| 悲惨とも思える45時間の列車旅。 上海〜浙江省〜江西省〜湖南省〜貴州省〜雲南省昆明まで、実に2966kmの距離。 湖南省の懐化駅辺りが丁度真ん中だろう。 昨日、改装された上海駅を旅立って30分もするともう畑。それからは寝ても覚めても窓外は畑と田圃が延々と続く。それだって、先も見通せぬくらい広大な平地に、稲穂がキラキラと黄金色に輝いているのなら絵にもなるがそうじゃない。 岩石質の山を段々に切り開き、猫の額ほどの土地を根気よく耕している。 私ではとても無理。地下鉄の階段も途中一休みするようでは、3日と生きていけない。 上海の大都会が、中国では如何に特異な地域であるかを肌で感じる。 それは天と地ほどの違いで、上海に見る華やかさなど何処を見たって微塵もない。 こういった土地に住む人の幸福と豊かさは、果たしていつやって来るのだろうか・・・・・・・
今日の明け方にスゴイものを見た。 一晩中ゴトゴト列車の振動を感じながら、浅い眠りにウトウトしているとその振動がピタリと止み目を覚ました。夜明けの停車場だ。昔そんな歌もあったっけ・・・・・ 車窓のカーテン越しにホームを見ると、向かい側にも列車が止まっている。 照明の少ないホームは薄暗く、まださすがに閑散としていたが、その向かいの車両だけヤケに騒がしい。 怒号が飛び交い悲鳴も聞こえる。 こうなれば野次馬根性丸出し、寝てなんぞいられるモンか! 列車の連結部分に喫煙場所がある。ここで一服しながら高みの見物と洒落込む。 向かいに見える列車は、ちょうど硬座車両。立錐の余地がないほど詰め込まれている人々が、車内の明かりに照らし出されている。 咥えタバコで、その有り様を見ている自分は硬臥の苦労知らず。少々後ろめたい気持ちになった。 開け放されたアチコチの窓から、荷物やらバッグが放り出されて、ただならぬ気配。 車掌も乗降口まで行けないのか、扉はまだ閉まったままだ。 間もなく人間までが、その狭い開口から無理矢理ホームに降り出した。 私は戦後生まれだが、写真やフィルムで見た鈴生りの買出し列車と同じ光景だ。 ある者は足から後ろ向きに、剛の者は高校野球のヘッドスラィディングそのままの格好で、何が何でも降りてみせるという気迫の脱出劇。 多くは農民か労働者の出で立ちだが、中には眉目秀麗と思しき、うら若き女性も混じっていた。 大きなお尻をピチピチのGパンに包み、後ろ向きに這い出て来たその娘。 本人にとっては誠に不運、私にとっては涎タラタラ、あろう事か途中でセーターが何かに引っ掛かった。 両手は車内の誰かが掴まえているから直す事も出来ない。 ホームでは先に降りた友人らしき男が足を押さえている。・・・・・・絶体絶命 ズルッズルッとセーターは捲くれ上がり、夜目にも眩しいくらいの柔肌が露に。 ブラジャーの留め金も見えた。もう少しだ!・・・・・・(お前どっちの味方だ) 残念無念。結果は期待通りにはならなかったが、ホームに降り立った娘はパンパンと洋服を叩き、屈託のない笑顔で出口の方向へ消えていった。 後ろ姿を追いながら、草莽の中国人が生きて行く力強さと、したたかさを感じた。 さて、日が昇り新たな列車の一日が始まった。 上海を旅立って20時間経ったが、まだ半分も消化していない。 今日一日何とかやり過ごし、もう一晩我慢すれば明日朝には昆明に着く。 昨日トイレでの無慈悲な仕打ち、あの憎き女性乗務員が箒を片手に車内清掃にやって来た。 通路も向かい合わせの寝台の間も、中国人が暇潰しに良く食べる向日葵の種殻や蜜柑の皮などが何処も散乱している。 まぁ、一人じゃ大変な事は良く分かるが、見てると塵取りに取るのは比較的大きいゴミだけ、向日葵の種殻クラスは寝台の下にパッパッと掃き込んで行く。 そこに仕舞い込んだ我々の荷物などお構いなしだ。 取り合えず目に付かなければ良しとする、職業意識の欠片もない、そういう中国の姑息なやり方を私としてはどうにも我慢・・・・・・・・出来る!むしろスキだ! まったく何処もミスだらけで、かえって肩が凝らなくてイイ。 日本人らしい細やかな心遣い、ビニ袋に纏めて置いたゴミも回収してくれる。 さっき酷い目に遭った万頭も、殆ど手付かずで捨ててある。 それに気が付いた乗務員のお姐ちゃんが、又かという顔で明るく言った。 「うまくないでショ!昨日のは・・・・」 ガァ〜ン!ナヌッあれは昨日の売れ残りか!道理で固いと思った。 お舅さんが笑いながら、なにやらお姐ちゃんに話し掛けた。すると又々の大爆笑。 なんでも昨日のならまだマシな方で、2〜3日前のも平気で売るらしい。 ウ〜〜ン、各々方努々ご油断なさらぬようご用心、ご用心ですぞ〜・・・・・・・ 中国に始めてきた頃は何でもイチイチ円に換算していたが、最近はすっかりファミリーの一員と認められた為か、上海の水に馴染んだ所為か、もうそれもしなくなった。 これは女房を筆頭に、上海一族の影響を多分に受けている。 昨日だって車内売りの弁当が15元で「太貴!太貴!(高い)」を盛んに連発していたお舅さん。 確かに上海の地元では5元で買えるから、3倍もしたら高いのだろう。 こんなのしょっちゅう聞かされていれば、自然に感化されてしまう。 円に直したら、75円で買える弁当を225円では高いといっているようなもの。 4人分買ったって1000円でお釣りが来る話だ。 1年1回のファミリー旅なのに、なんでスパッと弁当ぐらい買ってやれなかったのか、いや豪気に食堂車まで遠征に行ってもいい。(何でこんなになっちゃったんだろう)と考えると気が滅入って来た。 ファミリーの中ではお姑さんが一番嬉しそうだ。折角の楽しい旅行、ダイエットは上海に戻ってからすると手当たり次第食べては寝ている。 このお姑さんと私は2歳しか違わない。お舅さんとだって6歳違いだから、歳から言えば兄弟姉妹みたいなもんだ。見た目はそうであっても、意識はまったく親子の感覚なのだから不思議だ。 しかし本人同士は大マジで、それぞれの役割に徹しているから、きっと他人には奇妙に映る事だろう。 何処となく憎めないお舅さん。普段も歳の割に溌剌としているが、地方に出ると更に生き生きとしてくる。 上海人という事で、地方の人はみんなウットリ羨望の眼差しで見るかららしい。 上海人特有の見栄を張れて、ちょっぴり優越感にも浸れる。旅行は実に楽しいと言う顔だ。いろんな楽しみ方があるもんだと感心。 景気のいい上海では、ちょっと肩身も狭いが、ここまで来れば知る人は居ない。元気一杯だ。 アチコチで俺は上海から来たと触れ回って歩いている。
上海を出発して丸2日、早朝6:30勇躍にして昆明に到着した。 18両編成の満杯列車から吐き出されるように出てくる!出てくる! 長〜いホームの中央にある下りの通用路を、どの顔もまっしぐらに目指す。 中国人は何でも先を争う。バスだって地下鉄だって、エレベーターでさえそうだ。 押し合い圧し合い、揉みくちゃになりながら出口へ向かう。 今度は狭い改札口に三方から殺到。割り込み押し退け何でもあり。 そんなに急いだって大して時間は変わらんだろうと思うが、何処へ行ってもこれに難儀をする。 「早くしなさい!ワタシから離れないでョ!」 分かってるよ〜・・・・・・これじゃぁ、まるで避難民と同じだ。イテテッ!押すなっての。 昆明は上海より夜が明けるのが、ちょっと遅いようだ。すでに6時半を回ったが、まだ周囲は薄暗い。 駅前は大変な混雑で、出迎えの人が振り翳す旗やら、名前を書いた紙を両手に掲げて、大声で叫ぶ声などが入り乱れる。・・・・・双方相対峙した合戦場を思わせる状景だ。 女房の話ではインターネット予約した旅行社が迎えに来ている・・・・・筈? 東西南北4人でそれぞれの方向を探す。 いたいた!私らの名前を大書した紙を掲げ、キョロキョロしている。 よく見ると私の名前が抜けてる。・・・・・・不届き千万!俺は肝心の財務方だぞ〜 客慣れした胡散臭そうな奴。キザな眼鏡から一層そんな印象が深い。 「一旦オフィスで手続きしましょう、近いですから」 女房はこれからの観光を考え、ホテルなどは何かと動きやすい駅周辺を考えている。 近いなら歩いていけば良さそうなものなのに、もう最初から怪しい。 えっ!これで行くの?なんだ、タクシーかい!・・・・・・(アンタ、ほんとに旅行社の人なの?) 全員が1台に乗れず、仕方なく2台に分乗。 駅前のメインストリートを抜け、昆明中心部に向かっているようだ。 「近いって、随分離れちゃうけど大丈夫?」 「大丈夫ョ、会社が大きいから、きっと中心部にあるんでショ!」 (そんな大きな会社で、出迎え用の車もないのかい!) 昆明は思っていたより近代都会。中心部には高層ビルも結構建っている。 もういい加減着く頃と気を揉むが、そのうち過ぎ行く景色も低層ビルに変わってきた。 文句を言おうにも、旅行社の人間は前のタクシーだ。 とうとう、ここが街外れと思しき橋まで渡ってしまい、着いた所が住宅街に建つ、如何にも年季の入った老朽ビル。其処彼処、壁面のタイルも剥げ落ちている。 「よせ!よせ!話が違いすぎる。ロクな事ないぞ!」 インターネットのホームページが立派だったからといって、会社が大きいとは限らナイ。小さくたってそんなモン幾らでも立派に作れる。 カミさん、降りるなり「何処が近いんだ!」と猛然と抗議に及ぶも暖簾に腕押し。 お舅さんも止めた方がイイという顔。お姑さんはケセラセラ。 相手はノラリクラリと役者が上手。結局、事務所に案内され、話だけ聞く事に。 「大丈夫ョ、話より高ければ打ち切るから・・・・」 おやおや、また大丈夫が始まった。大丈夫って事は安心出来るって事だぞ! 「それよりもアンタ喋らないでよぉ、日本人と分かると割り増し取られるかも知れないから」 ズルズル荷物を引き摺り、裏口と見間違う入り口に手招きされる。 電気の節約かヤケに薄暗いホール。降りてきたエレベーターもガチャガチャと異様な金属音がする。 ・・・・・・・・落ちないだろうなぁ〜不安がよぎる。 途中止まるのではないかと心配するくらい、超スローな上昇。 再びガチャガチャと派手な音を響かせ5階のオフィスに到着。
畳数にして8畳ほどのオフィス。眠そうな若い娘の事務員がひとり店番。 (随分大きい旅行社だネェ〜)女房に耳打ちした。 大理〜麗江観光4泊5日(うち夜行列車泊2日)3食付で760元(11400円) これでもインターネット検索した中では、この旅行社が一番安かったのだという。 しかし、さっき昆明駅前の雑踏で勧誘していた兄ちゃんは、680元でOKと言っていた。 ウ〜ン迷うところだ。女房、ハムレットの心境。 中国のツアーは、安ければサービスも落ちるとは一概に言えない。 寄せ集めのツアーバスにはまったく同じ内容で、片や1000元、こちらは760元、アナタは680元とそれぞれ契約した旅行社によって値段も違う。 じゃぁ、勢い安ければ何でもいいかと決め付けるのも、ちと問題が残る。 去年の九寨溝旅行など、値切り過ぎて大変な目に遭った。 嬌めつ眇めつ父娘で契約書の内容確認。 女房、迷った挙句の大英断!ええ〜い、ままよとこの旅行社に決めてしまった。 普段は思い切りが悪いのに、こんな時だけ決断が早い。 決めてしまった以上、もう迷いはない。リーダー責任を果たし終えホッとした顔。 (オイ、オイ!旅の本番はこれからだぜ・・・・・) ギリギリの鬩ぎ合いに勝利を得た旅行社側は、途端に愛想が良くなった。 若い社長は自前のタバコを取り出し、遠慮するなと私に勧める。 眠そうだった事務員は、シャキッと目を覚まし、お茶を入れてくれた。 こういった中国ならではの、手の平返したサービス・・・・・ハッキリしていて大いに宜しい。 こんな調子じゃ、交渉決裂した場合どういう仕打ちが待ってるか? 「二度と来るな!」の罵声くらいで済めばイイが・・・・・・・・考えたくもない! 明日からの旅行催行、ニコニコ顔で契約書2通作成。 まぁ、作ったって現地では往々にして話と違う場合も多いのだが・・・・・・ ついでに今日の泊まりのホテルも聞いた。旅行社紹介だと安く泊まれる場合が多い。 「100元でいいとこ紹介しますョ」 女房の予算は高くても60元、もうちょっと安いホテルはないかと粘るが 「今時100元以下じゃ、ロクなところはナイ」・・・・・・・メイン観光を決めてしまったから強気! さて、メインのスケジュールも決まって一安心だが、この引き摺る荷物を何とかせねばならない。 それには早いとこホテルを決めるのが一番。 なんせ2日間の着た切り雀、熱いシャワーだって浴びたい。 窮余の一策、冴え渡る明晰な頭脳。女房、リーダーとして神憑りの如く閃いた。 さっき駅前の勧誘兄ちゃんから貰った名刺を取り出す。 あの兄ちゃん、確かホテルも50元でイイと言ってたっけ。 自力観光しようと思っていた昆明の定番観光“石林”をツアーに切り替えることで、この難関を突破する腹積もり。 携帯電話に出た兄ちゃん、メイン観光が抜けたことが少々不満な様子だったが、 「まぁイイでしょう」と円満妥結、目出度くクリアの運び。・・・・・万歳三唱 一家の荷物ごと1台のタクシーでは無理と思われたが、トランクに入りきれないのは座席にまで抱え込み、ギュウギュウで指定されたホテルに向かった。
「ナンデ!なんで駄目なの!旅行社の了解を取ってるのに!」 カウンター越し、身を乗り出すように交渉するカミさん。お舅さんも横から助太刀、お姑さんは傍に居るだけ。 タクシーから降りた時、今までの経済(エコノミー)旅行ではお目に掛かった事のない豪華ホテル。 まぁ、ここじゃ50元なんて、とても無理々と直感していた。 期待薄の面持ちで外で待つ私は悠然と一服。 途中経過報告にお舅さんがやって来た。手にはホテルのパンフレットが握られている。標準ツイン部屋で268元と刷られていた。 ホテル側も旅行社の紹介なら100元まで値下げすると歩み寄ったが、女房頑なに拒否。 お舅さんも、さすがにこれは言う方が無理と早々に引き上げてきた。 「今戻ってくるから、ここで待っていよう」・・・・・・気の早いお舅さんは撤収準備 その通りに、間もなく瀟洒な正面玄関から出てきたカミさん。 両腕で大きく輪を作りOKサイン。一同まさかマサカで驚きを隠せナイ。 「日本語は絶対喋っちゃダメョ」・・・・・・耳元で念を押されてチェックイン。 安く泊まろうとすれば、私はいつも肩身が狭い。 部屋に入ってみて又驚いた。これなら文句の付けようがない。有り難くって涙が出るるくらいだ。 九寨溝の賓館と比べれば月とスッポン、雲泥の差は歴然。 思わず感涙に咽び、安堵と溜息を漏らす・・・・・・・ちょとオーバーか。
一年中花咲き乱れる「昆明世界園芸博覧園」に行くという話だ。 支度を終え、義父母にはいつも迎えに来られるから、今日はこちらから出向く。 「コンコン」ドアを開けて部屋に入った途端、思わず後ずさりした。 今回は私らにすれば高級ホテル。それなりの節度があって欲しい。 義父母にすれば3っ星も2っ星も一緒。部屋には洗濯仕立てのTシャツやパンツが所狭しと満艦飾。 着替えより食料の方が多かったのだから無理もない。 長丁場このスタイルで行くのだろうか?・・・・・間に合わんだろう いよいよ中国個人経済旅行の本番である! 2日間列車に揺られて、着いたその足で観光に出発とは、まったくイイ根性だ。 こっちだってとっくに覚悟は出来ている!・・・・・・と思う。 それにしても明日行く石林観光ツアー。送迎付き1日観光、入場料、昼食も入って80元(1200円)と異常に安いのが気に掛かる。 又意外な落とし穴が待ち受けているのだろうか? まぁ、考えたってしょうがない。明日は明日の風が吹く、どうにかなるさ。 さぁ、進軍ラッパを吹き鳴らせ!打って一丸、吾れ往かん。 皇国の興廃この一戦にあり・・・・・・・・(関係ないか) 3章 油断大敵・花より100元へ続く・・・・・・・・・ |