上海の厳しい現実篇

2.上海の弟弟

 上海に妻と3つ違いの弟がいる。中々ひょうきんで面白い男なのだがチョット子供っぽい。
家族を思う気持ちは人一倍なのだが、どうも実力が伴っていかない向きもある。
残念ながら痩せて背が低いのが玉にキズで、迫力に乏しく押し出しはきかない。
ところが世の中捨てたものじゃない、どうした訳か女にはモテるらしい。
女房子供もいるのによくヤル・・・・・・・・痩せているのに太い奴だ。
私にも一人紹介しろ?と言いたいが、その後のひと波乱を考えると恐ろしくて踏み止まってる。

女には優しいのかと思っていたが、その割には夫婦喧嘩は凄絶で見応えがある。
側に誰が居ようがお構いなしに、プロレス顔負けの熱戦を繰り広げる。
私を含め周囲も毎度の事なので、おざなりに「いい加減にしなさい!」と一応言っては見るが、 その言葉に勢いを得たように益々エスカレートしてしまう。
可愛い顔して嫁さんも負けてはいない。耳をつんざく奇声を発してながら亭主の胸倉を掴んで 金輪際離さず、力任せに振り解こうとする亭主もタジタジのてい。
終いには、ヘッドロック技から往年の荒唐無稽な日活アクション映画を彷彿とさせるが如く、組んづ解れつ床をゴロゴロのたうち回る。
どうも見ていてスマートでない、弟弟には今度コブラツイストか四の字固めでも伝授してやろう。
形勢が亭主有利に傾くと、それまで冷静にジッと成り行きを見守っていた3歳の甥っ子が一気に母親の加勢に回るからおかしい。
そろそろ息が上がってきた頃合を見計らって、お舅さんのレフェリーストップと相成る。
ここまで派手にやったら暫くは口も利かないのが普通なのだが、翌日はケロッとして甥っ子を両親に預けて、いそいそと仲直りのディナーなんぞ出掛けるから夫婦とは訳がわからない。





上海動物園にて
弟一家と記念写真

弟弟はホテルの夜間警備が仕事だから昼間は寝ている。
嫁さんは月給800元で肯徳基(ケンタッキー)にて、アルバイトしているからスレ違いだ。
その弟がある日風邪を引いた。
熱は大した事は無さそうだったが、本人は息も絶え絶えで気分はすっかり重病人である。
何を思ったか父親に電話した。
丁度、例のマンションの内装工事中で現場に張り付いているお舅さん監督に「具合が悪いから一緒に病院に行って欲しい」・・・・・・・・
もうすぐ30歳になろうとしている男の言う事かと、女房に怒りをぶっつけてしまった。
でも何故か私は怒りながらも、とても羨ましい気がしてならなかった。
それだけ親子の情愛が深いという事かも知れないし、子が親に甘えると言う極自然な経験が私には無かったから、余計ジェラシーを感じたのかも知れない。

上海は今、好景気に沸き返り、街中至る所お金の匂い漂う上海ドリームが又やって来た。
弟弟も周囲の喧騒と興奮に遅ればせながら、やっと目を覚ましヤル気が出てきた。
つい昨日まで女の尻とゲームに熱中していたのに、コロッと態度を変え居丈高にのたまう。

「お兄さんみたいに何もしないで一日が終ってしまうのは、スゴク勿体無い。僕は時間がもっと欲しい〜」
・・・・・・・・・オゥオゥ言ってくれるじゃないか。

昼間の時間を利用して、朋友と共同経営で小さな店を出した。
ゲームソフトやCD、電池、VCD(中国にはビデオが無く、その代わりの映画ソフト)などを扱っているが、全部コピー海賊版である。
最初は随分と鼻息も荒かった。「僕だってチョット頭を使えばこのくらいは訳ナイ」と自慢気に札束を輪ゴムで無造作に束ねたのを見せられた。

「ホー!スゴイじゃないか、とうとうやった(成功)なァ」・・・・・・・・・私も思わず息を飲んだ。
「2万元くらいあるんじゃないか?」
「イヤ〜そんなにナイですヨ」と無邪気にはにかむ。

態度からして当然100元札の束と思い込んでいたが、良く々見たら10元札であった。
上海人の見栄っ張りも、ここまで来ると立派立派、拍手喝采ものでアル。
残念ながら、成功の甘い香りは長くは続かなかった。暫くすると売れ行きが急にダウン、卸した店からも返品が相次ぎ青くなった。
元々コピー海賊版のコピーだったから、むしろ粗悪品と言っても過言ではない。
CDは音が飛び、VCDは画面が飛ぶ。電池は極端に寿命が短いし、ゲームソフトも推して知るべしなのだから無理もない。
で、弟弟の上海ドリームは1ヶ月で淡雪のように幕を閉じた・・・・・・・・・・・・

そんな事ではちっともメゲない弟弟が、暇を持て余して遊びに来た。
「お兄さんタバコ幾らで買っているの?」と唐突に聞くから、1個10元だと言うと
「エッ!そんな高く買ってるの、姉さん何処の店だ、俺が文句言って来てやる!」と息巻いた。
何かにつけ一言多いのが玉にキズなのだ。
身内が騙されないように庇う気持ちはありがたいが、如何せん一言多い。
ちょっと前も女房が、昼の5元弁当を弟弟と買いに行って大恥かいたとコボしていた。
アンタの店はオカズの種類が少ないとか、他の店はもっと盛りが良いとか、果てはサービスが悪いとすぐ潰れるなど、昼時の忙しい最中、平気で捲くし立てる。
大きなお世話とばかりに店のおばさんも「そんならその店に行けば!」と切り返されるが、 弟弟は意に介さず「俺はアンンタの事を思って言っているんだ!」と応酬。
結局、弁当の蓋が閉まらないほどのボリュームをせしめ、一人悦に入る訳だが、おばさんにとっては誠に気の毒な話である。

話が横に逸れたが、さっきのタバコ、「俺なら1カートン30元で手に入るョ」と豪語した。
数日して私へのプレゼントと称し、件のマイルドセブン1カートン持ってきてくれた。
確かにパッケージは寸分違わないように見える。
これで吸ってみて遜色なければ、私は今まで1カートン100元で買っていた事になる。
お馴染みになったタバコ屋のアンちゃんの高笑いが聞こえて来るようだ。
恐るべし中国人、蛇の道は蛇、持つべき物は弟弟なのだ!

早速一本取り出し紫煙をくゆらす・・・・・・・・・・・・・ウ〜〜〜ン???

やはり、これも例のCDやVCDと同じで、兎に角辛くて噎せる似て非なる全くの別物であった。
更に「お兄さん今度コーラの偽物、持ってきてあげようか」という申し出は丁重にお断りした。
弟弟の話ではコピー商品は多岐に渡って何でもあるらしく、上海は正にコピー天国だ。

失敗しても憎めない奴、男気十分なれど何処か空回りしている可愛いい奴。
泣くな嘆くな愛すべき弟弟よ、運がよけりゃチャンスはある。ガンバレ!ガンバレ!


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