| 豪華な昼食が終わり、いよいよ石林観光へ向かう。 走り始めてすぐに、バスの車窓から眺める景色が一変した。 突如、恐れを知らないように天に向かって突き出た無数の石柱や奇岩。 一瞬オーストラリアのピナクルーズで見た衝撃と、同じ驚きが胸をよぎる。 あそこは砂漠に無数の石柱が、荒野の墓標のように林立していたが、中国のそれは刺々しく小高い丘を埋め尽くすような威圧感がある。・・・・・スゴイ!スゴイ! この辺りは太古の昔、海の底だったそうで、その関係からか地盤が弱く、石灰質の岩は長年の振動で削ぎ落とされ、今の天を射るような突き出した奇岩になったそうである。 約1000年前にこの形に落ち着いたと、丸でその場に居合わせたように流暢に話すガイド。 ・・・・・・・・・面倒くさがるカミさんに、やっとこれだけ通訳してもらった。
ガイドから一枚々それぞれチケットを貰い入場。 驚いたのは售票(チケット)値段、1人80元もする。 私の持っている“地球の歩き方”も1999年〜2000年版だから古いには違いないが、そこには30元と出ている。たった2年で2倍半も上がった。 一時、售票口に中国人金額と外国人金額が分けて表示されていたが、もう一緒くたに外国人値段になったような感じだ。 ノホホンと豊かな地域から観光に来た中国人からも容赦なく取るようにくなっただけの話で、観光地お得意の一見客から、取らんかな!毟らんかな!の意気込みが見え隠れする。 しかし、これはどう考えても表向きだ。中国には何でも裏があるから鵜呑みは禁物。 やっぱり地元関連の旅行社などには、団体割引以上に安く卸しているのだろう。 ガイドはその都度買いに行くのではなく、束で持っていたから・・・・・・ それとも1人に付き何某かのバックがあるに違いナイ。 それにしてもこのツアー、入場料だけでも80元するのに、送迎昼食付き80元で採算をどうやって取るつもりなのだろうか?・・・・・・人事ながら気に掛かる。
ここからは派手な民族衣装を纏った専属ガイドが案内する。 日曜でも祭日でもないのにスゴイ人波。ガイドを先頭に各ポイントを回るのだが、その度に行列を作って並ばなければならない。 やっとお目当ての絶景写真ポイントに辿り着いても、溢れ返る人込みでファインダーを覗いても半分は人の頭が写ってしまう。 押しの強い中国人は盛んに怒鳴る・・・・「ドケ!どけ!写真に写っちゃうダロ〜」 そりゃぁ写るだろ〜、これだけ人が多いんだから。 その男の彼女と思しき女は、人の迷惑顧みず、ちゃっかり池の辺でしなを作りポーズを取っている。 ・・・・・・・・・アホかぁ〜 そういわれると退きたくないのが人情!その都度退いていたらこの先、いつまで経っても自分の写真は撮れそうもナイ。断固拒否の姿勢を貫きたいが、人に負けない優柔不断さゆえ、スゴスゴ引き下がる。 全体がグレー色の尖った無数の岩々が、奇妙な次元に迷い込んだような錯覚さえ感じさせる。 手入れの行き届いた緑の芝生とのコントラストが、絵になる空間を醸し出してホッと一息心が安らげる。 ・・・・・ナンテこと金輪際ない!この人込みでは! 秋の紅葉にはまだちょっと早いが、所々周囲の木々も黄色く色付き始めて、もうすぐ本格的な秋の訪れを予感させる。 元気一杯な上海一族に引き換え、私は昆明に着いてから妙に息が苦しい。 持病の肺が又破れたかと心配になるが、息を吸ってもちゃんと入るから、そうではないと不安を打ち消す。 こんなに苦しいんじゃ、もうタバコはやめよう。いよいよ年貢の納め時が来たな〜 何かのキッカケを探していたが、ようやく決心がついた。心成しか気分も晴れ晴れ。 ウン?鈍感な私が、そこでハタと気が付いた!昆明は1800mもある場所だと。 (・・・・・・・・・ナンデこんな時に気が付くんだ!) そうか〜!空気が薄いからだ。途端に安心した所為か、一服したくなった。 よくよく救われない男だと・・・・・・・傍で女房が笑っている。
一際大きな声で民族ガイドが叫ぶ。ここが一番の見所だと。 頭上を見ると、そそり立つ尖った岩のてっぺんがポッキリ折れた形で向かいの岩に倒れて、妙なバランスを保ちながら跨るように引っ掛かっている。しかも巨大な岩だ。 誠に危うい。いつ落ちてくるか、崩れるか分からない。 見たところ金具で固定している様子もなく、自然の侭、名物で売っているらしい。 その下をキャァ〜キャァ〜いいながら、喜んで通り抜けていく中国人観光客。 喜んでいる場合ではナイ。中国の一種無責任さを垣間見る。 日本なら到底許可されないだろう。アトの責任問題を考えると危ない橋など渡れない。 まぁ、それゆえ何事もチンマリしてしまって、面白くない事も間々あるのだが・・・・・・ 岩と岩の間に人型の隙間がある。やっと人ひとり通れるくらいだ。 下の方がいくらか広いので、屈んで潜れば通れないことはないのだが、それでは意味がないという。 民族ガイドは得意満面、細身を利してそこを屈まないで通って見せた。 「私のように抜ける事が出来れば、将来大金持ちに成れる!」 はっきりいって何の根拠もナイ!こういう事を平気で言えるところがスゴイ。 ましてやこのガイドがいま金持ちとも思えないが、若いからこれからのチャンスを言っているのか? 中国人はどういう訳かこの手の話に乗りやすい。真に受けて次々とチャレンジする。 女性はともかく、男は首が太いし顔もデカイ。 このくらいで金持ちに成れるならと、ツアーのおじさん必死の形相でトライする。 無理が通れば道理引っ込む!とうとう顔のアチコチ擦り剥きながらも根性で抜けた。 男?の一念岩をも通すとはこの事だ!見るも哀れで遊びの感覚がない。 中国人は何でもすぐマジになる。・・・・・・・・これは案外恐ろしい。 女房の番だ。顔は並だがスタイルがいい。難関の首周りも難なくクリア。 そして私の番。私は今更金持ちに成れなくても、このままでイイ。冷ややかな視線を浴びながら、弱虫日本人を曝け出して下を潜り抜けた。 さぁ、ラストお姑さん。このツアー客の中でも、一番金持ちに成りたい欲求が強い。 満を持して人型隙間に挑戦したが・・・・・・・悲しいかな、背が足らなかった。 背伸びしようと、どうにもその人型に嵌らないのだ。先に抜けた人達の嘲笑と爆笑。 ・・・・・・・残り少ない将来が見えたか、お姑さん。キリリと下唇を噛んだのを、私は見逃さなかった。
フ〜フ〜いいながら見晴台までようやく登った。平坦な道はそうでもないが、登りとなるとかなり息が切れる。 やはりタバコは止めるべきだろうか・・・・・ 見晴台に立つと周囲の景観が大パノラマで満喫できる。 石林は見下ろすよりも、下から見上げた方が迫力があると思った。 やっとの思いで上がってきたというのに、労多くて実りの少なさにガックリ。 これは登ってみて初めて分かった事だから仕方ない。 約3時間の散策で石林観光もお開きだ。帰りも昆明まで2時間半ほどかかる。 また途中の凸凹道を、ロデオ大会よろしく耐えて耐えて、6時昆明無事到着。 昆明駅前で降りたのは私ら一家だけ。バタバタと荷物を降ろし終えると、勢いよくバタンと扉が閉められ、急発進でバスは走り去って行った。・・・・・・・・・愛想も何もない別れだった。 大理行き夜行列車は22:30の発車だ。 リーダー女房はこの時間を利用して、帰りの上海行き切符を手配した。 ホントに楽だ。私は中国旅行では、殆ど何もせずとも事は足りる。 寧ろ喋らず、動かず、騙されずにジッとしていてくれた方が、女房とすれば有り難いのだろう。 キョロキョロしていると、すぐに賓館案内や観光案内の兄ちゃん、姐ちゃんが寄って来る。 いちいち構っている隙に荷物を取られる事だって、しょっちゅうの話だからだ。 ゆっくり食事をする時間もまだまだある。 駅の近くの3っ星賓館の餐庁にて晩餐の宴をする事になった。これは私の発案。 賓館の服務員に聞くと、ロビー奥の2階だという。 例によって荷物バックを転がし、トイレ脇を抜けて2階に上がる階段まで来た。 階段のすぐ脇に大衆食堂があった。 義父母は2階と1階を交互に見詰め、遠慮したのだろう、大衆の方でイイと言い出した。 ・・・・・・・・いやこっちの都合もある、それでは困るんだ。 甚だ何度も尾篭(びろう)な話で申し訳ないが、私には切羽詰ったトイレの問題があった。 トイレを制する者は中国旅行を制す・・・・・・(私が勝手に言っただけ) さっき通り過ぎたトイレをちょっと覗いたのだが、ドアを開けた途端、 「こりゃダメだ!」とすぐに閉めた。・・・・・・低い仕切りはあったがドアがない! それで2階の高級餐庁なら、専用のトイレだあるだろうと踏んだのだ。 だから私にとって1階の大衆食堂では困るのだが、その為に高級餐庁に入ったと分かれば一族に笑われるに決まっている。 まったく大らかというか、中国人はドアが有ろうが無かろうが、そんな事ちっとも気にしない。 でもこれは日本人にとって切実な問題で、なんとも気まずい抵抗がある。 そんな胸の内をおくびにも出さず、カミさんに「ご馳走してやれ」と2階の高級餐庁へ行く事を指示した。 ・・・・・・きっとナント優しい夫だと見直した事だろう。 1階の大衆食堂と違い、如何にも高級そうな雰囲気。 席と席の間も余裕があるし、テーブルも大きい。配膳の小姐も揃いの赤いチャイナ服で、おまけにみんな一見美人そう。・・・・・・などと観察している余裕はもうナイ。頭の中はトイレの事で一杯だ。 上海一族はこの期に及んでも、まだメニューの中の安い料理を物色中。 「アナタ、なに食べた〜い」 「・・・・・・・・・」(食べたいモンか!こっちは腹が突っ張ってそれどころじゃないんだ!) 「どうしたの?どこか調子が悪いの?」・・・・・・・大有りだぁ 「・・・・・・トイレ、どこ?」 「早く言えばいいのに」といいつつ、早速、小姐を呼び聞いてくれた。 「1階に有りますゥ〜」・・・・姐ちゃんは無表情にそう言った。確かに言った。 1階ってさっきのドアなしトイレかぁ!嘘だろ〜なんでココにないの! それじゃ、わざわざ2階の高級餐庁に来た意味がないじゃナイかぁ! 「兎に角、1階に行ってみようョ、私も一緒に行ってあげる」 ・・・・・優しい女房だ。これじゃ丸で小学生の付き添いだが有り難い。 さっきはちょっと見だったので、まさかを考えて再度の確認にドアを開けた。 丸見えの正面で息張る、今まさに奮闘中の中国人とマトモに目が合ってしまった。 ア〜万策尽きたか!最早これまでお覚悟を・・・・・ 「ここの賓館、確か安い部屋はトイレ、シャワーは共同だって言ってたョ」 頼りになる女房。よくそこに気が付いてくれた。 という事は、素知らぬ顔で客房に上がればトイレがある筈。・・・・・・・行こ!行こ! エレベーター前に立つ警備員の目を欺き、目星をつけて3階辺りで降りた。 長〜い廊下が左右に続く。二手に分かれて探す事に・・・・・・ 「あった、あった、こっち、こっち」 女房の方で大ヒット。下半身に負担をかけないよう、小走りに急ぐ。 「ヤヤッ、真っ暗だぜ。電気ないの?」 トイレの内外、スイッチを探すが見当たらない。何処まで不親切なんだ。 廊下から差し込む明かりで、薄ぼんやりと全容がなんとなく見えてきた。 奥行きが長く、壁も床も仕切りも冷たいタイル。その冷たさはどこか病院の解剖室を連想させる。 白いタイルの仕切り壁はやはり低く、5〜6ヶ所の専用使用になっていた。 仕切りドアを押そうとして、ドアに手を掛けたつもりが、前につんのめった。 ・・・・・・・ナイ!ここもドアがなかった。 暗いので良く分からなかったが、元々無かったのだ。 意気地のない奴!怖気づいて一旦は出てきてしまった。 「大丈夫ョ、ワタシここで待っているから」 もう躊躇している是非もない。意を決して事に及んだ。 いつパッと電気が点けられるか、いつ宿泊人が入ってくるか戦々恐々の体。
記念すべき輝ける日!と自慢出来る話ではないが、それからは妙な自信が付き、向かうところ敵なしの中国旅行になったのであります。フゥ〜・・・・・・おつかれさま〜 5章 大理の遊覧船は戦争だ!へ続く・・・・・ |