| 昆明は雲貴高原の中部に位置し、風光明媚な雲南省の省都だ。 海抜1891mの盆地にある為、1年中穏やかな気候に恵まれて過ごし易い。 ・・・・・・・と、ガイドブックには書いてある。 「お舅さん、昆明は上海より暖かいですかね?」 「いや寒いだろう!厚手の服を持っていった方がイイぞ〜」 念の為、TVで全国気象情報を確認すると、やはり朝晩は9℃と意外に寒そう。 まして大理、麗江まで観光するとなると、かなり山の上だ。 やはりお舅さんの言うのは本当らしい。年の功で意外と物知りと見直す。 昨年、事前下調べもなしで乗り込んだ九寨溝。無謀にも春のハイキング紛いの軽装で寒さに震えた。 私だって一度痛い思いをすれば、そう簡単に忘れはしない。 その手は桑名の焼きハマグリ。同じ失敗を2度繰り返すほど、私も間抜けではない。 それで今度は用意周到、万全の寒さ対策を講じてきた。 私達は義父母と違い、食料などなるべく現地調達に心掛け、衣類を増やした。 私など駄目押しに股引まで持参したほどだ。 それなのに、ア〜それなのに、暑〜い!暑いのだ。 まだ街のあちらこちら、Tシャツ姿さえ見られる。 日が高くなってくるに連れて、長袖のシャツは腕捲りくらいで済まなくなった。 「お舅さん!昆明って随分暑いんですネ〜!」 回りくどく謎掛けで言ったって、気が付く筈もないお舅さん。とっくに自分の言った事だって忘れている。 こうなると何を信用していいか分からない。身内までこうイイ加減では・・・・・・ 肥っている所為か、暑がりの私だけTシャツ姿で「昆明世界園芸博覧園」に向かう。 アチコチでバス停を尋ね、キッチリ路線バス利用にて、あくまで無駄遣い厳禁だ。 元々私は花より団子タイプ、美しい花を愛でる感性に大分欠けている。 したがって見ても見なくてもどちらでも良かったが、この園芸博覧園、度々TVでも紹介されているので、昆明まで来て素通りは一族が許さない。
バスを降りると眼前に広がる巨大駐車場。何百台も停められるスペースがある。 その遥か先にメインゲートが見える。ちょっとディズニーランドを思わせる造りだ。 押し寄せる入場者を想定して、幾重にもステンレスパイプの仕切りがある。 まったく欲が深い・・・・・・・見たところかなり疎らな入場者しか無さそうなのに。 後方は三方を山々が囲み、谷間のオアシスを連想させる一大庭園だ。 早速、女房チケット売り場のある建物に入って行き、そしてすぐ出て来た。 「1人100元もするョ!どうする?」 どうするって言ったって、ここで帰る訳にも行かんダロ〜・・・・・・・ 中国は内容はどうあれ、最近出来た施設は何処も入場料は高目の設定。 中には金返せと言いたくなるのもシバシバ。ここだってその類かも知れない。 明日の石林観光ツアーが昼食付きで80元(1200円)を考えると、腹が立つほど高い。 義父母だけなら、入り口周辺見渡して、覗ける範囲だけで恐らく帰るところだろう。 たまに出掛ける上海近辺の日帰り旅行、いつもそんな具合だと聞いた事がある。 今日は私がいる以上、そうも行かない。 第一ここで引き上げたら、この先いつまで何を言われるか分かったモンじゃない。 女房にすれば1人2000元であげると宣言した以上、予想外の痛い出費だろう。 お舅さんの待った!が掛かった。 「そういえば、さっきダフ屋がいたぞ〜・・・・・」 まったく蛇の道はヘビ。そういう裏の事は、実に目敏く長けている。 何処で入手するのか知らないが、チケットの束を持っていて、当然正規料金より安く売ってくれる筈。 勿論、違法だから大っぴらには出来ない。 一見して観光客と目星を付けると、ツゥツツーと擦り寄ってきて「あるョ」と耳元で囁くのだ。 私とお姑さんは、暑い日差しを避け木陰で一休み。 父娘は「任しとけ!」と言わんばかりに、勇んでそのダフ屋を探しに出て行った。 逞しい女房を持つと亭主は楽が出来るのだ。・・・・・・ありがたい しばらくすると心なしか肩を落とし、うな垂れて戻ってきた。 目当てのダフ屋。なにかヤバイ事でもあったのか、どこかへ雲隠れして見付らないと言う。 時計を見れば午後もとっくに回り1時45分。昼食時間が長すぎたな〜失敗、失敗。 この期に及んで是非もない。もう諦めてチケット買って来い!買って来い! 定年退職した証明書を見せると、義父母は半額になる事が分かった。 〆て大枚300元、これで大した事なかったら怒っちゃうョ〜 生意気に、見たところ横一線20〜30本もある入場者整理仕切り。 殆どのチケット確認ゲートは閉鎖、並ぶほど入場者が居ないから無理もない。。 辛うじて中央の3ヶ所くらいが営業中。手持ち無沙汰の入り口モギリ兄ちゃんは暇そう。 「高いからお客が来ないんだぞ!」の捨てセリフを残し、こぞって堂々と胸を張っての入場。 正面にこけおどしの巨大な花時計。如何にも中国らしい、なんの変哲もない演出。 その奥に、これも花で飾り立てた巨大な帆掛け舟。その周りを小さな鉢に生けられた、色とりどりの花が敷き詰められている。 「アッ!・・・・・又刺された!」(騙されたの意) 女房、怒り剥き出しの形相。握り締めた両手はワナワナと震えている。 ここ博覧園の宣伝立て看板の隅を、ココだ!ここだ!と言わんばかりに指さした。 開館9:00〜閉館18:00・・・・・・その下、一回り小さい文字で14:00より半額。 さっきチケットを買ったのが13時50分、たった10分の違いで100元損した! 買う時にこんなこと書いてあるなんて、気が付かなかったと悔やむ事シキリ。 チケット売り嬢だって、10分前なら言ってくれても良さそうなモノと怒り心頭だ。 「中国人のこういうところが嫌いョ!」・・・・・・・アンタも中国人でしょ。 「マァマァ落ち着いて・・・・・」 親戚でもないのに、わざわざ親切に教えてはくれないだろう。 従業員なら給料分は働かなければならないし、もう国営企業とは違う。 ましてやこんなに入場者が少なくては、背に腹かえられないと思うよ。 たとえ1分前でも知らん顔して売るかもネ。怒ったってしょうがないョと慰めた。 ボムッ!・・・・・・女房悔し紛れにその立て看板を蹴飛ばした。
側面の坂を下ると、淀んだ色の人工池。その周りを世界の家を模した家々が立ち並ぶ。 オーストラリア、カナダ、オランダ、ドイツ、スペインと様々ある。 どこも雰囲気すら遠い別物で、アメリカの家に至ってはテキサスの酒場だった。 我が国日本は峠の茶屋的趣で、中国製の和風こけしや日本人形を売っていた。 私の子供の頃も、東京郊外にユネスコ村なんてのがあったが、一般の人がドンドン海外に出掛けるようになったら、いつの間にか消えていた。 それと同様で、ここも一時の徒花、いつしか同じ運命を辿るのか・・・・・・ 中国の人は探究心旺盛で、なんにでも興味を示す。義父母も子供のようなはしゃぎ様で隈なく見て回る。 お姑さんなど、いつもこの手の観光場所は門前で帰るから、今日は心から溜飲を下げたような嬉しさだ。 池の辺には束の間の憩いを求める人達が、思い思いの楽しみ方をしている。 石の丸テーブルを利用して麻雀する人、ベンチで寝そべる人、興奮した大声でカードに興じる人、一人黙々と編み物をする人、ラジカセ持込みで得意満面にエアロビを指導する人、習う人。 ウン!待てョ?この人達随分余裕だが、みんな100元払って入ったのだろうか? 中には毎日来ているような馴れ馴れしさの人も居る。 中国人は100元も払って、こんな公園紛いのところには絶対来ない。 見れば普段着だし、地元の人は特別割引でもあるのかも知れないな〜 ひょっとして地元の証明書でも見せればフリーパスかも?。だがその分観光客からふんだくったら益々評判が悪くなるだろう・・・・・・・・・中国人はそこまで考えないか? ほぼ中央に斬新なデザインの国際館と銘打った建物がある。 それぞれの国の民族衣装らしき服をまとって、お土産を売っていた。 恐る恐る日本コーナーの前にやって来た。 そこには予想を違わず、品の無いギンギラ模様の着物?をだらしなく着こなした、昔の御女郎さん風の売り子が客を引いていた。あまりゾッとしない光景だった。
笑えたのが世界の通貨館。 とんでもない丘の頂上に、ひっそり人目に付き難く建っている。 そこを囲むように、お土産屋も数軒有ったが客など滅多に来ないのか、私たちが息を喘がせ登ってくると、逆に珍しいものでも見るような好奇な目が集中した。 問題の通貨館。先ほど降った雨の影響だろう、館内至る所バケツのオンパレード。 建物はそんなに古くないのに、相当雨漏りがヒドイらしい。 壁面の展示ケースに貼り付けられた、肝心の紙幣からコインの各国通貨が、よく見えないほど照明を節約している。おまけに背負ってる話で写真は厳禁と来た。腹が立ったので、その雨漏り現場を盗撮してやった。 トドメは又もや日本コーナー。今や我が国日本は隣国中国との係わり合いは深い。 幸福であるかどうかは次の機会に譲るとして、私でさえ日中国際結婚を果たしている。 なのに!硬貨だけとは如何なものか!1万円札も5千円札もあまつさえ千円札もなかった。 余裕の展示面積にちんまりと100円玉、50円玉、10円玉、5円玉、1円玉のみ。 これじゃぁ知らない人は、日本は不便でジャラジャラ重い国だと思われてしまうだろう。 まったく情けない!責任者に抗議してやりたくなった。 小雨パラつく中、広大な園内を一通り回った。時間も5時半、そろそろ帰り支度。 園を一旦出てしまうとトイレに困るので、済ませてから出る事に。 「みんなは行かないの?なにさっき済ませた〜、あっそう、俺だけか」 我慢の限界は迫っている。いそいそと前方のトイレに駆け足で急ぐ。 アレ!なんで俺の時だけ、いつも間が悪いんだ。只今清掃中の立て札。 こんな閉園間近に掃除なんてするなよなぁ〜・・・・・ブツブツ 日本人の気配りのすすめ、清掃おばちゃんを急がせても悪いと一旦メイン通りに出てきた。 「どうしたの?もう済んだの?」 「清掃中だってさ、すぐ終わるだろう・・・・・」 出口ゲートは目の前、ここが最後のトイレ。別なトイレは、ず〜と戻らなければならない。 夕方になったらさすがに少し肌寒くなってきた。私の焦りとは裏腹に、雨上がりの西の空は赤々と夕日が沈みかけている。 「もういいだろう・・・・・・ちょっと待っててネ」 雨に濡れて滑りやすい敷石に気を付けて、足早にトイレ、トイレに駆け込んだ。 フザケルナ!!・・・・・・なんでシャッターが閉まっているんだぁ〜 客が帰るまで閉めるんじゃネェヨ!普通、客が帰ってから掃除するんと違うんか! あのおばちゃんに限らず、中国はまだまだサ−ビスの何たるかが分かっていない。 定時の6時にはすっかり掃除も終えて、キッチリ客と同じ時間に帰ろうとしていた事は明白だ。 お舅さんは「あの木陰でヤレ!」と盛んに指差すが、そんな不名誉な事・・・・・・ とは言っても我慢の限界はすでに超えた!仕方なく周囲を気にしながら、その木陰へ。 一日中歩き疲れてヘトヘト。このままホテルに戻って大の字になりたいが、丁度晩餐時間。 まだまだ余力を残す上海一族を見ると、ここで音を上げてもいられない。 ホテル近くの餐庁にて昆明初日の晩餐会。 黙ってりゃぁ、横丁の路地を入ったうらぶれ定食屋かナンカに連れて行かれるから、ここはガツンと釘を刺した。 「ケチケチするなヨ〜・・・1年1回の事なんだから、景気よくブァ〜と行こうぜ!」 割と小綺麗な餐庁。四川だろうが広東だろうが、私にとっては皆同じ中国料理。 すでに鼻に付いていて、何が食べたいとの欲求はナイ。 注文を聞きに来た若い小姐。年の頃なら17〜18才、漢民族系でない顔立ちで鼻筋が通った美人。 ジッと見つめていると、ちょっと微笑んで如何にも恥ずかし気に下を向いた。・・・・・・こういうのをウブって言うのだろう。 何か言葉を掛けようとしたら、隣の女房に太腿をツネられた。イタ〜〜イ! 食後、義父母は繁華街へ繰り出すという。まったくタフだ。 繰り出すといってもタダの散歩なのだろうが、昆明まで来てジッとしているなんて勿体無い。 隅から隅まで見なければ気が済まない、毎度の癖が頭を擡げる。 私らは明日石林ツアーが早いから、ホテルへ早々の撤収。 昨日早く寝た所為か、まだ暗いうちに目覚めた。 荷物の中身があっちこっちに散乱している。まるで泥棒にでも入られたようだ。 女房の奴!昨日一夜の宿なんだから、こんなに広げる事なかったんだ。 今日は荷物ごと石林観光して、昆明駅解散。そのまま別なツアーに参加、夜行列車で大理へ向かう手筈。 すっかり明るさを取り戻した7時頃、お舅さんがやって来た。 まだ寝ている部屋もあるだろうに、遠慮会釈なくドアを叩く。 「朝飯はどうすんだぁ〜、いま万頭買いに行くがお前たちも食べるかぁ〜」 開けたドア越しに大きな声が響く。TPOの使い分けがナイ。朝から元気一杯だ。 案の定、向かいの部屋のドアが開き、どうしたんだ!と抗議された。 お舅さん、掌をヒラヒラさせて「何でもナイ」の仕草。まったく意に介さない。 8時にはホテル前まで12人乗りの小型バスが迎えに来た。 誰も乗っておらず、我々が最初の乗る込み客らしい。 経済観光としてはマァマァだろう。車内の座席も一応クッションがある。 去年の九寨溝は、煎餅布団のようにカチカチで尻が痛かった。 バスの程度からして窓だって何とか開きそうだし、まずまずじゃないかぁ〜 このツアー何人行くのか知らないが早い者勝ち。お舅さんはトットと後部座席に荷物を押し込んでしまった。 私たちより見劣りのする賓館を2ヶ所回った。それだって私達よりきっと値段は高かった筈だ。 要領や押しが強いと中国では得をする。女房様々、今日も頑張ってネ〜。 総勢10人の石林ツアーとなった。美しくもなく醜くもない小姐ガイド付だ。 石林は昆明から83km、「天下第一の奇鋒」と称される景勝地。 毎日津波のように押し寄せる観光客で、ごっがえしているらしい。 私は性格が穏やかな所為か、どうも奇声や歓声が渦巻く場所は苦手なのだ。 昆明市内を抜けると、土煙モウモウと立ち込める舗装されていない道路を行く。 ガイドの話では少しの区間だけとの事だが、後部に陣取る我々はバウンドする度に舌を噛みそうで、悲壮感が漂い耐えるだけで精一杯。 手すりを掴んだ腕には益々力が入り、さっきまでの笑顔は消え失せ、忽ち引き攣った顔に変わった。 山間の登坂道に入り、ようやくバウンドから開放された。 片側に聳える山肌を、丸でへばりつくように単線のトロッコ電車が走って行く。 ここでトイレ休憩を兼ねた、本日1回目のお土産店訪問だ。 現地経済ツアーの定番だから私達はもう慣れていたが、中には観光ツアーで何でお土産屋回りをするんだ!と怒る人もいた。
玉器店・・・・・・・大理石の腕輪や水晶のネックレス。一目でメッキと分かる詐欺同然のブレスレット。 これは現地の砂金で作ったという触れ込みだ。 私はどれも市価より高いし、紛い物も多いので絶対に買わないが、冷やかして歩くのは好きだ。 ちょっと品定めをするようにショーケースを覗き込むと、すぐに若い小姐が飛んでくる。 頼みもしないのに、次々とケースから比較的高そうなモノを取り出し、よく似合うとか、お買い得だとか、手練手管を駆使して売り込んでくる。 勿論、そんな雰囲気というだけで、言っている事は分からないし、相手も私の日本語が分からナイ。そこでチグハグな問答となる。 「アナタの太い腕にこの金の鎖がピッタリ!ステキ!」・・・・・・(太いだけ余計だ!) 「あなたの指、細くてしなやかだね。顔だって化粧したらもっと綺麗になるよぉ〜」 「えっ・・・・・・・・・・?」 「ここで給料幾ら貰ってるの〜・・・・・」 「・・・・・・・・・・・?」 品定めを装い、さり気なく噛み合わない会話を楽しむ。・・・・・・悪い奴だ! 相手は狐に摘ままれた様にキョトンと首を傾げる。 中国には様々な言語があるから、きっとどこかの地方語と思っているのだろう。 何とか理解しようと模索しているが、分かる筈もない。 ツアー代金80元では嘘かと思っていたが、本当に昼食があった。 もう石林までアト僅かの地点で停車。指定の餐庁へ全員ゾロゾロと出向く。 ♪これっきり、これっきり、もうこれっきりなのね〜♪の定食ではなく、次々と出てくる、出てくる、これでもかというくらい出てくる。ほんに手品のような料理の豪華品数。・・・・・まさに目を疑ってしまった。 アトで追加を取られるんではないか?と女房は一瞬顔を曇らせる。 喜んだのはお姑さん、人一倍の食いしん坊。目をランランと輝かせ、猛然と挑む。 幸せ一杯、胸一杯、ニッと笑った微笑み返し。義父母の嬉しそうな顔を見ていたら、こっちまで胸が熱くなった。 ・・・・・・・・・ア〜来てよかった〜 4章 中国の摩訶不思議・石林へ続く・・・・・ |