| 昆明から大理まで距離にして360km。夜行寝台に揺られて8時間半の移動だ。 今回はツアー旅行費に込み々の硬臥。いつもの下段2ヶ所、中段2ヶ所の確保は成らなかった。 他のツアー客とのバランスを考え、均等に割り振った結果だろう。 もうすっかり慣れた私は、一つしかない下段を当然のように占領。財務方の特権だ。 手早く居心地のよい自分の空間を作り上げる。 母娘は中段、お舅さんは上段の割り当て。この上段ベッド、潜り込んだら起き上がることも出来ない。 天井との間が人間の座高より低く、不自由を余儀なくされる。 まぁ、このくらいのリスクは甘んじて受けてもらうより仕方ナイ。・・・・・・・・なんせタダなんだから。 夜行列車での観光地移動は、一見無駄がなくて良さそうに思うが、これが中々大変で疲れが徐々に蓄積されてくる。 まだまだ旅も中盤。弱気は禁物だが、上海一族との体力差は歴然。 最後まで全う出来るかどうか誠に心許ないが、行けるトコまでこのまま突っ走るしかないだろう。 大理は雲南省の西に位置し、殆どが山岳地帯だ。市の中心で標高が2000m近い。 話を聞いただけでも、これはキツそう。市内でも酸素ボンベが必要か? いやいや笑い事ではナイ。肺に欠陥を抱える私にとって、何とも不安は隠せない。 それぞれの期待や不安を乗せて、列車は一路大理へ漆黒の闇をひた走る。 明朝6:00、まだ夜も明けきらぬ暗い沈黙が辺りを支配する中、列車はゆっくりとその走りを止めた。 煌々とした裸電球が疎らに灯った停車場。 ・・・・・・・映画のワンシーンを見るような嵐の前の静けさ。 突如、打ち破られた静寂。朝の冷たい空気を切り裂く喊声! 一斉に開けらた乗降口から、飛び降りるように次から次と降り立つ乗客達の群れ。 荷物を担ぎ又は小脇に抱えた者、安物の旅行ケースをガラガラ引っ張る者が、暴徒の如き一団となって出口通路に殺到した。決してオーバーではない。 まさしく雪崩のように押し寄せたのだ。これはホントに凄かった。 駅に通じる結構幅の広い階段が、人で埋まって先が見えない。 出迎えのツアーガイドが、それぞれの小旗を振って有らん限りの声で叫ぶが、これでは出会う事すら至難の業。さながら夜襲の肉弾戦だ! 駅前の大して広くもない広場は、全体を覆う騒然とした不協和音の渦と化し、秩序もヘッタクレあったもんじゃナイ。 私とお姑さん。その喧騒に圧倒され、降り切った階段の裏側に身を寄せて避難状態。 「アナタ!ここを動かないでヨ!」 血走った目の女房が叫ぶ。我々のツアーガイドを探すお舅さんも必死だ。 怒声渦巻く人波を掻い潜り、観光地図を売るおじさんも、ついでに必死だ。 暫くすると、ようやく出会えたガイドの小旗を旗印に、ツアー客同士の輪が出来て、少し秩序と落ち着きを取り戻してきた。 肝心の私らのガイドがまだ見付からナイ。おかしい?又騙されたかの不安が女房の脳裏を掠める。 大型バス1台分のお客なら、まず騙される事もないが、なんせ私らは個人で申し込んだたったの4人。 さぁ、夜も白々と明けて来た。どうする!
広場の奥に何十台と出迎えの大型バスがひしめいている。その陰に隠れて、申し訳なさそうに12人乗りの小型バスが何台か止まっていた。 「アレと違うか〜?」・・・・・・・・お舅さんが目敏く見つけた。 目出度し、めでたし、ホッと安堵の胸を撫で下ろす。ガイドの兄ちゃんも随分探したと共に喜ぶ。 ・・・・・・・真面目そうだから本当なのだろう。 総勢10人が今回のツアーメンバーだというが、まだ2人が行方不明。 ガイドは何度も駅と小型バスを往復し、あっちこっち走り回って探したが見付からない。 辺りはもう大分バスも出払い、人影が少なくなってきた。 「しょうがねぇョ、置いてっちゃえば〜・・・・」 無責任にツアーの男2人連れが、タバコをふかしながら冗談めかしに言う。 ガイドも焦りながら、何処かしらと携帯電話で連絡を取っている。 そこへひょっこり、女2人連れが現れた。何でもあまり凄い人波だったので、広場に降りずに駅で休憩していたと悪びれずにのたまった。中国人にしては珍しい御仁だ。 さて、フルメンバーも整い、晴れて出発と相成った。 まずは朝食をする餐庁に行き、それから観光に回るという話だ。 大理でも夜行列車で着いた途端に観光とは、中国旅行は如何にも過酷だ。 まだ車も自転車も少ない大通りを、勢いよく走り抜ける。 この運転手、少々ハンドル捌きが荒っぽい。朝が早かった眠気もこれで吹っ飛んだ。 3日間この運転手なんだろうか?不安が募る。 朝食の餐庁は、今日泊まる賓館だった。裏手の駐車場にはすでに先客のバスが所狭しと並んでいる。 たった10人の小所帯ツアーでも、先客が居るとなると気が急くのか、私ら夫婦を除いてすでに臨戦態勢だ。 自分達の食べる分も、奴らに食べられてしまうのではないかと敵愾心を剥き出す。 奥行きの深い食堂は、中央に料理を置くテーブルが設えてあり、中国では珍しいバイキング朝食だ。 結構品数もあり豪華、お舅姑さんの目がランランと輝く。 様々に並ぶ料理を見て、全種類完全制覇の野望に燃える。 今日はこれ一食でお終いでもないのに、早餐からそんなに食っちゃって大丈夫か?と心配するほどだ。 (朝からこんなに幸せでイイにかしらん?)恍惚状態のお姑さんは、ひとり桃源郷をさ迷う。 ・・・・・・・もう何を言っても聞こえず、食べながらも目は次の料理に注がれている。 一番最後まで食べていたお姑さんも、ようやく終了。 準備万端、ガイドの号令一下、出立の合図を待つが、どうも雲行きが怪しい。 何でも最初の予定は、これから湖の遊覧船ツアーに向かう筈だったが、込み合っていて乗船出来ないらしい。 ・・・・・・・(ア〜やだ、やだ!旅行中ずっとこの混雑が付いて回るのか) それで午前と午後の予定を交代したいとの申し入れ。 幾分でもそっちの方が空いているなら、望むところだ!私に異存があろう筈がナイ。 遊覧船と連絡を取ったのか、しばらく返事待ち。 結局、喜ばすだけ喜ばしておいてガイドの奴、 「ヤッパリ予定通り行きましょう・・・・・」 こいつ詰め込むだけ詰め込む腹だな!重みで沈んだって知らねぇぞ〜 そうと決まれば善?は急げ、込まない内に乗ってしまおうと算段。それっとばかりに素っ飛んでった。 バスを降りて全員小走りに船着場へ急ぐ。こういう場合、中国人持ち前の人を押し退けても、我先と急ぐ性格が実に好ましい。私を除く全員が一糸乱れぬ阿吽の呼吸で、船を目指して駆け抜ける。 遥か先で女房が叫ぶ・・・・・・ 「早くしなさい!席が無くなったらどうすんのォ!」 早くしろ!と怒鳴ったって、わたしゃ大理に着いてから一層呼吸困難が激しい。 もがく亭主より、如何にも席のほうが大事と言わんばかりの言い回し。 ・・・・・・・・おのれ!いつか仇をとってヤル〜! 私にとってヤッパリ高地は鬼門だ!苦しい胸を押さえつつ息も絶え絶えで、気は焦っても殆ど歩き状態。 これ以上急いだら足が縺(もつ)れて素ッ転びそうだ! お目当ての船が見えて来た。思ったより大きくて豪華だが、私は今にも倒れそう。 3層になった客室の上には金ピカの屋根まで付いている。 こりゃ、水に浮かぶ、ちょっとした動く家だな・・・・・・ この辺りに昔から住むペー族の民族衣装を着た若い娘が、横一線に並んでお出迎え。 その後ろには添え物的若い男が、笛、鉦、太鼓を打ち鳴らし、華々しい伴奏付きで盛り上げる。
私達は1層目のかなり広い一般乗客ルーム。お金さえ出せば、1000元の貸切カラオケルームもある。 幸いな事にまだ席は十分空いていた。女房に叱られずに済む。ホッ・・・・・ 4人だから遠慮して、内側の丸テーブルにしようという私の提案は却下無視。 お舅さんは船べり側8人掛けソファにサッサと手荷物を置き、これでもかというほど股を開いて踏ん反り返り、既得権を行使して占拠。 他人を何が何でも寄せ付けない気迫を漲らせる。そこまでしなくても・・・・・・ 私にまで同じようにしろ!とお舅さんの目が言ってるが、それは私の良心が許さない。 さすが一般客専用、件のソファもアチコチ擦り切れて、綻びが見える。 私達が席を確保して間もなく、立て続けに出迎えの笛、鉦、太鼓が鳴り響き、続々と中国人観光客が乗り込んできた。すでに大半の席が埋まっている。 一足遅れた観光客は無念さを滲ませ、已む無くデッキのプラスチックの固定椅子に移動。 してやったり!譲り合う精神に欠けた上海一族の、これも勝利か? 定刻通り、ゆっくり大理港の岸を離れる。舳先に翻る赤い中国国旗が鮮やかだ。 湖の水はそれほど綺麗とは言えない。細長い形のこの湖、航行する船の左右に秋の山々が見える。 およそ40〜50分で最初の上陸観覧、天鏡閣にもうすぐ着くとアナウンスがあった。 例によって上陸一番乗りを目指す人達で、舳先はすでに人、人で一杯だ。 私は船に残る事にした。近付いて来る島影の小高い山の頂上に、お寺か城郭のようなものが見える。 ・・・・・・・・どうせあそこへ登るに決まってる。 ジッとしていても何処と無く息苦しい私では、とても登れそうもない。 「じゃぁ、ここに居てョ。フラフラどっか行かないでね」 (フラフラどっかに行くといっても、水の上じゃぁ、行きようがないだろ・・・・) 後ろ髪を引かれるほど髪の長くない女房は、情け無用!後も振り向かず出て行った。 1箇所しかない舳先の下船口、押し合い圧し合いは毎度の事。 私はナントカ3層目にのぼり、上からその様子を「ご苦労なこった」という思いで眺めていた。 私の予測した通り、船着場からすぐに急な石段が、かなりの距離で続いている。 これでは上のお寺へ着かない内に、出航の銅鑼が鳴ってしまうだろう。
船の中に舞台ホールがある。そんなに広くはないが、無料で民族歌舞表演を見せてくれて、名物の三道茶をご馳走してくれる。もっとも船賃に含まれているとは思うが。 少数民族のペー族の若い娘が民族衣装を着て、それぞれ味の違うお茶を3回も出してくれる。 それも飛びっ切りの美人がだ! 三道茶は元々、もてなしのお茶という意味合いがあるので、作法にのっとりイチイチ額にお茶を捧げ、お客の一人づつにニッコリ微笑んで差し出す。 ここまでなら、中国も中々風流で味な事をすると思われたでしょう? ところがドッコイ!ホールに押し掛けた人数が半端じゃナイ! 押すな!押すなの大盛況。立ち見まで出る騒ぎだ。 細長いテーブルと座席が舞台を囲んで三方にぎっしり。その数およそ百と五十人。 いくら3〜4人が手分けしてお茶を出すといっても、短時間に3回分450杯だ。 あまりの美人ゆえ、見蕩れ呆けてつぶさに観察していたが、黄金の微笑みも段々頬が痙攣し、引き攣り笑いになってきたのを、心ならずも目撃してしまった。 さもありなん・・・・・・・美人も時には辛い事もあるんだな〜
このあともう1箇所、南沼風情島に下船観光。雨がポツポツ降り出してきた。 ここは平坦だからと言う話なので、私も渋々降りた。 ・・・・・・・・やはり見るべきものなど無い。 中国なら何処にもある、一見意味不明のモニュメントが淀んだ池に立ち、林の奥に特大の観音像がニョッキリ頭を覗かせていた・・・・・・・・ホントにこれだけ。 皆は例え大した事が無くても、金を払った以上見ずば損だの強迫観念で、その観音像の足元まで行ったが、私はそこから船に引き上げた。 約3時間の遊覧クルーズが終わった。雨は一層強くなってきた。 となれば当然傘だ!そう、その傘で下船が一苦労。 色取り取りの花が開いたようで綺麗なのだが、傘を差したまま下船口に殺到するから、傘の先っぽが鼻面や目を掠める。 まったく危ない。挙句に雫だって無遠慮に襟元へ垂れて来るから、この上なく不快感がこみ上げてくる。 一時の辛抱、桟橋を降りるまでは少々濡れても、傘を差さなければその方が安全だし、早いと思うのだが、 「この人が差すなら私も!」式で、そこまで考えが及ばないのだろう。 やっとの思いで下船完了。すでにうちのツアー全員が遠くで手招きしている。 早朝出遅れたおばちゃん2人だって、小憎らしい顔してしっかり待機。 ・・・・・・・・・・ヤル気になればこんなモンだと言いたそうだ。 昼も大分過ぎてしまった。古い軒並みの家が立ち並ぶ通りに面した餐庁に案内された。 ここも予想に反して、食べきれないほどの料理を出され、今回のツアーの大当たりを上海一族と共に喜ぶ。 5人づつ2台のテーブル。次々運ばれてくる料理に、舌鼓を打っている暇などない。 総員猛然と襲い掛かるような食べっぷり。テーブルに並べきれない料理は、皿と皿の間に平然と重ねて行く配膳のお姐ちゃん。下のが段々見えなくなる。 中国式マナー、魚や肉の骨をペッペッと平気でテーブルに吐き出す凄まじさ。 私も大分慣れたとは言え、まだ抵抗感は抜けない。食欲は急にトーンダウン。 戦い終わって日が暮れて、一人二人と満腹の腹を揺すって外に出て行く。 やはりここでもお姑さんが、最後まで執念の喰らい付きを見せたが、とても食べ切れる量ではなかった。 雨も運良く小雨に変わった。食後の一休みに、通りに連なるお土産店を見て回る。 ろうけつ染めの衣類などが多く、買いたいものは無かったが、多少の雨除けに鍔の出た帽子を買った。 最初20元と大きく出たが、こちらから指値で5元と言ってやった。 お土産屋のおばさん、「そりゃダメだ!もとを切っちゃう」 しぶしぶ半値の10元でOKしたが、それでも非情の上海一族!何だかんだと8元で因果を含ませた。この人達だって生活があるのに、私にはとても出来ナイ。 午後の観光、蝴蝶泉公園散策。
公園入口前には、大理石の置物や焼き物の工芸品など、所謂割れ物を売る露店のテントがひしめいている。 気を許して気軽に触ったり、あまつさえ取り上げて品定めをしてはいけない。 もし間違って落としたりしたら、向こうの言い値で弁償させられる。 見ようによっては、わざと触れさせて倒れるように品物も置いている節さえある。 君子は危うきに近寄らず・・・・・・避けて通った方が賢明である。 公園内は雨に濡れた石畳が滑りやすい。足早で歩けばずっと先に小さな湖がある。 お舅姑さんは勿論見ないでは帰れナイ。息の上がる私は、先に行って欲しいと促す。 多少登り気味の遊歩道は、ショルダーバッグを女房に預けた空身でも少々苦しい。 途中何箇所かのポイントで、歳の頃なら14〜15才くらいのまだあどけなさの残る民族衣装の娘が、お客と一緒に写真に納まって10元の商売をしていた。 10元は惜しくないが、前に3人がしゃがみ、その後ろの真ん中に立つ。 両脇を純情無垢な乙女2人に挟まれ、おじさん涎を垂らさんばかりにヤニさがった写真は、面目丸つぶれでイタダケない。 私は可憐な娘の写真だけ、それもポーズをつけない自然なのが欲しいので、そっと盗撮に及んだ。 目敏く見付けた彼女ら・・・・・・・・プイッと全員横を向くから可愛くナイ。 何が可憐なモノか!さっきのは取り消しだぁ〜 このあと大理古城を訪ねる。城砦の一部が再現され、大きく“大理”と書かれた金文字の看板が目を引く。 古い家並みというよりも、朽ち果てたといった方が近い。 通りの奥に三重の塔があって、ここでUターン。観光化された中国の古き街だった。 日本人の観光客とは出会わないが、青い目の観光客は結構居る。 夕方も近く高地なので肌寒かったが、この外人さんTシャツに短パンとはイイ度胸。 東洋人とは体温が違うのだろうと、女房と顔を見合わせた。 ようやく大理1日目が無事終わった。 明日は麗江に向かう。バスで3時間以上も掛かる。早く休むに越したことはない。 今日の泊まりの賓館も経済(エコノミー)旅行では申し分ない。 近くにはお舅さん期待の瞬くネオンも見られず、残念無念で今日はおとなしく就寝。 さすが2000mの高地、窓に吹きかけた息がサッと白く曇った・・・・・・ 6章 麗江の美人は気をつけろ!へ続く・・・・・・ |