処かへ消えてしまっている。
「バカ言うんじゃねえョ、なに考えてんダ!箱だって付いているんだぞ! それをよくも30元だと〜」
・・・・・・もう唇ワナワナ、こめかみに青筋、目は零れんばかりに怒りの形相。
「あッそう」問答無用とばかりに、電光石火の非情な宣告。
「待て、待て、待てって!」ア〜ァ悪い客に引っかかっちゃたな〜、観念顔が目に痛い。
「・・・・もうちょっと色付けてよネェ〜」とうとう哀願の態で、こちらの顔色を伺う。

ジャーン!ここで勝負あり!

最後のとどめ、キッと目元を引き締め踵を返えし、再々度立ち去る態勢鬼神の如し。

「あっあっあ〜チョト待って!30元、30元でいいってば!」 ・・・・・・

200元のサンダルは見栄で値切りもせず、哀れ露店の恐竜ライターは半値以下。
戦いすんで日が暮れて女房曰く、
「上海は疲れるわ。ナンでも交渉しなくちゃいけないから、私ホントは
値切るの好きじゃないの・・・・・」???
何だか訳のわからない上海の一日でありました。・・・・・・ハイ。


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