エジプト浪漫旅行
| 2003年3月6日、今日のアブシンベル神殿観光は、今回ツアー唯一のオプション参加だ。 1人28000円と高額だが、まぁ、往復の飛行機代と昼食付だから仕方ないか。 ここは是非見ておかなければ後に悔いが残りそうなので、すでに東京での旅行申し込み時に予約済み。 ツアーの皆さんもポイントは良くご存知で大半が参加するようだ。 アスワン空港AM9:00のフライトなので、朝6:00には起床。ホテル内で朝食を摂り7:30には出発だ。 エジプト旅行もいよいよ大詰め、もう一踏ん張りと我が身に鞭を入れる。 今日の朝は若干の楽しみもある。そう、昨日ナイルの水で作った氷をタップリ召し上がったおばちゃん。 あれからどうなったか?七転八倒だったらちょっと気の毒な気もするが、人の不幸は蜜の味、怖いもの見たさも手伝って胸がときめく。 ちょっと早目にレストランへ行ったら、珍しい事に一番乗りだった。 アメリカンバイキング方式なので、大皿片手に一通り好物を取り終え、入口が見える席にドッカと陣取った。これで水も漏らさぬ確認態勢は万全だ。 女房は相変わらずコーヒー1杯と少々の果物、そしてパン一切れ。やっぱり痩せている人は食が細い。 そろそろツアーの面々も、2人3人と間を空けずやって来始めた。・・・・・・いよいよか? 大分顔ぶれも揃ったが、案の定、我儘おばちゃんはまだやって来ない。 見落とす筈などはナイ!あの厚化粧は遠くからでもハッキリ分かる。毎朝レストラン内で、脳髄に響き渡るような甲高い大きな声が聞こえないのが、なにやら不吉な前兆にも感じた矢先。 ジャ〜ン!!・・・・・・その人はやって来た。 「ア〜ごめん、ゴメン、待ったァ〜すっかり寝坊しちゃったぁ」・・・・・・・・誰も待っとりゃせんわい! 愛想笑いで満面を崩し、体調はすこぶる良いのか元気一杯の無頼おばちゃん。 その笑いよしてくれないか、笑うと厚化粧のひび割れが一層不気味だ! 悪い奴ほどよく眠る、憎まれっ子世に憚る、残念!悪徳の栄えた例は、やはりこの世にあったのか。 なんという強靭な肉体!なんという殺菌力!あな恐ろしや、私が一発でやられたナイル川の病菌も、このおばちゃんの毒気には勝てなかったのか〜。
空港に向かうバスの中で、ガイド氏から注意事項があった。アブシンベル行きの飛行機は全席が自由席、着陸間際にアブシンベル神殿が空から眺められる左側席がお薦め。 これを聞いたカミさんは闘志満々。人を押し退けて先を争う事では、中国式は向かうところ敵なしだ! 私が国際結婚をして優越感に浸れるのは唯一こういう時だけ、真に心強い。 フライト1時間前に着いた空港でも、ウチの女房、他の皆さんのようにお土産の売店回りなど目もくれない。 搭乗アナウンスのある30分前には、一人ゲート前に立ち、孤独に耐えて既得権獲得。意気込みが違う。 搭乗開始のランプが点灯するころには、予想通り長蛇の列が出来た。 思惑的中、女房満を持しての臨戦態勢万全。搭乗が始まるや現地人の割り込みで少々揉めたが、3番手で機内に駆け込んだ。搭乗機は両サイド2席、中間が5席の中型機。 モタモタして後続組みに大分先を越され、大きく遅れをとって機内に入った私は必死に女房を探した。 いたいた!前方で手を振る愛しきカミさん。見れば翼を避けたベストポジションを確保。エライ!えらい! 写真班の特権を行使して、窓際席を譲り受ける。さぁ、これで準備万端だ。 アブシンベルまで180km、飛行時間にして40分足らず。居眠りしている余裕はないぞ〜!
飛行機の窓が汚れていたせいか、綺麗にクッキリとは撮れなかったのが悔やまれるが、空から見たアブシンベル神殿は神秘に満ちて又格別の趣があった。 隣国スーダンの国境まで僅か30km、エジプト最南端の地アブシンベルに着いた。 3時間後のPM1:00には見学を終えて、ここに戻らなければならないから忙しい、忙しい! 空港から神殿までは割りと近く、バスで20〜30分の距離。海のように広いナセル湖の遥か先には、ピラミッドも幾つか見えた。 さすがに今日は暑いと見えて、トレードマークのジャケットを脱いだガイド氏。トレーナー姿の胸に付いているエジプト古代文字の刺繍が中々小粋だ。 「皆さ〜ん、私の今着ているトレーナー、アナタの名前を古代文字で刺繍して10ドルで作ります。」 (ナ〜ルホドそういう事か、それで脱いでいたのか。中々演出がうまいぞ。) 「これは普通のお土産品ではありません。シッカリしています。勿論、半袖もありマス。いかがですか?」 普通のお土産でなかったら、何のお土産なのか?まぁ、深く考えてもしょうがない。 私はTシャツがどういう訳か好きで、どこへ行っても数枚は買い込んでくる。 だが困る事は、背が低い割りに横幅があって、おまけに腹が出ているから中々合うモノがない。 アメリカサイズならMでも着られるのがあるが、それだって実際に着て見なければ分からない。Lサイズなら無難なのだが、今度は裾がお尻まで隠れるほど長い。要するにTシャツの似合う体型ではないのだ。 旧日本人とでも呼べるこの体型は、私らの年代には結構多い。話はちょっと横にそれるが、随分昔、まだ青雲の志を抱いていた頃に、パンタロンという裾の広いズボンが世界的に流行った。 この折、友人がアメリカを一人旅して戻って来た。土産話を聞きに行った時、アメリカで買ったという目の覚めるような明るいブルーのズボンを見せてもらった。 かなり長目なので、知り合いの洋服屋に持ち込み、裾上げしてもらったそうだ。 後日会った時、そいつを自慢気に穿いていた。 なんとなく直す前に見せてもらったモノと雰囲気が違う。すぐには分からなかったが、暫らくして気が付いた。 パンタロンではなくストレートのズボンに変貌していたのだ。この友達も旧日本人の典型、足がかなり短い。裾上げの際、膝から広がっている肝心の部分が、思い切りよくカットされていたのだ。 日本人の足はアメリカ人の膝までしかないのか?・・・・・・・笑い話のような悲しい話を思い出した。 それでも懲りずに買ってしまう私。あの刺繍が気に入ったので、無難なLサイズを3枚頼んだ。
アブシンベル神殿入場の際、ショルダー鞄の中まで開けられての厳密なチェック。 チケット売り場から見た小高い丘の向こう側に神殿がある。照り付ける太陽は眩しいほどだが、ナセル湖から吹き渡る心地よい風で、暑さはそれほど感じない。 小高い丘を回ると、青々と水を湛えたそのナセル湖が眼前に広がった。黄土色の砂山と青い湖の対比が実に鮮やかで魅入られる。 アブシンベル神殿には大神殿と小神殿があって、左上の写真は小神殿。 来た方向からすると手前に大神殿があるのだが、ガイド氏は「先に小神殿へ行きます」と訝るツアーの面々を、お構いなしに引っ張って行った。 時間がないのに見学順路が逆のようにも思ったが、後になってハハ〜ンと膝を叩いた。 さすがは商売、ガイド氏は隅から隅まで分かっていらっしゃる。小神殿も保存状態がよく価値が高いのだが、どう見ても大神殿の圧倒される迫力には及ばない。 そこで先に小神殿を見学するのがセオリーのようだった。 小神殿の前には6体の立像が彫られており、正面で見上げると大神殿と同じくらいに巨大に感じるが、像の高さは大神殿座像の半分で約10メートルという話だった。 ここはルクソールのカルナック神殿でもお馴染みの建築マニア、ラムセス2世が築いた。小神殿はその最愛の妻、王妃ネフェルタリの為に建てたと言われている。 権力に物を言わせて、一つの巨大な岩山を神殿にしてしまった発想には恐れ入る。 幻想的な内部のライトアップ。柱表面や周囲の壁面、そして天井に至るまですべて物語を表現したと思われる絵が彫られ、3300年前の色彩が鮮やかに残っていた。
続いてメインであるお隣の大神殿まで戻って見学。 遥々エジプトへこれを見に来たといっても過言ではナイ! 私のエジプトに対するイメージは、まさに此れに尽きるのである。 幼少の頃、絵本や写真などを見て想像をかき立てていたエジプトにとうとうやって来た。 感慨無量・・・・・・ジッと見詰めていると、私の送ってきた人生が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。 映画好きだった父親に連れられて観に行った「サムソンとデリラ」、「十戒」の息を呑んだ海が割れるシーン、社会に出てから自分の稼いだお金で観たエリザベス・テーラーの「クレオパトラ」。 どれもこれも、今ここに目にしているエジプトの巨像と結びついてくる。 忘れ掛けていた懐かしきあの時代の、父や母の優しい温もりが掌に戻ってきたような錯覚さえ憶える。 その父や母はすでになく、一抹の寂しさと共に次は自分の番だという、人生の儚さまで感じてしまった。 アブシンベル神殿はおよそ3300年前に造られたが、アスワンダム建設の煽りで50メートル下の湖底に危うく沈むところを、ユネスコの協力で3900万米ドルの巨費を投じて移築された。 4体の石像は神殿を築いたラムセス2世の少年、青年、壮年、老年の各期を表したもので、1体が重量800トン、高さが20mもある。1体は大昔地震で崩れ落ちたが、それも足元に横たわり忠実に再現されていた。
この岩窟神殿の内部は案外広く、天井も高い。主柱に添えて8体のオシリス神の立像が整然と建っているが、すべてあの自己顕示欲の権化、ラムセス2世を現しているのだそうだ。 壁面の絵画も又完璧な保存で、右上の写真、戦車を駆り立てるラムセス2世の絵など躍動感に溢れている。溢れすぎて馬の足が8本も描かれているのはご愛嬌か。 巨大な石像を含め、4000個のパーツに切り分けられて移築されたとはとても思えなかった。 飛行機にまで乗って来たのに、正味2時間の見学ですべて終了。さぁ、時間も押している急げや急げ!
無事アスワンまで戻り、ナイル川の見えるレストランで昼食後、一旦ホテルまで引き上げた。 暫時休憩後、不参加組みの数人と合流、鉄道アスワン駅に向かう。 今回このツアーに決めた一番の要因は、この夜行寝台車に乗れるからだった。観光はどこのツアーも大体同じコースだから、エジプトの列車に乗れるのは大きな魅力でもある。 アスワン〜カイロまで12時間の寝台列車旅。是非とも中国の列車と比較してみたかったのだ。 派手なピンクの駅舎に着いたのは発車30分前。ガイド氏を先頭にバタバタとホームに駆け込み、指定された車室に荷物を運び入れてホッと安堵の溜息。 車室は二人一部屋のコンパートメント方式、何よりまずもこれが気に入った。 中国式に左右に分かれた2段ベッドを想像していたので、部屋は狭いが十分納得できる。 おまけに専用の洗面台付きとは嬉しい。肝心の水の出がチョロチョロだが許容の範囲だろう。シートは適度に固く快適、就寝時は2段のベッドになるようだ。 更に夕食・朝食が、その都度運ばれて来ると聞いて2度ビックリ。ナント贅沢な・・・・・ 何から何まで中国の寝台車とは勝手が違う。やはり旅はしてみるものだ。 車掌だって満面の笑みで親切に世話をしてくれている。中国の車掌も一度研修にきたらイイ。 薄暗くなりかけたPM6:30に発車して間もなく、ホントに夕食が運ばれて来た。 飛行機の機内食とそっくりで、味の方は決してお勧めできないが、2人だけの個室で食べる列車の晩餐は程よいスパイスが効いて又格別な味がした。 片付けも車掌が一部屋づつ回って回収して歩く。それが終わるとベッドのセット。1車両を一人が受け持って全部こなすのだから、傍目に見ても大変な重労働だ。 これに較べれば中国の車掌は随分楽をしているなぁ〜・・・・・・ 明日の朝にはカイロに着く。窓外はもう真っ暗で、明かりひとつ見えない闇をひた走っている。 エジプトの旅もラストが近い。明日、幾つかの変形ピラミッド見学を残すだけとなった。 ここに至るまでの様々な想いが交錯する・・・・・・・・ 中国人妻にとって行きたくても行けない時期を乗り越え、やっと実現したエジプトの旅。 果たしてどんな思いでこの旅を終えるのだろうか? 現在の中国では中々望めない外国旅行を、若くして経験出来る事に多少とも感謝しているのか? それとも行っていない国のひとつを消化したに過ぎないのか? どちらでもイイ。この人が幸福と感じてくれれば、それが私の喜びなのかも知れない。 私も昔はこうではなかった・・・・・・変われば変わったものだ。 静かになった下段のベッドを覗くと、女房はもう軽い寝息を立てていた。 9.メンフィス・仁義なき戦いへ続く・・・・・ |