中国旅行のすすめ

9章 昆明旅行・最後の値切り

 九郷風景区から昆明市内まで3時間半ほど掛かる。
もう午後3時を回ったから、着くのは7時近くなるかな?の胸算用。
これも私の不甲斐なさの一語に尽きる故、肩身が狭い。
傍らで美人ガイドがぼやく。

「今日は人数少ないから早く帰れると思ったのに・・・・・」

美人の怒った顔も又いい。ゾクッとするほど怪しい色香が漂よって来る。
窓外には、来年末に開通という新道の工事が急ピッチで進められている。
これが出来ると1時間半で来られるらしい。今日は3時間半、その差は大きい。
加えてこの悪路、疲れた体に追い鞭が打たれているようだ。

砂塵を巻き上げて走るバスの後ろに、藁を積んだ荷馬車が遠ざかる。
馬も農民も毎日の事なのだろう、気に留める風もなかった。
小型バスでも、前と後ろではバウンドの仕方がそんなに違うのだろうか?
お舅姑さんも、もう一人のツアーおばさんも、美人ガイドまで、あられもない顔で寝入っている。
寝ていないのは後部の私ら夫婦と運転手だけだ。
しかしまぁ、この激しい振動の中でよく寝られるモンだと感心する。

2時間ほどで本線に入り、やっとバウンド攻撃から開放された。
私の両腕は手摺を強く掴んでいたので、硬くパンパンに張っている。
土埃の凸凹道





地方は、まだまだアチコチに無舗装道路

これじゃぁ、馬で走れば西部劇だ〜

お姑さん、行きに買った手錠、イヤもとい腕輪が気になって仕方がない。
出来るものなら取り替えて欲しいが、又あの玉器店に立ち寄ってくれるだろうか?
大人しいので中々切り出せずにモジモジ。察してお舅さんが美人ガイドに聞いた。

「いいですョ、まだ開いているかしら?」

早速、携帯電話で連絡を取ってくれた。どうやら0Kとの事、お姑さんの顔が綻ぶ。
美人とは案外冷たいものだが、このガイドさん若いのに良く出来てる。
又来たいとは思わないが、ますます昆明の印象が良くなった。
旅の記念に、これは是が非でもツーショットで写真をお願いしたいが、女房が・・・・・・

 もう夕方5時過ぎでもあり、昼間大混雑だった玉器店の駐車場はキレイに空だった。
大急ぎで店内に駆け込むお舅姑さん。
美人ガイドは玉器店の従業員と顔見知りなのだろう、入り口近くで何やら話し込んでいる。
チャンス到来、ここで写真をお願いするか?・・・・・イイ歳したおじさんが改まってでは、ちと気も引ける。
それにバックが駐車場では殺風景で何となく物悲しくもある。
あれこれ考えて躊躇しているうちに、お舅姑さんが戻って来てしまった。
もっとゆっくりしていればいいのに・・・・・・こういう時に限ってナゼ早い!

お姑さん、喉に小骨が刺さったように気掛かりだったのが解消。相好崩した恵比須顔。
盛んに「今度は丁度イイ」と皆に見せている。
私も精一杯、「漂亮(きれい)漂亮!」の大安売り出血大サービスに努めた。
今日も赤々と素晴らしい夕焼けが昆明の空を染め、万事目出度しで旅の終わりを祝福しているようだった。

昆明の夕暮れ・・・・・・とうとう過酷な旅も終わった〜

ビルが邪魔だが美しい夕焼けだった

昆明市内に入ったのは6時半にもなろうとしていた。
この時間帯は昆明でも渋滞があるのか、急に兎から亀に変身したようにペースダウン。
辺りも薄暗くなってきて、街の顔は活気を取り戻したように慌しい。
今日1日御一緒した1人参加のおばさんが泊まっている賓館にようやく着いた。
短い言葉を交わし別れの手を振る・・・・・・・

アレッ!ガイドさんも降りちゃうの?・・・・・そりゃ残念だなぁ〜
やっぱり、さっきのチャンスに賭けるべきだったか!失敗、失敗。
一期一会・・・・・・明るく微笑んだその顔が、ヤケに眩しゅうございました。ハイ。

  
 過酷だったが、それなりの面白さや楽しさを満喫した昆明ファミリー旅も大団円。
明日からの又2昼夜列車旅を考えると、少しでも疲れを癒しておきたい。
ちょうど賓館にマッサージ店もある。
一族揃っての打ち上げ食事の後、ここで揉んでもらおうか?
女房に値段を確かめてもらったら、ナント40分80元!上海の倍以上だ。
不届き至極だぁ〜、中国一物価の高い?上海より高いなんて許せるもんか!
冷静に考えれば1000円ちょっと。自分の体のリフレッシュの方が大事だと思うのだが、私もすっかり上海人気質が移ってしまっている。
女房共々「誰が行ってやるもんか!」と打ち切り宣言・・・・・・どこか間違っていませんかぁ?

 夜の帳もすっかり下りた街並み。中国はライトアップがお好きなようで、主だったビルはどこも夜の化粧をしたように華やいでいる。
昆明旅行最後の晩餐。
財務方の私を一応立てて何が食べたいか聞いてくれるが、鼻に付いている中国料理なら、この際ハンバーガーの方がまだマシだが、そうも言えないもどかしさ。

「何か昆明の名物はないの?」
「それなら“うどん”だ!」・・・・・・・間髪入れずお舅さんが言い放つ。

いやいや、庶民の食べるそういうのじゃなくって、他にもあるんじゃないの?
折角、昆明まで来たのにうどん食って帰るんじゃ、ちょっと寂しくはないかぁ。

結局、うどんになった。喧々諤々道端で揉めるのも嫌だったし、私がひとり飲めば済む事ならそれでいい。
何だってお腹に入ってしまえば同じさ。
通りに面してお店の内部が見通せる大きなガラスに、「麺」と大書した大衆餐庁。
憮然と「俺は辛い方がいいからな」と女房に言い渡す。
それぞれが注文を終え、暫し出来上がりを待つひと時。お舅さんが改まって口を開いた。

「婿さん、本当に楽しかった旅をありがとう。感謝の気持ちは忘れません」

グッと来た。これがあるから毎年一緒に来る羽目になるのだ。
1人2000元(30000円)でこんなに喜んでくれるなんて、私の方が気恥ずかしくなるくらいだ。

「今日の食事は、私が感謝の気持ちとして払いますから、どうぞ沢山食べてください」

沢山食べてくれったって、そう何杯も食べられやしないョ。
そのつもりなら先に言ってくれなきゃ、ズルイ、ズルイ。
そうと知っていたら、もうちょっとマシなお店選んだのになぁ〜・・・・・・

無愛想を絵に描いたような年増小姐が、アツアツのうどんを持ってきた。
グラグラ煮え立つスープを入れた陶製の鍋に、大皿に盛り合わせた海鮮や野菜を一気にザザッと放り込んでいく。眉一つ動かさないその顔は能面のようで冷たい。
最初から煮込んでこないのが、珍しいと言えなくもないが、入れてしまえばヤッパリただのうどんだ。
スープの色は豚骨風だが、味はまったく違っていた。
まぁ不味くはなかったと申しておきましょう。又食べたいかと聞かれれば、・・・・・・それはちょっと?

 満腹の腹を揺すり賓館に帰る途中、美容院の呼び込みお姐ちゃんに引っ掛かる。
洗髪カットが5元と格安なので、お舅さんヤル気満々。
じゃぁ私もついでにと思ったが、どんなカットにされるか値段だけでは分からない。
ここは用心するに越した事はないと、私は安全圏の洗髪と按摩だけにしておいた。
さっき賓館の按摩が法外だったから、ここは納得の簡易按摩で我慢しておく。
洗髪按摩は上海と同じ10元(150円)だという。所要時間は大体40〜50分掛かる。
それでも昆明という土地柄を考えれば少々割高。なんせ洗髪カットが5元なんだから。
でも所詮10元の話だから文句も言わずそっちを選んだ。

割りと小綺麗な美容院で奥行きが深い。散髪台が両サイドに5〜6台づつある。
というと随分大きい美容院だと思われるだろうが、日本のように?十万円もする仰々しい散髪台ではなく、上げ下げだけ出来る椅子みたいなモンで場所もとらない。
数人のお客がカットや洗髪の真っ最中。従業員が10人ほど所在無げにウロウロしている。
これは上海でも珍しい事ではなく、私の行き付けの美容室も常備そのくらいは居る。
だから大概いつもお客の数より従業員の方が多い。
小姐従業員は、勿論カット技術など持ち合わせてはいないから、当然、洗髪按摩要員。
上海でもそうだが、馴染み客だと指名も出来るが、多くは順番でお客に対応している。
基本給がべらぼうに安いから、あとはお客の数による歩合で稼がなければならない。
それで全身マッサージもしないかと誘いが来る。
興味津々のアナタ、決してイヤらしい類のものではないから、お間違いのないように・・・・・・・・
これが大体1時間50元(750円)、これがタマにあると息が付けるのだろう。
しかしお客に取っては悲しいかな、技術は見様見真似で覚えたのが多いから推して知るべし。
基本給がナイも同然なので雇用側は忙しい時の為に、どこでも大勢若い娘を置いていた。
それにしても1日何人のお客が有るのか知らないが、仲間と順番の洗髪按摩10元では店側の取り分もあるし、収入も厳しいだろう。

洗髪按摩は、たっぷりシャボンを泡立て、入念に頭のマッサージも兼ねて約15分。
洗い流した後、散髪台に腰掛けたまま顔、肩、背中、腕、指先に至るまで約30分のマッサージ。
これを年の頃なら18〜19才くらいの娘が、そのしなやかな指で、時には甘い息遣いまで漏らしながら一所懸命してくれる。・・・・・・・・まさに桃源郷を彷徨う夢心地。

この洗髪按摩代は上海でも破格だが、本格的マッサージも東京の10分の1程度で済む中国は、肩凝り症の私にとって、まさに天国である事には変わらない。

ヤレヤレ・・・・・又支払いで揉めている。
他人が言い合っているのなら面白いが、身内となるとあまり良い気はしない。
私の10元は最初から確認済みなので、女房がスンナリ払った。
揉めているのはお舅さん。洗髪カットは5元と言ったじゃないか!念も押したとアトに引かない。
一方美容院側は、私が洗髪按摩だったから勘違いしてお舅さんにまで按摩サービス。
〆て洗髪按摩カットで15元の請求。
日本人ならマァいいかと払うところだが、そうは行かない。
身内が言ってると尚更辛い。これはあくまで円に換算してはいけない、円なら150円の攻防だからだ。
お舅さんクラスの庶民感覚では、10元あれば弁当2個、タクシーだって乗れる。
話と違う金は例え10元でも払えないとなる訳だ。
勿論、「じゃぁ、その分私が払いましょう」という訳にも行かない。上海人のメンツもある。

結局、5元で押し切った。何をか言わんやの思いもあるが一応決着した。
救われるのは美容院側も、「ア〜・・・・やられちゃったョ」と案外屈託がないところだ。
これが中国の良い部分でもあり、私が中国好きな所以でもある。


 明けてとうとう帰郷の日を迎えた。列車の出発は午後3時だから今日はゆっくり。
チェックアウトもお昼までにすればイイ。女房もさすがに疲れたか、まだ夢の中。

コン!コン!コン!・・・・・・・・ア〜又だョ、今度は何だって言うんだ〜

お舅さん、まだ8時だというのにすっかり準備を整えてのお出ましだ。
「グズグズしていてもしょうがないから、とにかく早目に出発しないか?」の注文。
寝惚け眼の女房としばらくヤリ合っていたが、親子だから放っておいた。

そんな事があってか、予定より大分お早い午前10時過ぎには、渋々賓館を後にした。
こんな中途半端な時間に出発して、午後の3時までどうする気だろうと首を傾げる。
賓館前の通りに出るとやおら地図を広げ、上海一族雁首を並べての家族会議。
盛んにあっちだ、こっちだと指差し、方向を確認している模様。
そして厳かに協議決定事項が伝達された。・・・・・・・駅まで街の見物がてら歩くぅ〜!

ガァ〜〜ン!よしてくれョ、何考えてんだ。それじゃ駅に着くまでにヘトヘトだぁ〜
なに?列車に乗ったら、ヤル事ないんだからゆっくり休めばい〜い!アホ抜かせ!






最終日だって意気軒昂な上海一族
昆明駅まで3時間も掛かって徒歩行進!

多勢に無勢、上海一族には逆らえない。
結局、ガラガラ荷物を引っ張りながら、昆明の街をあてどなく歩く羽目に。
もっとも私達の荷物は、お舅さんが簡易カートに括りつけて運んでくれたが・・・・・
ビル街を歩いたって面白い事はない。それでもお舅姑さんの目には知らない土地ゆえ新鮮に映るのだろう。・・・・・・それに付き合わされる私は迷惑千万!ブツブツ。

私も土地勘がないから、賓館から駅までどのくらいの距離なのか見当も付かない。
女房に聞いても、「そんなに遠くないョ」の返事だけ。
中国人の遠くないは当てにならないからなぁ〜。今回の昆明だって、去年の九寨溝より10時間も余計掛かるのに、「あれよりちょっと遠い」で済ますくらいだから・・・・・

1時間くらい歩いただろうか、「あとどのくらい?」と聞けば「もう近いョ」との返事。
こりゃぁ、ますます当てになりそうもない。
どっと疲れを感じ、「小休止!小休止!」の声を掛け、さっさと歩道の花壇柵に腰掛ける。
一同も戻って来てしばしの休憩。もう高層ビル群は通り抜け、庶民店舗が並ぶ通りに入ってきている。
・・・・・・方向は間違いないのか?

目の前に鞄屋があった。旅行用のガラガラ引っ張るタイプが殆どで、歩道まで迫り出して所狭しと並べている。
以前も飛行機に手荷物として持ち込めるギリギリの大きさのを、旅行中の深センで買った事がある。
街の露天で売っていたモノで、値段も100元と格安だった為だ。
それが何の事はない、上海へ帰り着くまでに壊れてしまった。
何とか持ち帰ったものの、新品だから捨てるには忍びず、部屋の隅に放置してあったのをお舅さんが持って帰った。今使っているお舅さんの旅行ケースはそれを直した物だ。
私らも今回は手持ちの手提げバッグで間に合わせたが、いつかシッカリした旅行ケースをひとつ買おうと思っていたところだ。

それで疲れた腰を上げ、何気なく値段を覗き見に行った。
早速、愛想の良い、年の頃が35〜36才くらいの若い店主が足早に飛んできた。
盛んに前面に並べ立てた徳用目玉商品を、手揉み足揉み勧める。
それだけ60元均一の値札が立て掛けてあって、他のは値札がなく交渉商品らしい。

「ちょっと!ちょっと!これ安いぜ〜・・・・」

女房を手招きすると、すでにこんな所では買いたくないという顔付き。不承々眉間に皺寄せてやって来た。

「こんなのダメだョ、又すぐに壊れちゃうョ〜」

鋭く敏感に遣り取りを察知した店主。そんな安物ばかりでナイとばかりに、店の奥からバタバタと別物を幾つか引っ張り出してきた。
荷物が多い時に、2重チャックの片方を開けると更に詰め込める工夫がされていて、中々面白い。
出来もかなりシッカリしている感じなので私は気に入った。
カミさんは上海に帰ればもっといい物があると気乗りしなかったが、取り合えず値段だけ聞いてもらった。

「多少銭(幾ら)?」・・・・・・・冷たく言い放つ言い回しは上海人の特徴か?
「100元!安いョ〜」・・・・・・・ホントに安い。これで1500円なんてただ同然だ!

これが100元なら超お買い得。意外と良心的なこの店主、駆引きを好まない性格らしい。
私が買う気と見て女房仕方なく、チャックの滑り具合、バッグを開き中身の縫製仕上がり、引っ張り転がした時の底車の回り具合、全体の頑丈さ等々。それこそ微に入り細に入り点検し始めた。
特別問題がナイと見ると、今度は色が気に入らないと来た。
目立つ赤系、出来ればピンクはないかとごねる。余程ここでは買いたくないのか?と思った。
見渡したってそんな色のがないことは一目瞭然。
「色なんかいいじゃないか」というと、余計な事は言うなの目配せウィンク。
ハハァ〜ン・・・・・・すでに交渉開始してるとそこで分かった。

そんなに気に入らないけど、買うとしたら幾らにしてくれるの?・・・・・・そんな感じだ。
店主はちょっと思案して、20%の値下げに応じた。80元だ。
店主が言い終わらぬ内に、そそくさと何台も引っ張り出して品定めした商品を片付け始める女房。

「分かった!分かった、70元でいい。それで目一杯だ!もう鼻血も出ないョ」
「アナタ、70元だって!イイのね」

ポーズとして私に了解を求める。もとより私は100元でも良かったのだ。
目出度く交渉妥結?。早速私達の手提げバックやお土産を入れて見た。
スッポリ全部入って、益々良かったぁ〜の感慨が湧き上がって来る。

「どれどれ、幾らで買ったんだァ〜・・・・なに70元?そりゃ高い、50元にしときなョ」

大御所お舅さんが満を持しての参入。上海一族の連携は見事という外ない。
私も身内に名を連ねている以上、その阿吽の呼吸は肌で感じる。
たった今バックに入れた私らの荷物を取り出しに掛かった。

「もういい、出さんでいい!60元で持ってけ・・・・・・・」

 昆明駅に着いたのは午後2時を回っていた。
食事や鞄屋での時間を差し引いても、なから3時間くらい歩いて駅に辿り着いた事になる。
楽な旅行に慣れた日本人にはちょと辛い話だ。中国人にとってはこの上なく楽しいらしい。
とにもかくにも、2昼夜鉄路をひた走りやって来た昆明の旅も、もう終わりが近い。
これから又2昼夜掛けて上海に戻る訳だが、私にとって果たして楽しかったのか苦しかったのか、良く分からないところではあるが、まぁ無事であった事を喜びたい。

お舅姑さんは、来年も又一緒に行く気でいるのだろうか?・・・・・心配はそこだ!
それには勝負できる体力の増強を図り、・・・・・・・タバコも止めんといかんなぁ〜
                   
おわり

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