上海の厳しい現実篇

6.貧乏の定義 U

                                                     2006年3月
 上海では昔から男も女も、みんな商売をしたがる傾向が強い。
勿論、それには何といっても先立つものが必要なのだが、残念ながら多くの一般庶民にはそんな余裕などある筈がなく、特に若者にとってそのチャンスは限りなく少ない。
そこで多少のパソコン知識を持っている若者は、お手軽に店舗が開けるインターネット商売に目を付けた。
殆ど元手なしで、手っ取り早く経営者の気分が味わえるこの商売は、瞬く間に中国全土に広がったが、反面、それほど甘くない現実も待ち受けていた。
お金がなくて始める人が多い訳だから、当然、在庫を抱えて商売する人はなく、卸元にコネを付けて、代理販売で利ざやを稼ぐ人が大半を占めているのが現状でもある。
例え利益は薄くても、飛ぶように売れればおいしい商売ともいえるが、パソコン1台が安くても5000元(75000円)もしては、まだまだインターネットでお買い物をする層は薄い。
中国のインターネット人口は、間もなく1億人に届く勢いといわれているが、まさしく店多くして客が少ない実態が浮かび上がってきそうで、簡単に商売を始められたものの、サイト運営者にとっては思ったほど儲からないのが現状のようだ。

 だからといって、手を拱いてもいられない彼ら彼女らは、どこに活路を見出して行ったかというと、宣伝をかねたオークションの出品に目を向けた。
中国にも日本の楽天やヤフーのような有料サイトもあるが、まだ成熟していないインターネットオークション事情から、無料のサイトも沢山あるので、彼らはここを使って勝負をしてきた。
本来はオークションサイトに宣伝は出来ないのだが、中国ではまだ取り締まりきれずに野放し状態なのが続いている。それを知っている上で、目立たなきゃいけないからと、1元スタートなんかの大赤字覚悟を仕掛けてくる。
だが、そんな思惑など通用しないのに気が付く。甘い見通しなど、もう木っ端微塵に打ち砕かれた。

 なんせ無料サイトを見に来るような人は、自分と同じ貧乏人が多い訳だから、サイトのアクセス数は増えずに、オークションの方だけに関心が集中する。
買う方は少しでも安い方がいい訳だから、買い叩くように締め切りが迫っても値は大して上がらず、みんな虎視眈々とギリギリの一瞬を待つ。
壮絶な攻防戦は、出品者も損をしたくないのでIDを変えて参戦してくるから、何ともシッチャカメッチャカな面白い展開になってくる。結果、運悪くタッチの差で負けることもしばしばで、仕入れ値100元の物が、時には5元で落とされたりしてしまう。
出品者が損を考えて無視すれば、規約違反で以後のネット上からは締め出されるし、ネット販売を続けたければ送るしかない。
人事ながら、こんな事をしていては、とてもこれ一本では食べていけないだろうと勘ぐってしまう。
そんなことなら、最初から損をしない金額を指定してスタートすればいいと思うが、それでは誰も相手にしてくれないし、値段を吊り上げようと偽ってオークション参加をすれば、出品者自身と見抜かれて、轟々たる利用者の非難を浴びてしまう。
それだけならまだしも、安く売る気がないのに出品したかどで、資格を取り消されてしまう事にもなりかねない。
どっちにしても痛し痒しの選択であることには変わりなく、元手の掛からない商売も、それなりのリスクと辛さがあるようだ。

100元のものを5元で上手くせしめた方は、日を置かずして自分のサイトに、堂々と写真付きで80元くらいの値を付けて載せてくるのだから、貧乏人同士でも情け容赦はない。

つづく

2006年3月30日分、次回更新まで中国ランキングのクリックよろしく。

 やはり元手の掛からないインターネット商売で儲けるのは、まだ時期尚早の感がある。
それでも中国の若者達は明日の成功を夢見て、このバーチャルの世界に集まってくる訳だが、実態はいつしか貧乏人の共同体のような趣を帯びてきている。
そこには時として中国の現代を凝縮した姿を垣間見ることが出来るし、貧乏から一刻も早く脱出したいと願う人々の焦りや足掻きが、様々に面白い話を生み出している。

 昨年10月、一通の投稿が物凄い反響を呼び、誰もが涙した感動秘話、300元取り返し事件があった。
「あの・・かけそば・・一人前なのですが・・よろしいでしょうか?」で始まる一杯のかけそばの話を、皆さん憶えていますか?
交通事故で父親を亡くし、年に一回だけ大晦日に父親の好きだった北海亭のかけそばを食べに来ることだけが贅沢だった母子三人。その心情に打たれ、こっそり1.5人前のそばをゆでるそば屋の主人。
いつかは堂々と三人前頼みたいと願う、貧しい暮らしの中でも明日への希望を失わない母子に、日本の誰もが感動して一大ブームになりましたよね。
今考えればバブルの絶頂期に、何であんな貧乏くさい話が流行ったのか不思議な気もしますが、人間は物質的な豊かさを享受すればするほど、逆に心の隙間が広がって行った所為かも知れません。
私にはこの300元取り返し秘話が、まさに一杯のかけそばの中国版として、金儲け至上主義が蔓延る現代中国に出るべくして出てきた話のように映りました。
ほんとにいい話でした。なにしろ女房からこの話を聞いていて、不覚にも目頭がウルウルしてきましたからね。



 貧しいけれど仲の良い若夫婦が、好景気の陰に埋もれるように、都会の隅で倹(つま)しく暮らしていた。
投稿内容では、どうやら地方から仕事を求めて出てきた2人らしいが、都会で知り合って所帯を持ったのか、元々夫婦だったのかまでは書かれていない。
真面目に働く二人の収入は、合算しても3000元にようやく届く程度で、このうち1500元を、病気がちで借金に苦しむ夫の親元へ仕送りしていた。
親は農業か自営だったらしく、年金はないようである。
うちのお舅姑さんなんか、少ないとはいえまだ企業に勤めていたから、年金をもらえるだけ幸せともいえる。
残りの1500元から家賃が500元引かれる。ほんとは1000元の家賃なのだが、友人夫婦と共同生活しているので半分の負担で済んでいる。
残った1000元で夫婦の衣食を賄っている訳だが、幾ら物価の安い中国とはいえ、都会の近くに住む身としてはかなり苦しい。
当然、食生活は野菜中心で肉などは滅多に食べられず、朝はお粥、昼は饅頭、夜は野菜料理一品を2人でつつき合いながら頑張った。
夫婦仲は良かったから、若妻はそれでも幸せを感じていたが、しばらく経つとさすがに将来への不安を感じ始める。そこで働きながら出来る副収入の道として、パソコンによるインターネットの代理販売を思い付いた。

つづく

2006年4月12日分、次回更新まで中国ランキングのクリックよろしく。

 そんなギリギリの生活の中で、高価なパソコンをよく調達できたと訝しがる方もいるでしょうが、投稿文では特に説明がなかったので私にも分かりません。
まぁ、パソコンとお金のどっちかを借りたか、中古をローンで買ったかしたのでしょう。
インターネット商売に集まってくる多くの若者も、みんな貧乏の割りにパソコンを持っていますからね、特別不思議にも思いませんでした。
 
 月給1500元の義弟だって、パソコンも最新の携帯電話も持っていますからね。どこからお金を工面してくるのか分かりませんが、いまや義弟に限らず、上海では猫も杓子も携帯電話くらい持っているのが常識です。
お舅さんなんて、まだ一般庶民には高嶺の花だった頃から、思いっきり見栄張って持っていました。
まったく電話が掛かってくることなんて滅多にないのにねぇ。
かれこれ10年前から普及し出だした中国の携帯電話は、当時3000元くらいしましたからね。普通の人なら1ヶ月の給料全部を注ぎ込んでも買えませんでしたよ。
それも今のとは比べようも無いほどデカイ奴でね、そいつを腰に下げている姿は、まるで西部劇に出てくるガンマンの拳銃のようだったとか。
折角、無理して買ったもんだから、ついつい我慢出来ずにそいつを会社まで持って行った。
大っぴらに出来なかったのは、分不相応な物を持っているとワイロを貰って買ったんじゃないかと、あらぬ噂を立てられるのを心配したからだ。
それなら持っていかなきゃいいだろうと思うのは素人の浅はかさ、見栄を張れなきゃ、買った意味がない。
そこが貧乏人の悲しさであり、貧乏人たる所以なのだ。
ごくたまに電話が掛かってきても、わざわざ部屋の外まで出てってね、コソコソ隠れるように使ってた。
その内、携帯電話も急速に普及してきましてね、それほどステータスシンボルの役を為さなくなった。
やっと、気兼ねなく使えるようになったかと思ったら、もうそんな旧式のデカイ奴なんて、逆に見っとも無くって使えなかったというお粗末。
結局、見栄を張りたくて買った高価な携帯電話も、堂々と使えないまま、日の目を見ずにお蔵入り。
こんな無駄なことを、いまだ懲りずにやってますからねぇ。もうこれは直らんでしょう。
おっと!また脱線しちゃいましたね・・・・・・・

 そんなことで、若妻は検索して見付けたアクセサリーの卸し元と代理販売の話を付け、毎日、夜遅くまでせっせと自分のホームページを作った。
定形のホームページだから、極めてオーソドックスな作りではあったが、卸元から送ってもらった写真を貼り付け、よそのサイトの値段も綿密に調べて、自分なりに売れそうな値段を付けた。
インターネット店舗は経費が掛からない分、どこも安く出しているので儲けは薄くなるが、余暇に出来る新しい仕事が増えたことに納得した。

 思い立ってから1ヶ月ほどでオープンした。花輪の列も派手な爆竹もない開店だったが、若妻は嬉しかった。
パソコン画面の中だけの店だが、いっぱしの経営者になった気分も出てきて、明るい希望に燃えた。

つづく

2006年4月20日分、次回更新まで中国ランキングのクリックよろしく。


 競輪、競馬、パチンコなど初めてやった時は、案外、大勝ちするという話は良く聞く。だが、ここで私には博才があるのかも知れないなどと勘違いしてはいけない。
競輪競馬で家を建てた人は無く、のっぴきならない賭事の世界へ誘う悪魔の甘い罠だからだ。
この若妻にもオープン早々、思いがけい大商いが舞い込んだ。
インターネット販売は賭け事ではないけれど、最初にうまい話で釣られることには変わりない。
あれもこれもと気前よく注文してくれたその客は、何回かのメールのやり取りで、金持ちのドラ息子のような印象を受けた。これなら支払いも心配なさそうだと、若妻は素直に喜んだ。
ネックレスや指輪など総額で600元になり、ざっと計算しても100元は儲かることに夫婦して小躍りした。
片手間に商品を右から左へ移すだけで100元も儲かるなら、この調子で1ヶ月やったら本業の収入を上回るかも知れないと、興奮は抑えきれないほど高まった。

 早速、あちこちから500元を掻き集めて商品を仕入れ、今や遅しとサイトへの入金を待った。
日本のインターネット販売サイトは、売りたい人、買いたい人を取り持つ場所の提供だけで、取引の成立以後、お金のやり取りまではタッチしない場合が多い。
それゆえ詐欺まがいに、お金だけ取られて商品が届かないというケースが引きも切らないが、中国はちょっとシステムが違う。
客が代金を先に払うのは同じだが、サイト側が一旦預かる形にして、売る側がその入金を確認してから発送する事になっている。
客は届いた品物に間違いがなければ、サイトに支払いOKの指示を出す。
注文と違っていたり、キズ物だったりで納得出来なければ、支払いはストップされるから、騙し取られるようなトラブルはかなり少ない。いわば客にとって、サイトが安全弁の役を果たしているのだ。

 ところが若妻は初心者ゆえ、このシステムをよく理解していなかった。
客がパソコン画面の写真だけでは良く分からないから、先に実物を見せて欲しいと言ってきた。
初めての取引で舞い上がっている若妻は、それを真に受けて、疑うこともなく発送してしまった。
さぁ、今日か明日かと指折り数えて入金を待ったが、待てど暮らせど一向にその気配がない。
焦った若妻は、困っている旨をメールに託したが、ノラリクラリとはぐらかされるばかり。
今更、サイトに苦情を持ち込んでも、直取引のような状況ではどうにもならなかった。
500元はこの若夫婦にとって大金である。若妻は責任を痛感し、どうしたものか途方に暮れてしまった。

つづく

2006年4月25日分、次回更新まで中国ランキングのクリックよろしく。


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