上海の楽しい人々篇

10.夏休みのアルバイト

                                                       2008年7月
  中国の小中学校は、7月に入るとすぐ夏休みに入る。
日本と違って6月に期末試験があり、8月一杯までの2ヶ月間に渡る夏休みが終わると、進級新学期が始まる。
夏休みは嬉しいが、その前に待ち構えている地獄の期末試験が難問で、どの子供も捻り鉢巻で頑張る。
先生にとっても、この期末試験がボーナスに多大な影響を与えるから、必死にならざるを得ない。

 さて、ビリから数えた方が早い成績に甘んじている甥っ子である。
今更、即席で頑張ってみても成果は如何ほどもないのは分かっていても、お舅さん、お姑さんはいつもより激しい檄を飛ばす!
科目のメインは国語、英語、算数の3科目である。すべてはこの3科目で決まる、他のは眼中にない!

「あんたが頑張って、3科目のうちの1つでも80点以上取ったら100元あげるよ」

可愛い孫でありながら、勉強だけは信用していないお姑さん。絶対に80点なんて取れないと確信しているから、100元の餌という暴挙に出た。

「おばあちゃん、それじゃ、2つ80点以上取れたら幾らくれるの?」

老板(個人経営者)を目指す甥っ子は金には厳しい。
お姑さんも言い出した手前、どうせ取れっこないんだからと、気楽に200元を提示した。

「フ〜ン、それじゃ、もし全部80点以上取れたらどうするの?」

ええ〜い、そんな問答をしている時間さえ勿体無い!寝言は試験が終わってから言えとばかりに、

「ああ、全部取れたら400元あげるよ」

そんなことは例えお天道様が西から上がったってあり得ないと、高を括ったお姑さんは豪語した。



 試験までの1週間、甥っ子はそれほど集中して頑張ったというほどでもなかった。いつものマイペースといった方が近い。
試験結果発表の日、疾風のごとき速さで帰ってきた甥っ子は開口一番。

「おばあちゃん!やったよ、80点以上が2つだ!」

まさか、そんなことは到底信じられない。恐る恐る渡された答案用紙を見ると、これが紛れもなく82点と大きく赤ペンで書かれていた。
お姑さんは慌てた!孫が良い成績を取ってきた喜びより、約束した200元の行方の方が気になった。

 これには後日よからぬ噂が聞こえてきた、先生がより高いボーナスを欲したため、事前に問題を教えたというのだ。
まぁ、賄賂や不正が蔓延している中国だから、例え噂の段階であっても妙に真実味がある。

 お姑さんから女房へ、そして私へと報奨金の200元をどうしたらよいか相談があった。
私は一も二もなく、それは約束したのだから上げなきゃ、この先ずっと嘘つきと言われて、後々200元が十倍も百倍にも跳ね返ってくると警告した。
そう断言できるのは、私も身近で同じような体験をしているからだった。



 私の小学校時代は亡くなった自営業を営む親父が厳しかったので、3年生までは級長も勤める秀才だった。
末は博士か大臣かとまでは行かなくても、それなりの期待は受けていた。
4年生になって、親父の仕事がうまく行かなくなり店を畳んだ。親父は仕事を変り、昼間は家にいなくなった。
子供のとっては家庭の逼迫した事情など、それほどよく分からない。煩いのが居なくなり、これ幸いにと遊び呆けてしまったら、成績はあれよあれよの急降下。
以来、中学を卒業するまで挽回はならず、甥っ子と同じように下位をウロウロする劣等生に終始した。
3歳年下の弟は、私と違って真面目な頑張り屋。成績も中の上くらいで、兄貴よりは期待が持てた。
或る日のこと親父が、通信簿の成績が全部4になったら自転車を買ってやろうと言い出した。
その頃の子供たちの遊びといえば、缶一つで長い時間遊べる缶蹴りとか、人間を馬に見立てて何人も次々と飛び乗る馬飛びなんかで、自転車なんて高額な遊び道具は、印刷屋の倅くらいしか持っていなかった。

当時、団塊世代の通信簿は5段階で、上から大変よくできる、よくできる、普通、やや劣る、劣るとなっていた。
私はあまり主要科目とは関係のない図工とか、雑巾を縫ったり、サンドイッチを作ったりする家庭科が4で、後は普通とやや劣るが半々くらいだった。
弟は本当に真面目な奴だから、一生懸命頑張った。勿論、先生の保身的勇み足など皆無に等しい日本の教育現場で、塾になんか通わせてもらえなかったから、自力で見事オール4の栄冠を勝ち取った。
当然、自転車を買ってもらえるものだとばかり思っていたが、その話は二度と話題に上ることはなかった。
親父にも嘘をつく気は毛頭なかったのだと思う。だが、悲しいかな、先立つ金がなかった。
弟も家の事情は分かる歳、分かっているからこそ、口には出さなかったが相当落ち込んでいた。
時を経て、半世紀も経とうとしている今でも、その話になると弟は、「あんなに頑張ったのに、自転車を買ってもらえなかった」と悔しがる。これは親としても子としても罪な話である。



 そんなことで、私はとにかく一旦は甥っ子に200元を渡し、無駄遣いはよくないから必要な時に少しづつ渡すという約束で預かればいいとアドバイスした。

ところが細かいことで年中嘘をついているお姑さんは信用がない。

「それならお婆ちゃんが預かってくれなくてもいいよ、ボクは伯母さんに預けるから!」

勉強は出来ないが、ことお金に関しては中々鋭い洞察力を持っている甥っ子は、そういうに違いない。

 実際、自分の使わなくなったものを学校の級友に売ったりしたお金や、たまにもらう小遣いなどは女房に預けている。
女房なら、必要な時に使い道も聞かずにすぐ出してくれる、信用絶大な私設銀行なのだ。

口の減らない甥っ子は、ある時こうも言った。

「ねぇ、ニャンニャン(上海語で伯母さん)おじさんのうつ病を治す方法教えましょうか」
「どんな方法なの?」
「お金に困らなくなると、うつ病になるってお爺ちゃんが言ってたから、ボクにね、少しくれたら治ると思うんだ」

あ〜私のいないところじゃ、上海一族はこぞって何を話しているやら。それを聞き耳立てて聞いていた甥っ子が、またヌケヌケと悪びれもせず言うからなぁ〜、まったく油断も何もあったもんじゃない。

 上海の小中学校は夏休みの宿題を山ほど出す。それは折角の楽しい夏休みを、憂鬱に変えてしまうほどの量である。そこでネットにこんな広告が出た、あまり面白かったので是非紹介したい。
出だしの文面から想像するに学生ではなく、34、35歳の大人と思われる。
以下には淡々と標準価格が明示されていた。

私は今生活にとても困っています。そこで夏休み期間中、小中学生のお手伝いをしたいと思います。
1.
小学生向け宿題代行 1年生〜3年生 1科目につき32元
小学生向け宿題代行 4年生〜6年生 1科目につき40元

2.
クラスの気に入らない者へのいじめ、または仕返し。
身長1.3m〜1.4mまでは、1件につき45元
身長1.4m〜1.6mまでは、1件につき55元
身長1.6m〜1.8mまでは、1件毎に価格相談
身長1.8m以上は応じられません。

3.
女子生徒に想いを伝えるラブレター代筆
500字以内          40元
500字〜1000字以内   60元
1000字〜2000字以内 100元
2000字以上 価格相談

4.
学校に対する恨み晴らし代行(ガラス割り)
1枚につき1階の場合 10元
1枚につき2階の場合 15元
1枚につき3階の場合 20元
4階以上は価格相談 ただし、犬がいる場合と、強そうな警備員がいる場合は応じられません。

以上の普通コースを200元以上注文をいただいた方は会員カードを発行します。
それにより割引サービスなどの特典多数、更にハードな注文にも対応いたします。

5.
親に行って欲しくない進路相談会などへの代行
絶対バレないよう、親が出席できない様々な理由を用意して万全を期します。
1時間以内       40元
1時間〜2時間以内 70元
2時間〜3時間以内 90元
3時間以上は価格相談

6.
先生に仕返し、打ち身擦り傷程度、
1人1回限り 女先生  75元
1人1回限り 男先生 100元
体育先生には応じられません

どうですか?笑っていただけましたか、中国の現代を反映した半分は真面目とも取れる広告でした。

この項おわり

2008年7月7日分、次回更新まで中国ランキングのクリックよろしく。


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