中国旅行のすすめ

5章 大理の遊覧船は戦争だ!

 昆明から大理まで距離にして360km。夜行寝台に揺られて8時間半の移動だ。
今回はツアー旅行費に込み々の硬臥。いつもの下段2ヶ所、中段2ヶ所の確保は成らなかった。
他のツアー客とのバランスを考え、均等に割り振った結果だろう。

もうすっかり慣れた私は、一つしかない下段を当然のように占領。財務方の特権だ。
手早く居心地のよい自分の空間を作り上げる。
母娘は中段、お舅さんは上段の割り当て。この上段ベッド、潜り込んだら起き上がることも出来ない。
天井との間が人間の座高より低く、不自由を余儀なくされる。
まぁ、このくらいのリスクは甘んじて受けてもらうより仕方ナイ。・・・・・・・・なんせタダなんだから。

夜行列車での観光地移動は、一見無駄がなくて良さそうに思うが、これが中々大変で疲れが徐々に蓄積されてくる。

まだまだ旅も中盤。弱気は禁物だが、上海一族との体力差は歴然。
最後まで全う出来るかどうか誠に心許ないが、行けるトコまでこのまま突っ走るしかないだろう。

大理は雲南省の西に位置し、殆どが山岳地帯だ。市の中心で標高が2000m近い。
話を聞いただけでも、これはキツそう。市内でも酸素ボンベが必要か?
いやいや笑い事ではナイ。肺に欠陥を抱える私にとって、何とも不安は隠せない。

それぞれの期待や不安を乗せて、列車は一路大理へ漆黒の闇をひた走る。

 明朝6:00、まだ夜も明けきらぬ暗い沈黙が辺りを支配する中、列車はゆっくりとその走りを止めた。
煌々とした裸電球が疎らに灯った停車場。

・・・・・・・映画のワンシーンを見るような嵐の前の静けさ。

突如、打ち破られた静寂。朝の冷たい空気を切り裂く喊声!
一斉に開けらた乗降口から、飛び降りるように次から次と降り立つ乗客達の群れ。
荷物を担ぎ又は小脇に抱えた者、安物の旅行ケースをガラガラ引っ張る者が、暴徒の如き一団となって出口通路に殺到した。決してオーバーではない。
まさしく雪崩のように押し寄せたのだ。これはホントに凄かった。

駅に通じる結構幅の広い階段が、人で埋まって先が見えない。
出迎えのツアーガイドが、それぞれの小旗を振って有らん限りの声で叫ぶが、これでは出会う事すら至難の業。さながら夜襲の肉弾戦だ!
駅前の大して広くもない広場は、全体を覆う騒然とした不協和音の渦と化し、秩序もヘッタクレあったもんじゃナイ。
私とお姑さん。その喧騒に圧倒され、降り切った階段の裏側に身を寄せて避難状態。

「アナタ!ここを動かないでヨ!」

血走った目の女房が叫ぶ。我々のツアーガイドを探すお舅さんも必死だ。
怒声渦巻く人波を掻い潜り、観光地図を売るおじさんも、ついでに必死だ。
暫くすると、ようやく出会えたガイドの小旗を旗印に、ツアー客同士の輪が出来て、少し秩序と落ち着きを取り戻してきた。
肝心の私らのガイドがまだ見付からナイ。おかしい?又騙されたかの不安が女房の脳裏を掠める。
大型バス1台分のお客なら、まず騙される事もないが、なんせ私らは個人で申し込んだたったの4人。
さぁ、夜も白々と明けて来た。どうする!
大理到着夜明け前「大理」到着・・・・暗いのでピンボケだが臨場感あり。 大理の早朝
早朝、大理の街・・・・昔懐かしい軽三輪タクシーが行く

広場の奥に何十台と出迎えの大型バスがひしめいている。その陰に隠れて、申し訳なさそうに12人乗りの小型バスが何台か止まっていた。

「アレと違うか〜?」・・・・・・・・お舅さんが目敏く見つけた。

目出度し、めでたし、ホッと安堵の胸を撫で下ろす。ガイドの兄ちゃんも随分探したと共に喜ぶ。
・・・・・・・真面目そうだから本当なのだろう。
総勢10人が今回のツアーメンバーだというが、まだ2人が行方不明。
ガイドは何度も駅と小型バスを往復し、あっちこっち走り回って探したが見付からない。
辺りはもう大分バスも出払い、人影が少なくなってきた。

「しょうがねぇョ、置いてっちゃえば〜・・・・」

無責任にツアーの男2人連れが、タバコをふかしながら冗談めかしに言う。
ガイドも焦りながら、何処かしらと携帯電話で連絡を取っている。
そこへひょっこり、女2人連れが現れた。何でもあまり凄い人波だったので、広場に降りずに駅で休憩していたと悪びれずにのたまった。中国人にしては珍しい御仁だ。

さて、フルメンバーも整い、晴れて出発と相成った。
まずは朝食をする餐庁に行き、それから観光に回るという話だ。
大理でも夜行列車で着いた途端に観光とは、中国旅行は如何にも過酷だ。
まだ車も自転車も少ない大通りを、勢いよく走り抜ける。
この運転手、少々ハンドル捌きが荒っぽい。朝が早かった眠気もこれで吹っ飛んだ。
3日間この運転手なんだろうか?不安が募る。

朝食の餐庁は、今日泊まる賓館だった。裏手の駐車場にはすでに先客のバスが所狭しと並んでいる。
たった10人の小所帯ツアーでも、先客が居るとなると気が急くのか、私ら夫婦を除いてすでに臨戦態勢だ。
自分達の食べる分も、奴らに食べられてしまうのではないかと敵愾心を剥き出す。

奥行きの深い食堂は、中央に料理を置くテーブルが設えてあり、中国では珍しいバイキング朝食だ。
結構品数もあり豪華、お舅姑さんの目がランランと輝く。
様々に並ぶ料理を見て、全種類完全制覇の野望に燃える。
今日はこれ一食でお終いでもないのに、早餐からそんなに食っちゃって大丈夫か?と心配するほどだ。
(朝からこんなに幸せでイイにかしらん?)恍惚状態のお姑さんは、ひとり桃源郷をさ迷う。
・・・・・・・もう何を言っても聞こえず、食べながらも目は次の料理に注がれている。

一番最後まで食べていたお姑さんも、ようやく終了。
準備万端、ガイドの号令一下、出立の合図を待つが、どうも雲行きが怪しい。
何でも最初の予定は、これから湖の遊覧船ツアーに向かう筈だったが、込み合っていて乗船出来ないらしい。
・・・・・・・(ア〜やだ、やだ!旅行中ずっとこの混雑が付いて回るのか)

それで午前と午後の予定を交代したいとの申し入れ。
幾分でもそっちの方が空いているなら、望むところだ!私に異存があろう筈がナイ。
遊覧船と連絡を取ったのか、しばらく返事待ち。
結局、喜ばすだけ喜ばしておいてガイドの奴、

「ヤッパリ予定通り行きましょう・・・・・」

こいつ詰め込むだけ詰め込む腹だな!重みで沈んだって知らねぇぞ〜
そうと決まれば善?は急げ、込まない内に乗ってしまおうと算段。それっとばかりに素っ飛んでった。

バスを降りて全員小走りに船着場へ急ぐ。こういう場合、中国人持ち前の人を押し退けても、我先と急ぐ性格が実に好ましい。私を除く全員が一糸乱れぬ阿吽の呼吸で、船を目指して駆け抜ける。
遥か先で女房が叫ぶ・・・・・・

「早くしなさい!席が無くなったらどうすんのォ!」

早くしろ!と怒鳴ったって、わたしゃ大理に着いてから一層呼吸困難が激しい。
もがく亭主より、如何にも席のほうが大事と言わんばかりの言い回し。
・・・・・・・・おのれ!いつか仇をとってヤル〜!
私にとってヤッパリ高地は鬼門だ!苦しい胸を押さえつつ息も絶え絶えで、気は焦っても殆ど歩き状態。
これ以上急いだら足が縺(もつ)れて素ッ転びそうだ!

お目当ての船が見えて来た。思ったより大きくて豪華だが、私は今にも倒れそう。
3層になった客室の上には金ピカの屋根まで付いている。
こりゃ、水に浮かぶ、ちょっとした動く家だな・・・・・・

この辺りに昔から住むペー族の民族衣装を着た若い娘が、横一線に並んでお出迎え。
その後ろには添え物的若い男が、笛、鉦、太鼓を打ち鳴らし、華々しい伴奏付きで盛り上げる。
家のような遊覧船
湖を行く金ピカの屋根付き遊覧船・・・・目一杯の人で重そう
民族娘のお出迎え
民族衣装の可愛い娘が、拍手をもってお出迎え

私達は1層目のかなり広い一般乗客ルーム。お金さえ出せば、1000元の貸切カラオケルームもある。
幸いな事にまだ席は十分空いていた。女房に叱られずに済む。ホッ・・・・・
4人だから遠慮して、内側の丸テーブルにしようという私の提案は却下無視。
お舅さんは船べり側8人掛けソファにサッサと手荷物を置き、これでもかというほど股を開いて踏ん反り返り、既得権を行使して占拠。
他人を何が何でも寄せ付けない気迫を漲らせる。そこまでしなくても・・・・・・
私にまで同じようにしろ!とお舅さんの目が言ってるが、それは私の良心が許さない。

さすが一般客専用、件のソファもアチコチ擦り切れて、綻びが見える。
私達が席を確保して間もなく、立て続けに出迎えの笛、鉦、太鼓が鳴り響き、続々と中国人観光客が乗り込んできた。すでに大半の席が埋まっている。
一足遅れた観光客は無念さを滲ませ、已む無くデッキのプラスチックの固定椅子に移動。
してやったり!譲り合う精神に欠けた上海一族の、これも勝利か?

定刻通り、ゆっくり大理港の岸を離れる。舳先に翻る赤い中国国旗が鮮やかだ。
湖の水はそれほど綺麗とは言えない。細長い形のこの湖、航行する船の左右に秋の山々が見える。
およそ40〜50分で最初の上陸観覧、天鏡閣にもうすぐ着くとアナウンスがあった。
例によって上陸一番乗りを目指す人達で、舳先はすでに人、人で一杯だ。
私は船に残る事にした。近付いて来る島影の小高い山の頂上に、お寺か城郭のようなものが見える。
・・・・・・・・どうせあそこへ登るに決まってる。
ジッとしていても何処と無く息苦しい私では、とても登れそうもない。

「じゃぁ、ここに居てョ。フラフラどっか行かないでね」

(フラフラどっかに行くといっても、水の上じゃぁ、行きようがないだろ・・・・)
後ろ髪を引かれるほど髪の長くない女房は、情け無用!後も振り向かず出て行った。
1箇所しかない舳先の下船口、押し合い圧し合いは毎度の事。
私はナントカ3層目にのぼり、上からその様子を「ご苦労なこった」という思いで眺めていた。
私の予測した通り、船着場からすぐに急な石段が、かなりの距離で続いている。
これでは上のお寺へ着かない内に、出航の銅鑼が鳴ってしまうだろう。
上陸観覧、天鏡閣
日本の城郭に似た天鏡閣・・・・右の急な石段がキツソ〜
込み合う下船風景
押し合いの下船風景・・・・中国人は何でも一番乗りがお好き

 船の中に舞台ホールがある。そんなに広くはないが、無料で民族歌舞表演を見せてくれて、名物の三道茶をご馳走してくれる。もっとも船賃に含まれているとは思うが。
少数民族のペー族の若い娘が民族衣装を着て、それぞれ味の違うお茶を3回も出してくれる。
それも飛びっ切りの美人がだ!
三道茶は元々、もてなしのお茶という意味合いがあるので、作法にのっとりイチイチ額にお茶を捧げ、お客の一人づつにニッコリ微笑んで差し出す。
ここまでなら、中国も中々風流で味な事をすると思われたでしょう?

ところがドッコイ!ホールに押し掛けた人数が半端じゃナイ!
押すな!押すなの大盛況。立ち見まで出る騒ぎだ。
細長いテーブルと座席が舞台を囲んで三方にぎっしり。その数およそ百と五十人。
いくら3〜4人が手分けしてお茶を出すといっても、短時間に3回分450杯だ。
あまりの美人ゆえ、見蕩れ呆けてつぶさに観察していたが、黄金の微笑みも段々頬が痙攣し、引き攣り笑いになってきたのを、心ならずも目撃してしまった。
さもありなん・・・・・・・美人も時には辛い事もあるんだな〜
疲れちゃったぁ〜
ペー族の美形・・・・・少々ウンザリした顔も又可愛い
民族舞踊
船上民族歌舞表演・・・・・男客の目は勿論美人に釘付け!

このあともう1箇所、南沼風情島に下船観光。雨がポツポツ降り出してきた。
ここは平坦だからと言う話なので、私も渋々降りた。
・・・・・・・・やはり見るべきものなど無い。
中国なら何処にもある、一見意味不明のモニュメントが淀んだ池に立ち、林の奥に特大の観音像がニョッキリ頭を覗かせていた・・・・・・・・ホントにこれだけ。
皆は例え大した事が無くても、金を払った以上見ずば損だの強迫観念で、その観音像の足元まで行ったが、私はそこから船に引き上げた。

約3時間の遊覧クルーズが終わった。雨は一層強くなってきた。
となれば当然傘だ!そう、その傘で下船が一苦労。
色取り取りの花が開いたようで綺麗なのだが、傘を差したまま下船口に殺到するから、傘の先っぽが鼻面や目を掠める。
まったく危ない。挙句に雫だって無遠慮に襟元へ垂れて来るから、この上なく不快感がこみ上げてくる。
一時の辛抱、桟橋を降りるまでは少々濡れても、傘を差さなければその方が安全だし、早いと思うのだが、
「この人が差すなら私も!」式で、そこまで考えが及ばないのだろう。

やっとの思いで下船完了。すでにうちのツアー全員が遠くで手招きしている。
早朝出遅れたおばちゃん2人だって、小憎らしい顔してしっかり待機。
・・・・・・・・・・ヤル気になればこんなモンだと言いたそうだ。

昼も大分過ぎてしまった。古い軒並みの家が立ち並ぶ通りに面した餐庁に案内された。
ここも予想に反して、食べきれないほどの料理を出され、今回のツアーの大当たりを上海一族と共に喜ぶ。
5人づつ2台のテーブル。次々運ばれてくる料理に、舌鼓を打っている暇などない。
総員猛然と襲い掛かるような食べっぷり。テーブルに並べきれない料理は、皿と皿の間に平然と重ねて行く配膳のお姐ちゃん。下のが段々見えなくなる。
中国式マナー、魚や肉の骨をペッペッと平気でテーブルに吐き出す凄まじさ。
私も大分慣れたとは言え、まだ抵抗感は抜けない。食欲は急にトーンダウン。
戦い終わって日が暮れて、一人二人と満腹の腹を揺すって外に出て行く。
やはりここでもお姑さんが、最後まで執念の喰らい付きを見せたが、とても食べ切れる量ではなかった。

雨も運良く小雨に変わった。食後の一休みに、通りに連なるお土産店を見て回る。
ろうけつ染めの衣類などが多く、買いたいものは無かったが、多少の雨除けに鍔の出た帽子を買った。
最初20元と大きく出たが、こちらから指値で5元と言ってやった。
お土産屋のおばさん、「そりゃダメだ!もとを切っちゃう」
しぶしぶ半値の10元でOKしたが、それでも非情の上海一族!何だかんだと8元で因果を含ませた。この人達だって生活があるのに、私にはとても出来ナイ。

 
 午後の観光、蝴蝶泉公園散策。
蝴蝶泉公園
まだあどけない少女達も稼ぐ・・・・ア〜今日のお客はしぶい!
大理古城
大理古城の古い家並み・・・・・みんなお土産を売っていた

公園入口前には、大理石の置物や焼き物の工芸品など、所謂割れ物を売る露店のテントがひしめいている。
気を許して気軽に触ったり、あまつさえ取り上げて品定めをしてはいけない。
もし間違って落としたりしたら、向こうの言い値で弁償させられる。
見ようによっては、わざと触れさせて倒れるように品物も置いている節さえある。
君子は危うきに近寄らず・・・・・・避けて通った方が賢明である。

公園内は雨に濡れた石畳が滑りやすい。足早で歩けばずっと先に小さな湖がある。
お舅姑さんは勿論見ないでは帰れナイ。息の上がる私は、先に行って欲しいと促す。
多少登り気味の遊歩道は、ショルダーバッグを女房に預けた空身でも少々苦しい。
途中何箇所かのポイントで、歳の頃なら14〜15才くらいのまだあどけなさの残る民族衣装の娘が、お客と一緒に写真に納まって10元の商売をしていた。
10元は惜しくないが、前に3人がしゃがみ、その後ろの真ん中に立つ。
両脇を純情無垢な乙女2人に挟まれ、おじさん涎を垂らさんばかりにヤニさがった写真は、面目丸つぶれでイタダケない。
私は可憐な娘の写真だけ、それもポーズをつけない自然なのが欲しいので、そっと盗撮に及んだ。
目敏く見付けた彼女ら・・・・・・・・プイッと全員横を向くから可愛くナイ。
何が可憐なモノか!さっきのは取り消しだぁ〜

このあと大理古城を訪ねる。城砦の一部が再現され、大きく“大理”と書かれた金文字の看板が目を引く。
古い家並みというよりも、朽ち果てたといった方が近い。
通りの奥に三重の塔があって、ここでUターン。観光化された中国の古き街だった。
日本人の観光客とは出会わないが、青い目の観光客は結構居る。
夕方も近く高地なので肌寒かったが、この外人さんTシャツに短パンとはイイ度胸。
東洋人とは体温が違うのだろうと、女房と顔を見合わせた。

ようやく大理1日目が無事終わった。
明日は麗江に向かう。バスで3時間以上も掛かる。早く休むに越したことはない。
今日の泊まりの賓館も経済(エコノミー)旅行では申し分ない。
近くにはお舅さん期待の瞬くネオンも見られず、残念無念で今日はおとなしく就寝。
さすが2000mの高地、窓に吹きかけた息がサッと白く曇った・・・・・・

6章 麗江の美人は気をつけろ!へ続く・・・・・・

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