| 中国初見参物語 |
| 4.ありがとう〜さようなら上海の巻 |
| 運命の夜は明けた。昨日より更に気が重くなった、心臓はドキドキである。 今日は豫園と露天の自由商場に連れて行ってくれるらしいが、何処か上の空で気もそぞろだ。 弟夫婦とは現地で待ち合わせという事で、お舅姑さんと先に向かう。 自由商場は活気に溢れ、見渡す限り露天の店がひしめき合って異様な熱気が渦巻く。 衣料品、傘、日用陶器、人形、ライター、ブラジャー、食料品、果てはコピー時計まで何でも有る。どれも安物ではあるが、見て歩くには飽きない。 気に入ったモノがあれば、すかさずお舅さんが値切ってくれる。 言い値でも安いのに交渉で半値になってしまう、全く気の毒になってしまう位の値切り方だ。 残念ながら、2000年に行った時は影も形も無く撤収されていて、一区画の建物の中に閉じ込められて往時の面影は無くなってしまった。
自由商場から豫園まで歩いてもすぐで、400年を誇る古典庭園が素晴らしく定番の上海観光コースでもあり、毎日大変な人で賑わっている。 これぞ中国という独特の建物が軒を連ねた狭い通路を抜けると、池があってジグザグの九曲橋の中央に一休みできる湖心亭という古い楼閣がある。 その池の前が豫園入口で、お舅姑さんがチケットを買いに行っている間、私は池を廻る柵にもたれてチョイト一服の火を付けた。
遠くで私を呼ぶ声「早く来い!」とお舅さんが手招きで叫んでいる。 慌てて煙草を足でもみ消して急ごうとした私の目前に、眼光鋭い一人の小男が立ちはだかる。 いままで物陰に隠れて野獣が獲物を狙うが如く、私がタバコを捨てるのを虎視眈々と待ち続けやっと現行犯御用、正に鬼の首でも取ったように声高らかの勝利宣言だ。 私は鳩が豆鉄砲を食らったようにキョトンとして、何事が起こったか未だ理解できないでいると、お舅姑さんが飛んで来て猛反撃を始めた。 腕に管理の腕章をしたおじさんは、私が揉み消したタバコを拾い上げ、これ見よがしに高く掲げ、「証拠はコレだ!罰金払え!」と目がこぼれんばかりに剥き出して怒鳴りまくる。 ナンノ此れしきでは負けていないお舅姑さんも「この人は外国人で知らなかったのだから仕方ナイダロ!」と口から飛沫のようにツバを飛ばしてステレオで対抗。 普段は物静かで大人しいお姑さんと思っていたが、ナニナニ髪を振り乱しての抗議奮戦。 私を庇っての団結抗議は有り難いが反面フト思った。 結婚してから喧嘩でもして娘を叩こうものなら、この調子で集中砲火を浴びせ掛けらたら、俺など一溜りもないナァと言い知れぬ恐怖を感じた。 周りには人が集まりだし、双方如何に自分の方が正しい言い分かを今度はヤジ馬に訴え出す。当事者である私は一人ポツネンと隅に追いやられ惨めを誘う様。 やがて遅れて来た弟夫婦も加勢に廻り、収拾がつかなく成り出した。 攻防戦は20分くらい続いただろうか、もっと長かったかも知れない。 恐る恐る「お舅さん、罰金払いましょうョ」と講和を持ち掛けた。 我が軍はまだまだ意気軒昂だったが、仕方なく折れた。罰金10元(130円)をクシャクシャにして投げつけるお舅さん。弟はまだ「払う事はナイ」と息巻いていた。 管理人の勝ち誇ったような勝利の雄叫び・・・・・・・・コレを聞いてあわや再燃か!を何とか押し留めた。 私ならこれだけヤリ合ったら、暫し興奮が覚めやらぬ所だが、案外一同ケロッとして笑いながら「イヤ〜駄目だったかァ、残念残念」と、ちっとも残念らしくない。 ダメもとでも一応掛け合ってみる程度だったらしいが、私にはとてもそう見えなかった・・・・・ それにしても私はいまだかって、親にも兄弟にも此れほど守られた事も加勢された事もナイ。 新鮮な驚きと同時に家族愛の強さに初めて出会い、心地よい感動に包まれた。 明日は日本に帰る最後の夜、家族揃って一緒の食事を終え全員でホテルに戻った。 言い出し難く延ばしに延ばして来た結婚承諾の話を、今こそせねばならない・・・・・・・・ お舅姑さんも何処か待ち望んでいる風情も感じられなくもない。 先程の一件で興奮と感動が覚めやらぬ私は、この人達と家族になろう、なりたいと思ったら案外スッと切り出せた。 勿論言葉では無理なので、初級中国語本の単語や会話集の中から抜粋して繋ぎ合わせ〔結婚したら娘さんを大事にして幸せにします〕何とかそれらしい内容文を書いた。 それを読んだお舅姑さんは大きく頷き、立ち上がると手を差し伸べてくれた。 固い握手を交わし胸に込み上げてくるものを感じ、肩の荷が一遍に下りた。 弟もカタコトで「オニイサン」と呼び握手を求めてきた。 翌日も虹橋空港まで見送りに来てくれて、私達の姿が見えなくなるまで手を振ってくれたお舅姑さんに改めて愛情の深さを感じつつ、一路帰国の途につきました。 東京に戻り彼女と5日ぶりの再会。お舅さんが空港で渡してくれた手紙を訳して聞かせて貰う。「私達は貴方たちの結婚を祝福します。貴方たちが健康でいつまでも仲良く暮らせる事を毎日祈っています」・・・・・・・・・・それを聞いて私の目に不覚にも又一筋の涙が溢れて来た。 両親挨拶〜中国初見参物語・・・・・・おわり |